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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
32/89

黒歴史 その1

黒歴史……その……"1"……ッ!?

ということでまだまだある。可哀想に。やるのはしばらく先。


済(2022.08.23)


◇ リュウゴ


「シャオラ死ねクソジジイィーーー!!!」


 人混みを抜け、俺は眼下の老人(オイボレ)を見据える。思い返すのはつい先ほど考えた作戦。と言っても、かなりお粗末なものなのだが。

 その作戦とは……


 (リュウゴ)がなんとか受けるから、お前(ツナギ)はそこに攻撃をぶちこめ、というもの。


 対ジジイのシミュレーションに余念はないが、これまでの俺の手札ではどう足掻いてもジリ貧だった。だからこそ、付け焼き刃の初見殺しで押しきる。


 ジジイが懐から剣を取り出した。最初は柄と鍔のみだったが、まばたきする間に刃が出現していた。

 跳躍したら、翼でもない限り必ず落下するものだ。万物共有の摂理、重力によって。今は(・・)それに甘んじよう。俺の小さな体は、正常な物理法則に従ってジジイの下へと向かう(落ちる)。そして剣と剣が交差するところで……


「【叛逆】」


 宙に波紋が広がり、金属同士が擦れる音が響き渡った。シャッともシュッともつかない音がして剣同士が離れる。完全に意表を突かれたジジイが目を見開いた。眉毛に潰されたような重い瞼が上がったのだ。






 ここで簡単に説明しようか。俺の【アーク】について。ツナギのが魔術を付与する【エンチャント】だとしたら、俺はいったい何なのか。

 落下途中に止まった、時を止める能力だろうか。それとも別の能力で、止まったのは何か別の条件を満たしただけなのだろうか。


 結論から言おう。後者だ。ただ、リセットされただけだ。

 度重なるトライアンドエラーの結果、時に死にかけ、時に激痛に悶え、俺は俺の特性を理解した。それこそが……


 状態のリセット。そして法則の無視、だ。


 落下途中に止まったのは、状態のリセットが作用したというわけだ。状態と書いたが、これは怪我や病気ではなく、運動状態のことを指す。

 そして、法則の無視の方。これはついさっき実演した。慣性を無視したのだ。俺の体は空中でピタリと止まり、ジジイの予測した剣同士の衝突点まで落ちきらなかった。しかしそう何度も通用しない。だからこその付け焼き刃の初見殺しだ。


 ……長々と語ったが、要は摂理への叛逆。よってこの力を【叛逆】と名付けよう。

 いいね。俺にピッタリだ。






 剣は対処したが、体勢を崩すには至らなかった。ジジイの足が蹴りを放つ。


「グッ」


 鳩尾に的確に放たれた蹴りを、バックステップで勢いを少しでも減らす。しかし小さな体では簡単に吹きと――――ばない。


(【叛……逆ぅ】……)


 運動エネルギーのリセット。それを活用することで、相手に張り付きながらの戦闘を可能にする。もっとも、ダメージはしっかり受けているが。

 子供の小さな手ではたとえ老人とは言え、その細い足首を掴むことができない。だから、ズボンの裾を捻るように掴む。そこを起点としながら空中での姿勢を安定させた俺は、剣を持った右手を掲げた。


「カフッ……お膳立ては……十分だよなぁ?」


 ちょうど真上から、炎が降ってきた。グレンだ。炎が剣の周りに集まり、しかし所々に燃え移る。それは俺がずっと被っていた骨のお面(・・・・)も例外ではなく……縛っていた紐が焼き切れ、地面に落ちてカランとした乾いた音が鳴った。まずいな。素顔がさらされてしまった。まあ、俺()いいけど。


「【エンチャント】……」


 俺に代わって剣を握ったツナギが、燃え盛る炎を付与する。荒々しく燃えてはいるが、周囲を気にする様子はない。現に、エルムが被害が出ないように対処している。読み通りだ。


