表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
34/89

まどろみの底の記憶

済(2022.10.03)



「…めん……ごめんね……」


 覚えている(・・・・・)のはどこからだろう。目の前の……自分に声をかける人物は誰なのだろう。疑問はいくつも出てくる。


「でも……大丈夫。彼らはきっと……あなたを見捨てないから……」


 自分を抱きしめながら、目の前の女性が大粒の涙を落とす。それが自分の顔を伝って、髪を濡らして、さらには服にまで。でも、不思議と嫌悪感は出てこなかった。


「最初はちょっと苦しいかもだけど……」


 自分には、何が起こっているのか分からない。何があったか、なぜ今の経緯に至ったか。それでも、目の前の女性に気を引かれる。自分を包み込むその手は……とても暖かかった。


「もう……時間ね……」


 喧騒が聞こえて来た。その声は、憎悪や欲望……とにかく良くないもので満ちていた。でも、怖くはなかった。この凄惨な景色(・・・・・)も、ツンとした匂い(・・・・・・・)も、舌がしびれる(・・・・・・)ような辛さ(・・・・・)も、悪魔の囁き(・・・・・)も、そして、全身を蝕む痛み(・・・・・・・)も、全て怖くなかった。いや、包み込んでくれた。


「ルーン」


 気付けば、涙が頬を伝っていた。なぜだろう。分からない。分からないことばかりだ。

 表情が崩れず、心にも大きな波は訪れていない。しかし小さな波紋が、揺らしたのだ。


「あなたの名前よ。ルーン」


 白い光が溢れ、自分を包み込んだ。瞼がだんだんと重くなる。

 もうこのまま、二度と会えないような気がした。だから……叫んだ。叫びと言うにはあまりにも小さい……されど喉の奥から絞り出した声で。


「私は大丈夫。心臓が無くても生きる術は、知っているから」


「待って――――」


 その言葉に女性は薄く微笑んで……


「あなたの旅路に幸あらんことを――――」


 体が勝手に動いた。手を伸ばし、踠いた。しかし、届かなかった。


 最後に見たのは、立ったままこちらを見つめる女性の姿。綺麗な白い服を着ている。それが胸の辺りから赤く滲み、その赤がそのままずり落ちてきたようだ。

 苦しそうに息をしている。それがあまり良くないものだということは、何も知らないなりに分かった。


 そして、瞳が閉じた。






「わぷっ、ガボッ……」


 次に目を覚ました時、そこは水の中だった。突然の事態に、またしても理解が出来なかった。

 手足を動かし、みっともなく足掻く。それでも時間の問題だろう。


 なんで……どうして……


 頭の中を巡るのはそんな思考のみ。暗い湖の底は、自分を写し出した鏡のようだった。




 変化は突然訪れるものだ。それが良いことであろうが悪いことであろうが。




 今回は、良いことだった。手を引かれ、まばゆい光に目を薄くするも、すぐに視界は確保できた。

 目が合った気がした。掴んだ手が、湖の中から引っ張り出してくれた。顔は逆光で見えない。でも、空の青さはよく分かった。

 そして……


「へっ?」


 自分でも間抜けな声が出たと思う。

 視界が急激に切り替わったのだ。空の青と森の緑。そして湖面に写る歪んだ自分の顔。これらが何度も切り替わり、混ざり、そして……気を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