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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
20/89

もちろん自分本意

済(2022.08.16)



 暗い店内に灯りが灯る。そこから現れたのは……ローゼンだ。

 モノクルの奥で目を細めながら椅子に座って優雅に紅茶を飲む。と言っても、振りだけ・・・・だ。


「では、私は先に帰らせてもらいますよ」


 ローゼンの他には誰一人いない店内で、そう呟く。店員はいない。しかし、彼の言葉は確かにある人物に伝わる。


「しかし、ゴリさんも不憫ですねぇ。自意識はないのでしょう?」


 その質問の回答は殺気で返される。知らなくてもいい事があるのだ、という意味で。それと、何故置き去りにしたか、と責めるような念も感じる。


「何、ただのゲームですよ。挑戦状です。人生は楽しまなくては」


 わざと残した自分へのヒント。いったい誰がたどり着くのやら。本命は師匠である。エルムから師にも話は伝わるだろうと、ローゼンは考える。


「では、お先に」


 カップを置いて立ち上がり軽く会釈をすると、ローゼンは店を出て、『聖都』の外へと向かう。


 先ほどの襲撃は人気のない場所だったとは言え、それなりに敏感な人間はいる。そうでなくとも辺りは明るくなり、街行く人の数も増えてくる。


「おっと失礼」


 街道には多くの人間が行き来しており、ローゼンもその煽りを受けて人とわずかにぶつかる。人に当たらずに進むことは造作でもないが、それだと自然ではない。より、この街に溶け込むように。せっかく一度外れたエルムの目から逃れるために。なぜなら――――


 街中を歩く()の姿は……可憐な女性の姿だった。





◇ リュウゴ


「ほら、起きなさい」


 まだ……もうちょっと……


「早く……!」


「痛え!」


 耳を引っ張られて無理やり起こされた俺は、一瞬ここがどこか分からなかった。しかし、自分が寝る前に何をしていたかを順番に思いだし、(クソエルム)への怒りを募らせるのにそう時間はかからなかった。

 まだ焦点の定まらない目を擦りながら、今さっき自分を起こしたソフィアを見る。


「で、何?」


 無理やり起こされるのなら美少女がいい、とはいつの日か言ったことがある気がするが、痛みを伴うとは聞いていない。しかし、いったい何事だというのだろうか。空は赤く染まり、日ももうすっかり傾いて……夕方だ。


「さっさと行くわよ。あなた達がいないとどうしようもないんだから」


 あーなんかツナギが夕方まで寝させてとか言ってたような……


「おいこら起きろバカやろう。てめえが約束したんだろうが」


『……』


 ツナギはまだ寝ているようだ。起きる気配は全くない。約束をしたのはツナギだ。俺じゃない。つまり……


「諦めろソフィア。起きないこいつが悪い。俺は厄介事が嫌いなんだ」


「待って、お願い。ねえ、お願いだから一緒に来て」


 これは……本気で怯えている。いったい何があったんだよ。


「あの人たち、怖いのよ……お姉ちゃんがいなかったらと思うと……」


 ソフィアが目に涙を浮かべて懇願する。さっきまでの偉そうな態度はどこへやら。

 だがしかし、そんな程度では俺は動かない。この世界は弱肉強食だ。転生して約15年。俺が学んだ事は、他者を容赦なく切り捨てること。そして――――


 ぐうぅぅぅぅぅぅ


 俺の腹が鳴った。そういえば途中で襲撃されたから何も食べてなかったっけなぁ。


 ……うん、仕方ない。このリュウゴさんが一肌脱いであげましょうか。






「くれぐれも失礼のないようにね」


 大きな扉の前で、ソフィアが小声で注意する。随分と凝った装飾だ。雰囲気がある。

 対する俺は、サンドイッチを頬張っている。地球産のものとは少し違いハンバーガーのような形状だが、パンの食感が完全にサンドイッチだ。しっとりしている。異論は認めない。『大聖堂』の食堂からかっぱらってきたものだ。


 グレンは置いてきた。寝たいのだそうだ。まったくうらやましい。


 しかし、俺の腹が鳴った時のソフィアの顔と来たら。あれは自分のために他者を生け贄(スケープゴート)にすることが出来る奴の顔だ。

 それは俺も同じなのだが……少し嫌がらせしてやろう。恨むのなら俺を生贄に選んだお前自身を恨むといい。


 扉越しから部屋の中を探り、その中にいるのはおそらく8人。思ったより少なかった。エルムは既に扉の前にいる俺に気付いているだろう。いや、エルムだけじゃない。エルムを始めとして戦闘強者が……3、いや4人。殺る気で来られたら死ぬな。


 もっとも、


「オラオラツナギ様のお通りだ!ひれ伏せ無能ども!」


 それは俺を止める理由にはなり得ない。


 俺はソフィアの忠告を無視して勢いよく足で扉をブチ開けた。そして現れたのは左手に食べかけのサンドイッチを持ち、ふてぶてしい顔の俺。何なら今ももう一口頬張る。今のが最後の一口だ。

 ツナギの名を名乗ったのには特に理由はない。ただ社会的に死ぬのがツナギなだけだ。もっとも、同じ体を共有しているのでそう大差ないのだが。


 自然に、コイツを敵にすればどうやって倒そうか、と戦力分析をしながら、俺はこれからの立ち回りを考える。さて、どうやって引っ掻き回してやろうか。

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