ないわー byオタク
済(2022.10.03)
◇ リュウゴ
この場に本来いないはずの4人目の声が響いた。まあ、俺なんだが。グレンは除外。
「どういうこと?ソフィ姉」
首をかしげたルーンが背後のソフィアへと質問する。
「っおふ……んんっ!ツナギの中にもう一人いるってことよ」
あまりの可愛らしさに悶えたソフィアだったが、すぐに立ち直ったようだ。いいな、それ。俺にもやってほしい。
そんなこんなしている内にツナギと体を入れ替える。俺たちが入れ替わった瞬間、ルーンがこちらを怪訝そうに眉をひそめていたが、気のせいだろう。外から見ると顔つきが若干変わった位なものだ。
「さて……」
ちょっとソフィアさん、何ですか。何でルーンの耳を塞ぐんですか。え?どうせ下らないことを言うって?情操教育に悪い?
「失礼だな。このビッグファーザーリュウゴさんに任せておきたまえ」
「いやよ。断固拒否します!」
『で、説明以外でお前は何を言うつもりだ?』
「なに、俺のことをお兄ちゃんと呼んでもらうだけさ」
だってソフィアばっかりずるい。俺も妹がほしいんだぁ~前世じゃ姉がいたけどやっぱ妹の方がいいんだぁ~
「ほら、リピートアフターミー。リュウゴ兄ちゃん」
「リピ……?」
「繰り返し言えってことだよ」
そもそも父なのにどうして兄なのか疑問に思う人がいるかもしれない。しかし……っ!
「リューゴ兄ちゃん」
この破壊力を前にそれは無粋だろう。
上目遣いでこちらを見上げてくる様子は……なんかこう……すごく愛でたい。
「ほれよしよし」
「むにゅ」
気がつけば両手を前に出して頭を撫でていた。次にほっぺたをプニプニする。手のひらでこねくりまわすように。
おや、ソフィアも参戦か。だがここは譲らんよ。さっさと諦めて……ちょっ待て、お前蹴りは……うっ、わき腹ぁ……
俺を文字通り蹴落としてルーンのほっぺたをプニプニしているソフィアの顔はご満悦だ。対する俺はわき腹を押さえてうずくまっている。まるで敗者だ。
『なあ、いろいろと取り込み中に悪いんだけどさ、どうするの?』
「どうする、とは?」
俺たちにとっては庭みたいなものだから忘れがちだが、ここは『魔の森』。世間一般には魔物が多数いる危険な場所だ。多分自殺の名所でもある。知らんけど。
そんなところにいるルーンには何か事情があるのだろう。自分の意思でついてきているソフィアとは違うのだ。
ならば、この小さな少女を親元に送り届けねば……
「家?わかんない」
おおう、ワンストライク。
「親も……知らない」
ツーストライク。雲行きが怪しくなってきた。
「そもそも私……オレ、記憶がないよ」
ストライク……いや、逆だ。ホームランだ。情報量でぶん殴ってきた。
記憶喪失。常日頃から創作物に触れてきた俺からすればかなり慣れ親しんだものだ。生憎と経験はないのだが。いや、やってみるかと言われたら迷いなくNoと言うよ?俺は。
しかし、それすら霞むほどの一人称オレ。あぁ、この感覚はあれだ。最近はずっと感じていなかった――――
「推しが尊い……」
『おいっ』
ツナギから叱責を受けてしまった。いったい何がいけなかったと言うのか。
『空気を読め。少しは自重しろ』
「読んでるよ。本人が……悲観してない」
さて、これはかなり難しい問題だ。何しろ人によって答えの変わる――――道徳とか倫理とか言うやつだ。もっとも、だからこそ、俺は我を通すのだが。
「余計な心配はさせない。うまく収まるのならそれでいい。俺ならそうするが……お前なら違うのかもな」
『さあ?分からないよ』
結局自分本位なだけかもしれないけど、という言葉は飲み込んだ。言わなくてもいい言葉もあるのだ。
眼前では、ソフィアが優しくルーンの頭を撫でている。どうやらソフィアもあまり気にしない派のようだ。
「ルーンちゃん。うちの子になりなさい」
神妙な顔で何を言い出すかと思えば……こいつ、抜け駆けは許さんぞ。
「いやいやこっちで引き取ろう。ウチには包容力最強のモフさんがいる」
くだらない言い争い。こういうのでいいんだよ。
当のルーンは事の趣旨を理解できていないのかのほほんとしている。
ツナギもスッキリした顔だ。自分なりに消化できたのだろう。
『フフッ、そういやルーンって女の子なのか?ソフィアがルーンちゃんって呼んでたけど……パッと見男だと思ってたよ』
………………………………。
こやつ今なんと言いやがった?あろうことかルーンを男だと?
