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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
28/89

無垢の施し

済(2022.08.23)


◇ リュウゴ


 顔を上に向けると、そこには炎がいた。いや、炎のような鳥と言った方がいいだろう。

 橙色の羽毛で身を包み、首もとではマフラーのように炎が燃えていた。


「誰……?」


 日本のサブカルチャーに触れていないツナギにとって、このような事態への対処は心得ていないだろう。かと言う俺も予測できたわけではないのだが。

 鳥は依然としてこちらを鋭い目で見つめている。このままでは状況は動かないと感じたのか、ツナギが口を開いた。そもそも先に質問したのは向こうからだ。


「僕はツナギ。ねえ鳥さん、ここがどこかわかる?僕たち『聖都』に行きたいんだ」


 辺りが静まりかえった。風が吹き、木々が揺れ、葉が擦れる音しか聞こえない。その間は一瞬だったのだろうが、かなり長く感じた。

 シカトこいてんじゃねぇぞコラ。


「すまんな。我は生まれてから日が浅い。力にはなれん」


 俺の心の中での暴言が届いたのかそうでないのか、とにかく鳥が声を上げた。さっきは気にも留めなかったが、嘴は動かしていない。声が、と言うより音が直接届くといった具合だ。かといって頭の中に直接、というわけではない。


「そうなんだ……ねえ、君に名前はある?あったら教えて」


「……今の我にはない」


『じゃあ俺がつけてやるよ。焼き鳥で』


 炎属性の鳥の名前は焼き鳥と相場は決まっているんだよ。もしくは不死鳥。全然不死じゃなくてもそうなってしまうんだ。……取り敢えずこの二つが鉄板かな?


「……」


 焼き鳥は俺と言うよりツナギを見ている。自分に失礼なことを抜かしたのは目の前のガキなのか……とでも思っていそうだ。残念、俺だよ。


「ヒト……人間か。魂が二つだな。初めて見る」


 どうやらネタがバレてしまったらしい。依然として俺の方を見てはいないが、なかなかに勘は鋭いのかもしれない。


「じゃあ……グレン!そうしよう!」


 ツナギが急に声を上げた。さっきまで値踏みされていたとは思ってもいなさそうだ。


「名前だよ、名前。ないと不便だろ?」


『だから焼き鳥だって……』


 おかしい。まるで俺の姿を認識していないみたいだ。さっきからツナギと目が合わない。


「……好きに呼ぶといい」


「フフッ」


 まあ、ツナギの満面の笑みを見ると別にどうでもいいのだが。無垢って怖いね。天然の人たらしだ。いや、この場合は鳥たらしか?


 ツナギが焼き(グレンが)鳥をたれで(ツナギ)おいしくいた(に絆され)だいている(ている)ところに、どうやら俺の居場所はないようだ。この人たらしならぬ鳥たらしめ。一人と一羽は仲良く会話している。と言っても、ツナギが一方的に質問をするだけなのだが。


「ねえ、何でここにいるの?」


「ここで生まれ、役割を与えられたからだ」


「それって何のこと?」


「来るべき時まであの祠を見守ることだ」


「ふーん?」


 グレンの目線に促されて向いた方向には、確かに古びた祠があった。苔むした様子から、相当な年月が経っていることが窺い知れる。


「大事なものなんだ」


「そういうことにはなるな」


『なあ、開けてみようぜ?』


「チッ」


『な……おま、舌打ちしたのかさっき!?』


 このままだとうちのツナギが不良に育ってしまう!それだけは何としてでも阻止せねば!






 森は、にわかにざわついている。ツナギたちのいるところからさほど離れていない場所にある、ある魔物の巣が、その渦中だ。

 その魔物、ゲイオウと呼ばれるそれらは、怒りを募らせる。

 彼らの子をさらった人間に対して。





◇ リュウゴ


 和やかな空気は一転、緊張感に支配された。目の前に一体、魔物が現れたのだ。


「ゲイオウか……」


 グレンがそう言ったのは、鋭い爪を持った大きな猿のような生き物だ。

 ゲイオウ……単体でもそれなりに強いが、とにかく群れる魔物だ。近くに他の個体もいるだろう。厄介な相手だ。


『どうする?ツナギ。奴さん、なんだか怒ってるぞ?』


「逃げないよ?」


 そう言うと思った。グレンと話して、ここに大事なものがあるって聞いていたから。小さな祠のことだ。


「ねえリュウゴ。お前はいつだって出来ないことはやるなって言うよね?」


『ああ。顔も名前も知らないような奴らのために傷つくようなら、嗤ってやる』


「でも、グレンは友達だ。顔も名前も知ってる」


『ハハッ、好きにやれ』


 我が子の成長が嬉しいねぇ。

 腰に差した剣を抜き、ツナギは守るために立ち上がった。

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