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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
25/89

空に轟く色彩と叫び

済(2022.08.17)


◇ ツナギ


 空を鮮やかな光が埋め尽くす。多種多様な色で構成されるそれは花火ではなく、魔術だ。

 落ちてきた光が人々に当たるも、それを気にする様子もない。せいぜい子供がはしゃぐ位だろうか。


「それでそれで、どこから行くの?」


 そんな子供たちよりもなお、はしゃいだ様子なのはソフィアだ。何でも幼い頃から冒険するのが夢だったのだと。


「特に予定はないな。そもそもまずは怪我を治さないと。あと一週間位はここにいるよ」


 そうだ。ゴリに吹っ飛ばされた時に折れた骨があるのだ。その後リュウゴがメチャクチャに動いたから傷も広がった。治癒魔術はかけてもらったのだが、それでも完全に治ったわけではないのだ。


「でもそうだなぁ。いろんな街を回るのもいいかもな」


「なら私!ハムスに行ってみたい!」


 ハムスというのは、このマノガスト聖王国にある商業都市群のことだ。群とあるように、マノガスト西方の海に面した商業の盛んな街をまとめてそう呼んでいるのだ。俺も何度か訪れたことがある。……ちょっと思い出したくないこともあるけど。


「まあ、まずは一回家に帰るよ。じいちゃんに聞きたいこともあるし」


「じゃあ一番最初は『魔の森』ね!」


 そう言ったソフィアは、通りの方へ駆け出してしまった。よっぽど楽しみなのだろうか。


『どう思うよ、焼き鳥』


「案外なんとかなるんじゃないか」


『そっちじゃないんだよなあ……』


 俺の頭の上に乗ったグレンとリュウゴが会話する。のんきなものだ。


「おいお前ら。こんなとこで何やってんだ。特にソフィア!とっとと来やがれ!」


 エルムが俺たちを見つけてやって来た。そもそもソフィアは、今日の『聖誕祭』の重要人物でもあるのだ。そろそろ行かなくてはならない。


『そういやエルム。ゴリはどうしたんだよ』


 そう言えばそうだ。たしか、ゴリはリュウゴが気絶させて捕まえたんだった。その後はエルムに任せていたが……


「『聖誕祭』が終わったら有識者に話を聞きに行く。お前らは気にするな」


『有識者ぁ?』


「王都にいる奴だよ」


 なら、それはエルムに任せよう。エルムの知り合いなら俺が出来ることはないに等しい。


「んなことより……あのバカとっとと捕まえて来い!逃がすなよ!」


 ここ数日、ソフィアはことあるごとに逃げ回っていたらしい。それで結局エルムが探し出す。


「いーやーよー!」


 首根っこを掴まれたソフィアが情けない声を上げる。そしてそのままエルムに連れられて空を飛んで行く。……取り残されてしまった。


『で、焼き鳥よう。何企んでやがる?』


「……何のことだ?」


『へいへい』


「ああもう。とにかく追うぞ!」


 俺は建物の上に飛び乗り、その屋根を駆けて行く。こいつらの会話を聞くのはその後にしよう。






 大聖堂の一角。その庭園を見下ろせる場所に立つ男が一人。トリアスだ。

 大聖堂の庭園には大勢の人がいる。本日は『聖誕祭』。その開催の宣言を今か今かと待ちわびているのだ。街中に届けられる声と映像を心待ちにする人たちもいる。


「まあ、言うことなんてほとんどないんだけどね。毎年一緒だし」


 トリアスの呟きが民衆に届くことはない。ゆっくりと歩き出し意識を民衆に向け、言葉を紡ぐ。その前列には、各国から招かれた重鎮たちが座っている。


「さて皆さん。今年もこの日がやって来ました。初代『聖託』ベラ・サクホードに感謝を」


 堂々とした様子で民衆に言葉を向ける。


「と言っても、これを私が言うのはあと何回でしょうか」


 トリアスが視線を横に向ける。その先にはエルムと……首根っこを掴まれてじたばたしているソフィアがいる。それを見てトリアスは、意地の悪い笑みを浮かべた。


「あと数年で、ソフィアに跡を譲るつもりですから、ね」


 トリアスの下に着地したエルムがソフィアを放す。ソフィアはソフィアで、さっきまでの空中散歩に参ったままだ。フラフラしている。


「さあソフィア。次期『聖託』として皆さんに何か言うことは?」


「ハァ、ハァ……」


 肩で息をしながら口を開き、ソフィアは精一杯叫ぶ。己の願いを。


「絶っ対に、嫌!!!」


 その声は未だ遠く離れていたツナギたちに届き、通信魔道具を介して『聖都』中に響き渡った。

ここでとりあえず一区切りです。

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