『っし!ぶちかませ!』


 俺は自分の作戦が綺麗にはまったのを感じた。そしてツナギが炎剣を振り下ろし……


「うれしいのぅ、今はただ……お主らの成長が」


 俺が握ったズボンの裾を切り落として、ジジイが再度構えを取る。ツナギが、ただ剣を90度まっすぐ振り下ろす間に、この老人は体勢を整えた状態で迎撃の準備までしたのだ。あえて受け止めようとするのは、孫を想う心故か……


「『聖剣』……曼珠沙華まんじゅしゃげ


 ジジイの持つ剣の先が幾重にも割けたように見えた。その一閃一閃が炎を切り裂き、霧散させる。剣を振るう腕はブレて見え、百本とも千本とも取れる剣先はついに……こちらの剣を半ばで折った。

 ツナギはそれに手応えを感じなかったらしい。気付いたら折れていた、と。


 体重も乗っていない、炎も消えた、ただ片手で振り下ろしただけの剣のなんと軽いことか。お互いの鍔が打ち付けられ、ツナギは……吹き飛ばされて下に落ちた。


 周囲にはどよめきが広がっている。それも当然だろう。端から見ると、俺たちは野蛮な子供だ。さっきまで被っていた骨のお面もそれに拍車をかけている。ボロボロの服にボサボサの髪、そして汚れた肌。森から来た蛮族です、と言っても疑う者はいないだろう。

 何故お面を被っていたかと言うと、それはツナギの希望だ。顔バレは嫌らしい。


「ハハッ……やっぱりすごい……じいちゃんは……」


 もっとも、その事は今現在頭になさそうだが。しりもちをついた状態で顔を上に向けるツナギ。その先には、ジジイがいる。


「さて、よく来たのぅツナギ。今日が祭りじゃ。存分に楽しめ」


 いきなり襲いかかったことを責めるでもなく、むしろ褒めているように声が投げ掛けられる。そしてツナギが立ち上がろうとして……


「確保ーーー!」


 横からタックルのように突っ込んできた男に取り押さえられた。


「え?」


 状況を理解していないツナギが呆けた顔で声を出す。あれよあれよという間に地面から生えてきた土製の牢屋に囚われる。おそらく魔術でできたであろうそれは牢屋というよりは鳥かごと言った方がよいのかもしれない。


「ニュー、相手はガキだぞ。ムキにならんでも……」


「ガキだろうが何だろうが厄介には変わりねぇんだよ!やるなら他所でやれってんだ!私の管轄とこに来るんじゃねぇ……!」


 妙な恨み言を口にする騎士に捕らえられたツナギは奇異の目で見られる。


「クックックック……」


 笑い声が周囲に響き渡った。この低い声はエルムのものだ。普段は気に食わないのだが、今回ばかりはその気持ちも分からんでもない。だって俺ももう限界だ。さっきから肩が震えてる。


『アッハッハッハッハ!』


 俺は腹を抱えて盛大に()う。

 別にそのつもりは全然なかったけど……ドッキリ大成功ってことで。


 俺たちに嗤われたツナギは当初キョトンとしていたが、顔に手をやり、自分の顔を隠すものが失くなっていることに気付くと同時に理解した。


 少なくともその後の『聖誕祭』は楽しめなかっただろう。

 僅か10秒ほどで突っ込んでからやられるまで。しかも第一声は「シャオラ死ねクソジジイィーーー!!!」。すぐに制圧されたが、まだ騒ぐ人もいたため某腹黒い『聖託』さんが「実は余興でしたぁ~」と発表。さらには皆の頼れるレイさん(じいちゃん)が名前を呼んだせいで名バレ&炎で仮面が焼けて自爆の顔バレ。その上、地上波ではないものの魔道具による地方放送でその場にいない人にも見られたし聞かれた。

 以後生暖かい目で見られることになりましたとさ。めでたしめでたし。


 リュウゴの言動も端から見るとツナギとしてカウントされるからタチが悪い。その上リュウゴが積極的に擦り付けてくる。やられる側はたまったものじゃない。



 これで取り敢えず過去編終了です。

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