信用は大事
済(2022.08.22)
◇ リュウゴ
一日目。家を出る。森に入り、取り敢えずまっすぐ進む。
二日目。魔物の群れと会敵。狼みたいな奴らだった。
三日目。だいぶ脇に逸れた。現在位置はもう分からない。
四日目。星を見てみるも、地球と違うしそもそもそんなの知らない。
五日目。もうやってられるかバカヤロー。
「ここどこぉーーーーー!!!?」
ウチのツナギ坊っちゃんも我慢の限界のようだ。ボロボロの格好で天を仰いでいる。もう何度目かも分からない悲鳴を上げた。
『ハハハッ、迷子だな。どーしよ』
「そもそもリュウゴがこっちだって言ったんだろ!?どうするんだよ!?」
目の前には大きな川が流れている。橋はかかっていない。小さな子供ならすぐに流されてしまいそうな勢いだ。
『だってこの辺の地理知らないし~。つーか『魔の森』の地形すぐ変わるし~』
俺はのらりくらりと言い逃れをする。うん。朝の日差しがまぶしいなあ~。
しかし、無粋な輩はいつだっているものだ。遠くから地鳴りが聞こえてきた。
『ほれ、また団体さんだぞ?』
「もぉ~……逃げるよ!」
川に沿って下流の方へ駆ける。後ろには……多分猪だな。それが追って来ている。
「ねえ、代わってよ」
ツナギが急にそんな事を言い出した。
「リュウゴだけずっと裏側じゃんか」
たしかに、ここ数日体の主導権を入れ換えてはいない。ストレスもフラストレーションもたまることだろう。
『まあ、いいよ』
サバイバル生活に、そろそろ俺というカードを切ってもいいだろう。知識だけなら十分あるんだ。ただし、実践経験はほとんどなし。
俺が世界に顕現し、魔物の群れを見据えて後ろ向きに走る。しかし、子供の体に代わるのはやはり慣れない。喉もまだ成長途中なのか俺の出す声もまた、幼い。
「牛じゃないけど、しっかり誘導してやるよ」
口元に笑みを浮かべて、俺はそう言った。川にでも落としてやろうか……
『リュウゴ!後ろ!!!』
「へっ?」
自分でも間抜けな声が出たと思う。俺は……崖から落ちていた。滝だ。
「アアアァァァァァ!!!」
『バカァァァァ!!!』
前方確認を怠ったのは俺のミスだ。それは素直に認めよう。しかし、下は水がたまっているとは言えどのくらいの深さか分からない。
(止まれ止まれ止まれ止まれ……)
そんな事を思っても止まるはずはない。普通なら。
なぜこのように書くかと言うと……結果として、俺は宙に浮かんでいたからだ。完全に静止して。
周囲には波紋が広がっていた。この時は知るよしもなかったが、これが初めて【アーク】を使った瞬間だった。
『止まっ……た?』
ツナギよ。それはフラグだ。
「うごっ」
水面に水しぶきが上がる。
初めてでそれを使いこなせるはずもなく、俺は高さ5mほどのところから再度、落ちた。
◇
俺は水の中でもがく。しかし子供の小さな体では大きな流れに逆らうことはできない。
「もが……」
息が続かなくなってきた。上から際限なく降ってくる水が俺の体を底へと押し付ける。
(くそ……)
最悪死を覚悟するも、諦めはしない。そんな思考をする暇があるなら現状把握に努め、解決策を講じるべきだ。なぜなら俺のいた世界では1フレームの遅れが命取りになる。
『リュウゴ!どうするんだよ!』
まあそう叫ぶな。俺は滝壺の岩を小さな手で掴む。上を見ると光が見えた。太陽の光がこの滝壺の底まで届いている。このまま岩を伝っていけば……
「グルル……」
目の前に、大きな狼がいた。なぜ陸で暮らすはずの狼が水中にいるのかは分からないが、蒼い毛並みは水と差し込む光によく映える。
(えーちょっと聞いてない)
大きく開かれた口にはびっしりと牙が生えている。それが、俺に向かって近づく。
余談だが、ゲームにはどうしても巻き返し不可能になる場合も多い。切り抜けられない数的優位を取られるとか、削り切れないくらい体力比が絶望的であるとか。
そういった時は俺は素直に諦めて次の機会にボコす。俺は夢は見たい時にしか見ない。
『逃げろー!』
(死んでたまるかぁー!)
逃げ一択。もう息が続かない。水面目掛けて逃げ出す俺の後を狼も続く。やはりと言うか案の定と言うか、俺はすぐに追いつかれ、首元の服を咥えられた。
俺は狼を引き剝がそうとするも、すぐに溺れて力尽きる。気を失った俺に代わってツナギが表に来たが、そもそもこの体に酸素がないのですぐに溺れた。
狼は俺たちを咥えたまま滝壺から出る。その黒い毛は水に濡れて垂れ下がり、ポタポタと雫を落とす。
「『影狼』よ、その子供をどうするつもりだ?」
不意に、狼に声がかけられた。声の主は近くの木の上にいるようだ。
「グルルルル……」
狼は首を軽く振って俺の体を地面に転がす。そしてしばらく匂いを嗅ぐと、満足したのか体を振って水気を飛ばした。そして声のした木の方向を向き……
「ぐふっ」
俺の体の胸のあたりをその前脚で勢いよく踏みしめた。それに思わずツナギの声が出る。何はともあれ、これで呼吸は出来るようになったので助かったと言っていいのだろうか。
去って行く狼の姿を、木の上から紅い鳥が見ていた。
◇
「もうお前を信用しない」
意識を取り戻した俺は、すぐさまツナギのお叱りを受けた。今回は俺が悪かったので何も申し開きはない。ごめんなさい。て言うか何で水中に狼がいるんだよ。意味分かんねえ。
ペンダントから取り出した予備の服に着替えて、俺たちは再度探索を開始する。
ここにあるものでまず一番目を引くのは、やはり俺が落ちてきた滝だろう。60m位だろうか。水しぶきが盛大に上がり、この辺りは太陽の光は届くものの霧に包まれているようだ。
次は大樹だ。我らがマイホームに勝るとも劣らない立派な木だ。
『アロマセラピー……』
「……」
ツナギの目が怖い。ふざけるのはやめにしよう。
しかし、ここには生き物の気配がない。ここだけまるで別の世界のようだ。そんな感傷に浸っていると……頭上から声が聞こえてきた。
「小さな人よ。ここに何用だ」
視線を向けるとそこには……炎がいた。
何となく分かってるかもしれませんが、セリフのカッコは
「」…表側
『』…裏側
でお願いします。たまに物凄い速さで入れ替わることがあります(予言)。