「うわぁ、おま……ないわー」
『へっ?』
ソフィアも両手で口元を覆っている。「えっ嘘……」とでも言い出しそうだ。
「おいルーン、こいつは呼び捨てでいいぞ。あとグルグルしたのもこいつだ。性根が腐ってるんだよ」
『それはお前が……』
「そうよ。呼び捨てには賛成だとして……性根が腐ってるのはあなたの方でしょ?何ツナギに擦り付けようとしてるの?」
『庇ってくれてる……んだよな?』
いや、違うな。これは落とし前はきっちりつけさせるやつだ。湾曲した事実だけで攻めてくるタイプだ。
「ドンマイ、ツナギ」
ルーンは優しいな。他者を思いやれる。
この後ルーンに謝ったツナギは、裏側に引きこもった。可哀想に。恥ずかしくなったのだろうか。
◇
急募。息子をいじって引きこもりになってしまった。仲直りの仕方。
………………………………。
「まあ、それはいいとして……」
ツナギはなんだかんだ言って我慢強いから大丈夫。それにあまり根に持つタイプじゃない。つまり放っておいてもいいということだ。たぶん明日になったら忘れてる。
「ヘイ、焼き鳥」
3人とも寝静まった夜、4人目である俺は火の番をしている。パチパチと薪がはぜる音が心地いい。
そこに5人目……いや、5羽目――――鳥のカウントは1だから1羽目か?――――と言った方がいいのだろうか。とにかく、もう一つの気配が現れる。
「なんだ?」
グレンだ。明日に入る前にどうしても聞きたいことがあったのだ。そのためにツナギと今日の火の番を代わってもらった。結局朝は裏側で寝るのだ。夜更かしも気にする必要はない。肉体的な疲労はどうしようもないが。
「そろそろ教えてくれてもいいだろ?何企んでんだ?明日には着くぞ」
そもそも何の理由もなしにグレンがついてくるはずがないのだ。何らかの目的……おそらくツナギ関連だろうそれがあるに違いない。そして目的地はおそらくグレンの住居。ここまで分かればなんとなく見えてくるが……
名探偵リュウゴの勘が冴え渡るぜ!
「寝ろ」
「ヘイヘイ……」
まあ、いいか。お言葉に甘えよう。
結局何を企んでいるのかは聞き出せなかった。これ以上やっても不毛なだけだろう。それじゃあ俺も寝るとしよう。
テントの中ではソフィアとルーンが眠っている。そこに潜り込むのも無粋なものだろう。今から新しいものを出すのも面倒臭いので、俺は地面に背を着けて寝転がる。星が綺麗だ。
しばらくボーッと星を眺めていたが、少し言うことを思い出した。ただの、忠告だ。
「あぁそうだ。クソみてぇなことしやがったら潰すぞ」
「お前ならばともかく、ツナギを貶めるようなことはしない」
グレンのその言葉に嘘はない。そして、俺の言葉にも。
あいにくこちらの星の並びは知らないが、じっと眺めていれば何らかの形には見えてくる。それは過去にも見たことがあったりなかったり。
(おっ、流れ星)
視界の端で一筋の白い軌跡が見えた。こういうのを見つけた時の気分の高鳴りは、あっちでもこっちでも変わらない。
さて、何を願おうか。取り敢えず――――
(明日もおもしれーことありますよーに。つーか事は自分で起こす)
待つのはやっぱり性に合わない。まあそう願わなくても明日は何かあるだろ。




