『聖都』の主と怪しい談義 上
済(2022.08.16)
◇
この世界にも、当然大国というものはある。ここ、『マノガスト聖王国』もその一つである。
世界には、主に東大陸、西大陸、北大陸という三つの大まかな区分があり、『マノガスト聖王国』、『シュルロード帝国』、『ラクラ王国』はいずれも東大陸に位置している。
世界でも有数の大国である『マノガスト聖王国』と『シュルロード帝国』、そしてその二国に挟まれるように位置する『ラクラ王国』は古くから同盟を結び、共に発展してきた。
今回の事件で、それらの国々だけで集まり、解決策を導き出したのはそういった背景からでもある。
ただし野次馬は例外とする。
◇
ツナギたちが去った室内で、残された者たちは各々口を開く。
「じゃ、トリアスも言ってたけどもっかい締めるわ。お疲れさん」
軽い口調で場を仕切るのは、この国――――マノガスト聖王国の国王、アーサー・シーク・マノガストだ。国を背負う者とは思えないほどに馴れ馴れしい態度である。
「王様もお疲れさん。……俺たちはお邪魔らしいからさっさと行くぞ。それでいいだろ姫さん?」
「ええ。ありがとう、ロン」
ロンが自らの主の思惑を察して、シークとドットを促す。これでこの場に残るのはメクラセスとリーグミール、テルマノのみとなる。
他の面々は個別で話があるようですでにここにはいない。
「しっかし、面白いな。あのツナギって奴。うちのにそっくりだ」
「そうか。余はエルムからよく愚痴を聞くぞ」
「まあ、今どきあそこまで啖呵切る奴が珍しいからなぁ」
上からドット、シーク、ロンの言葉だ。異なる国の者同士が肩を組みながら仲良く話す。これが実現するまでにどれほどの時間が必要だったのか。あるいは、ベラ・サクホードをはじめとする過去の偉人たちの行動の結果なのかもしれない。
「いいですよね。平和は」
扉を開けて部屋を出る彼らを尻目に、メクラセスは呟いた。
「ところで、あなたはどうしてここに?ソフィアちゃんとの直接の関わりはないようなものでしょう?」
メクラセスがリーグミールに問う。これは軽い牽制のようなものだ。
「なに、見て見ぬ振りは出来ないでしょう?考え事をする時にはよく歩くのです。その際に人気のない方へフラフラと……」
「そういうことにしておきますね」
お互いの腹の内は分からない。メクラセスもまた、扉へと歩いて行く。取っ手に手をかけると、最後に話の本題に入る。
「では、例の件、なるべく早い返事をお待ちしてます」
「皇帝に話は通しております。我が国としても、個人的にも憂うべき問題ですので」
「あんまり遅いと勝手に始めちゃいますよ?」
扉を半分開けた状態で、メクラセスは催促の言葉を口にする。彼女も去り、残ったのはリーグミールとテルマノのみとなった。最後に残された彼らは誰にも聞こえないような声でポツリと呟く。
「恨むぞローゼン」
「リーグ……帰りたい」
「ハァ~……では明日帰りましょうか。『聖誕祭』の式典が終わった後に」
◇ ツナギ
「サシで話しようっつったのに……」
現在位置は、さっきまでの会議をしていた部屋ではない。まあ、俺はほとんど寝ていたのだが。ここは『聖託』トリアス・ユーラマ・サクホードの自室……と言うより執務室だ。
「なんでこいつらもいんだよ」
リュウゴが指摘したのは、今ここにいる人物のことだ。俺たちとトリアスさんの他には、ソフィアとエルムもいる。グレンはまだ寝ているらしい。
「ま、別にいいけどさぁ」
ならば騒き立てないで欲しい。自分の机に座ったトリアスさんが俺たちを心底面白そうに眺めている。リュウゴとソフィアはおそらく来賓用と思われるソファに座っているが、エルムはそれに寝そべっている。
「ほら、ツナギ。言いたいことがあるんじゃないのか?目の前にいるのはここで一番偉い奴だぞ?」
リュウゴはたまにこちらのことを全て見透かしているのでは、と思う時がある。今はそれに感謝するべきか……
俺たちは体の主導権を入れ換えた。
「はじめまして……でいいのかな?まあ取り敢えず、ツナギです。いくつか質問してもよろしいでしょうか、トリアスさん」
「君は礼儀正しいねぇ。特別に何でも答えてあげようか」
『茶番はいいぞ、腹黒~』
いくつか不安は残るが、質問には答えてくれるらしい。なら、聞かなくてはいけないことがある。
「正直、ローゼンのことどう思ってます?」
「ゴミだね、あれは。懸賞金でもかけようか」
酷い言われようだ。
「人の大切な娘の命を狙う輩には最低な死に方をしてほしい」
「トリアスさん私の親じゃないでしょ?」
「うぐっ」
ソフィアの親じゃない発言でダメージを負ったトリアスさんだが、俺はそれに気を使ってやらない。前置きはこのくらいにして、本題に入る。
「さて……俺がいなかったらどうするつもりだったんですか?」
「どう、とは?」
『とぼけんなよ。あの場に俺たちがいたからいいものの、そうじゃなかったらソフィア死んでたぜ?』
やはりこれに尽きる。最初から俺を戦力に数え、当てにしていた。実際はそんなことは聞かされていなかったし、トラブルが起こり予定も狂わされた。そもそも『聖都』には行かないつもりだったのだ。
「あそこにいなかったらって……追いかけ回したのは君だよね?」
『ん?』
「だからソフィアは君から逃げてその先で襲われたってわけで……」
『あー』
そういえば俺が『大聖堂』の頂上でソフィアに話しかけた時、すぐ逃げられたな。
『ハッハッハッハ……結論、お前が悪い!』
「何でだよ!」
追い詰めたのは俺だとでも言いたいのか。それは流石に暴論だ。
『そういやこいつストーカー犯……悪いツナギ。否定できねえ!』
「うるせえ!」
もうこのペンダントを壊して永久に外との会話手段をなくしてやろうか。それか除霊の方法をもっと本格的に探そうか。
「ま、その心配はしなくていい。エルムが視ててくれたから」
「……」
その言葉を聞いて、俺は視線をエルムに向ける。ソファに寝転がり、帽子を顔の上に乗せた姿からはまるで自分の家のようにくつろいでいることが分かる。
「み……見てたってまさか……お風呂も!?」
「なわけねぇだろ……」
ソフィアの懸念はエルムの押し殺した声によって即座に否定される。
『ま……まさか身内からストーカーと覗きが出るだなんて……俺は腹は切らねえぞ』
「大丈夫だよ。もしそんなことになってたら私は友を一人手にかけなければならないからね」
安全は、一応は確保されていたらしい。エルム頼みだけど。
「君が来てからは知っている通りさ。『聖誕祭』当日の警護を頼むつもりだったけど、一日早まってしまったね」
その仕事が前倒しになった上に睡眠不足で記憶が朦朧としている。とにかく、とても疲れた。
「さて、他に質問はあるかい?」




