重なる、交わる
済(2022.10.03)
◇ ツナギ
「この子がかわいそうでしょ!!」
「まあいいじゃねぇか。無事だったんだし」
「でも気を失ってるじゃない!」
話題に上がるのは、ついさっきリュウゴが助けた少年のことだ。しかしその救い方に問題があった。ソフィアが追及するのはその事についてだ。
しかし諦めろソフィアよ。こいつは人の意見は滅多に聞かない。
「んなことより……ソフィア、体拭いてやれ」
そう言うとリュウゴは、背中に背負った少年を地面に下ろした。さっきまでそのまま湖の中にいたのだ。髪も服も濡れ、肌にはいくつもの水滴が見える。今も額を水が流れたところだ。
「そんなことって……ああそういうこと。分かったわ」
リュウゴがペンダントからタオルを数枚取り出す。ちなみに、現在位置は簡易テントの中だ。この湖の側まで来た時、最初に設置しておいたのだ。
「焼き鳥は……チッ、使えねぇ」
グレンを一瞥したリュウゴであったが、グレンは眠ったままだ。次に起きるのはいつになることやら。
「仕事だツナギ。火ぃ起こせ」
『はいはい』
さて、まずは薪を集めて来ようか。テントを出た俺たちは体を入れ替え、近くに落ちている木の枝を集め始めた。
◇
夜になった。背中はもうすっかり乾き、特にする事のない俺はパチパチとはぜる焚き火を見ていた。頭上には簡易的な物干し竿にかけられた少年の服がある。それらももう随分と水滴が落ちて来ていない。そろそろ乾いた頃合いだろうか。
ソフィアはさっきからずっと少年の方を見ている。自分も疲れているだろうに、食事の時でさえ気にかけていた。どこかの誰かさんとは大違いだ。お前のことだよ、リュウゴ。
「う~ん……揺れる……」
『何かあったか?』
少年の発した声に、リュウゴが反応した。
「寝てたんじゃなかったのかよ」
『フラグが立った音がしたんだよ。もうこうバッ!って』
なるほど意味が分からない。もっとも、それは今に始まったことではないので無視するに限るが。
ソフィアの意識がさらに少年の方に傾いたようだ。これまでも寝言を言うことは何度かあったのだが、果たして今回はどうだろう。
「おいしい……あれ?ここどこ?」
「よかった、起きたのね!?」
ソフィアの顔がほころぶ。少年の緑の瞳がソフィアを見据える。少年に駆け寄ったソフィアは、その肩を揺らしながら心配の言葉を投げ掛ける。
「大丈夫?どこも痛くない?苦しくない?」
「あぅ、わー、だいじょーぶ」
頭をガックンガックン揺らされながらも少年が答える。また目が回ったんじゃなかろうか。ソフィアも人のことを言えないのかもしれない。
「よかったー」
「ねえ、お姉ちゃんたちだれ?」
抱きついたソフィアに少年が質問する。それに対し、ソフィアはまず自分の名前から教えた。
「私はソフィア。よろしくね」
「ソヒ……ソフィ……、ソフィ姉!」
「……」
「ソフィ姉」呼びに、どうやら固まってしまったようだ。自分の名前を告げた直後の顔そのままで、ソフィアは少年を見詰める。そして……
「ど……どうしよう……私……お姉ちゃんになっちゃった……」
頬を染めながらこちらを振り返ってきた。その顔には見覚えがある。悪意がない時のリュウゴの顔に似ている。こういうのをたしか純粋って言うんだっけ?
「どうしたの?ソフィ姉」
「な……何でもないわ。全部お姉ちゃんに任せなさい?」
首をかしげた少年を今度は後ろから抱きしめる。それに一瞬だけ戸惑いを見せたものの、少年はすぐに体重を預けた。なんとも微笑ましい光景だ。
「ん?」
別にそのままでもよかったのだが、少年と目が合ってしまった。ならば俺も自己紹介といこう。
「俺はツナギだ。よろしく」
「ツナギ……あ、グルグルの人!」
「それはちょっと違うわよ……」
グルグルの人って……まあ間違いではないのだが。ある程度は仕方ないとは言え、リュウゴの言動が俺のものだと誤解されるのはいかがなものか。最近はすごく積極的に擦り付けようとしてきている気がする。
「……え~っと……名前聞いてもいいかしら?」
「名前?」
「そう、名前」
ソフィアはあれをやったのがリュウゴだと知っている。だから俺を擁護してくれたのだろうか?
それはそれとして、確かに名前は気になる。今までずっと頭の中で少年と呼んでいたが、名前で呼んだ方がよっぽどいい。
「ルーン……」
少年……ルーンが口を開く。
「名前はルーンだって言ってた」
「そう、いい名前ね」
ソフィアが薄く微笑みを浮かべる。ルーンはそれに何かを重ねたようで……
『よし。じゃあルーン。これから俺のことはリュウゴ兄ちゃんと呼べ』
その空気をリュウゴがぶち壊した。これだからこいつは……
「えっ?声?どこから?」
ルーンが見えない人物をキョロキョロと探す。しかし辺りに人影は見当たらない。それもそのはずだ。だってこいつ、俺にしか見えないのだから。
『オラ代われ代われ』
うーん……ま、いっか。




