『聖都』の主と怪しい談義 下
済(2022.08.17)
◇ ツナギ
「他に質問はあるかい?」
トリアスさんが俺にそう問う。
『うーんちっちゃな話は別にいいし……』
「あ、そういえばニュートさんは?」
他に聞いておくことはないかと考え、まず思いついたのがニュートさんのことだ。俺たちをここに連れてきた張本人であり、全く恨んでないと言うのは嘘になる。そういえば前にどこかで会った気も……きっと気のせいだろう。
「彼には簡単な報告書を提出させて、今は寝ていると思うよ」
それはうらやましいな。俺も半日寝たが体の疲れは抜けきっていない。リュウゴが何か食べたのか腹は空いていないが、全身が軋むように痛い。ゴリに殴られた時の傷だろう。正直今も楽な姿勢で座っている。
「いやぁやっぱり、持つべきものは優秀な部下だよね」
『「白々しい」』
リュウゴとエルムの声が被った。
『「あぁ?」』
お互いに噛み付き合うバカどもの相手はしていられない。
「お前らホントは仲いいだろ」
『「どこがだ。潰すぞ」』
脅し文句が一言一句同じだ。それでもなお、仲が悪いと言い張る。同族嫌悪の感情に近いのかもしれない。
「どうしたんだい?エルムも大人げないじゃないか」
「大人を敬う可愛げのあるガキならいいんだが……」
『バカかてめえは!俺の方が年上だ!恐れ慄け!崇め称えろ!』
今もなお攻撃を続けるリュウゴに対して、エルムはソファに寝転がったままだ。最大限の「お前の相手をする気はない」というアピールをしている。それがさらにリュウゴに油を注ぐことになる。
「それじゃバカは放っておいて……どうだい?ソフィア」
「えっ?へっ?何?」
どうやらソフィアは何のことか分かっていないようだ。それは俺も同じなのだが。
「だからしばらく彼を護衛として雇おうかって話だよ」
「う~ん」
ソフィアの歯切れは悪い。つい今朝、命を狙われたのだ。ならば心情的には守って欲しいのだろうが………いかんせん彼女は束縛が嫌いなのだ。少ししか話していないが、愚痴を聞くとそれがわかる。
「パナールも村の方に戻っているし、その間だけだよ。彼は優しいし」
俺が優しくても付随してくるリュウゴのことは自己責任だ。アイツは優しさというものを初めから持ち合わせていないかのようにどこかに忘れてきている。
「いろんな所を冒険してそうだし」
『魔の森』なら知り尽くしていると言っても過言ではないが、そこから出たことは数えるほどしかない。だから俺の冒険の経験はほとんどが『魔の森』ということになる。
「きっと力になってくれるよ」
俺はなってもリュウゴは以下略。絶妙に嘘じゃないところがいやらしい。
「いろんなことが片付くまで、しばらく世界を見ておいで」
「それって……」
トリアスさんの言葉にソフィアが目をキラキラと輝かせる。ソフィアの好奇心が刺激される。
「冒険をしておいで」
ソフィアが衝撃を受けたような顔をするも、すぐにそれが満面の笑みとなる。
「そして次期『聖託』としてのコネクションを……」
「やったわ……ついに認めてくれた……!私の時代よ!」
続けられた不穏な言葉はソフィアの耳には入っていないらしく、この先の心躍る出来事に思いを馳せている。
「えっと……ソフィアには悪いんだが……」
『もちろんお請けしますとも』
リュウゴが俺の言葉に言葉を被せてきた。今度はいったい何を考えているのだろうか。
トリアスさんの口元が歪み、ソフィアが満面の笑みとなる。
「条件なしの快諾とは……命だの地位だのをねだっていた君が、どういう風の吹き回しだい?」
『なぁに、ただの親心さ』
俺の意見を聞かないうちに二人は話を進める。
『あとは報酬なんだが……金以外で頼むよ』
「それじゃあ、エルムを好き勝手できる権利をあげよう」
『買ったッ!』
「何勝手に決めてんだよクズどもが!」
勝手に売られたエルムが抗議の声を上げるも、それを聞き入れるような奴じゃない。
「そうそう。お金以外って言ったけど……新通貨にはお世話になってるよ」
『へ……へぇー』
新通貨……いったい何のことだろうなあー。
まあ、いいか。特にやらなければならないことはないし。嬉しそうなソフィアに水を差すのも無粋だ。俺も覚悟を決めよう。
『お前もそろそろ向き合えよ……』
リュウゴの呟きは、俺の耳には聞こえなかった。
◇
「どういうつもりだ?」
「親心だよ」
「似合わねえなぁ」
ツナギとソフィアが去った部屋で、トリアスとエルムが会話する。
「君が友情を語るようなものだろう?」
トリアスの皮肉に、エルムは苦笑で返す。ソファに寝そべり、つばのある帽子を顔の上に乗せている。
ソフィアには両親がいない。だからこそトリアスが、もしくは大聖堂にいる全員が、親代わりなのだ。一部、一枚岩ではないが。
「今のうちに……目一杯楽しんでほしいものだよ。彼の隣が一番危険で一番安全だろう?」
トリアスの横顔には憂いが見える。自分の娘と言っても過言ではないのだ。不安がないと言えば嘘になる。
「まあ大丈夫だろう。リュウゴがいれば大抵はなんとかする。……普段は役に立たないがな」
苦々しい表情をしながら、エルムは弟分のことを思う。弟分などという認識をされていると、その弟分さんは怒り狂うだろう。常に狂っているので、端から見た変化は怒るだけかもしれないが。
「今度ソフィアに魔術を教えてやってくれよ」
「向こうから頼み込んできたらな。この過保護め」
「浮動戦力が無視できなくなれば……」
「ハッ、思ってもねえことを」
長年の親友同士、お互いの言いたいことはなんとなく分かる。目で、明日の『聖誕祭』について語り合う。
「おい、話は終わったか!」
トリアスの執務室の扉が勢いよく開く。ロンたちがやって来た。
「チッ、うるさくなるぞ……」
「ハハハッ、ニア。相変わらずだな」
己の腐れ縁を恨みながら、エルムは目を閉じた。




