ふとしたことで言動が変わる、つまり深夜テンション
済(2022.08.16)
◇ リュウゴ
前回までのあらすじ!
なんか『聖都』中に魔物が大量発生しそう。
「で、どーするんですか。警備主任殿」
実際にエルムが警備主任かどうかは分からないが、それなりに責任者ではあろう。そもそも、殲滅戦ならエルムが適任なのだ。俺の出る幕じゃない。
『あいつらはすごく脆い。ちょっと火で炙るだけで溶ける。多分……まともな生き物じゃない』
思い返すのは少し前の景色。ツナギが地面に炎を【エンチャント】し、魔物を包み込んだ時。あれは……うん、その……ものすごく気持ち悪かった。
「ど…どうするの?」
ソフィアの声には不安が見てとれる。自分だから無事だったのであって、一般人に対処を求めるのは酷だろう。
まあ、その心配はしなくても良さそうだが。
「捉えた。思ったより数は少ない。48匹だ」
片目を閉じたエルムがそう呟く。48……多い……いや、街全体と考えると少ないのか……?
『任せていいか?』
「もうやってる」
エルムの足元に魔方陣が浮かび上がる。今視認できる肉塊は徐々に形が定まって来ている。
「明日は『聖誕祭』だ。無粋な真似はするんじゃねぇ」
白い光がエルムの周りに集まる。魔方陣からはいくつもの細い線が飛び出した。48匹と言っていたので48本なのだろう。
「最低限理性を引っ提げて来い。それが礼服だ」
四足獣の形へと変貌していた肉塊が溶け出した。エルムの魔術だ。いったい何km離れた奴にも当てたのだろうか。
エルムの【アーク】で位置が分かるとは言え、俺なら無理だ。多分、こいつの頭はスーパーコンピューター並だ。
「《フレクトル》」
『聖都』の各地で、俺たちの目の前の現象が同時に起こったのだろう。各地で溶け出す肉塊………軽くホラーだ。目撃者がいないことを祈ろう。すぐに蒸発したから大丈夫だとは思うが。
「もう大丈夫なの……?」
「ああ。これで……いや、起きたな」
片目を瞑ったエルムが、瓦礫を見やる。たしかそこはゴリを吹っ飛ばしたところ……
「オォォォォォォォォォ!!!」
雄叫びが上がった。
◇
ゴリが目覚めた。
「て言うかこいつ見捨てられたんだな。かわいそうに」
嘘です。口には出したけどそんなこと微塵も思っていません。かわいそうに。
「これは……」
どうやら騎士団も到着したようだ。遅すぎんだよバーカ。
「ソフィア様!無事ですか!?」
「え…ええ。私は大丈夫……」
「よっしゃもう一回ぶちのめしてやる。かかってこいやぁ」
『あ……』
俺はさっさとゴリの方へ駆けて行く。どうせあいつは脳筋なんだ。カモだ。辱しめてやる。
「生け捕りだぞー」
んなこと分かってんだよ。最初から狙いは顎だ。世界揺らしてやるよ。
距離はもう5mくらいに縮まった。ゴリは腕を大きく振りかぶり、それでも俺は前へ進む。
「オオォォォォォォォォ!!!」
ゴリが雄叫びを上げながら拳を振るう。俺はまっすぐに地面を蹴って、宙に浮いた状態となる。このままでは拳に当たってしまうが……
「【叛逆】」
俺の体が空中でピタリと止まる。運動のエネルギーがゼロになったのだ。一瞬だけ止まるも、【叛逆】をすぐさま解除。体はすぐに重力に従って落ちる。
「くたばれ慣性」
足を地面に着けた俺の跡には、波紋が広がっている。ゴリの腕の下を掻い潜り、俺は剣ではなく拳を握り込む。
「残念だったな。俺とお前じゃ、相性が悪すぎた」
右のアッパーカットをゴリの顎に叩き込む。フッと力の抜けた体に押し潰されないように横へと逃れ、後ろを振り返る。
「ククク、俺の勝ちだ」
『はいはい……』
なんだろう。ものすごくテンションがあがっている。今ならエルムをボコボコに出来る気がする……
「あ…あのう……」
騎士団が話し掛けてきた。俺は今エルムをボコすシミュレーションで忙しいんだよ。
「何があったか詳しくお聞きしても……」
「そういうことならエルムに聞くといいよ」
よし、後ろからの不意打ちにしよう。頭をぶん殴るんだぁ。
彼らから見て俺は、いきなり大男を殴って倒した奴だ。つまり、俺が一番強い。
『ほどほどにしろよ?俺は寝たい』
ほら、ツナギも応援してくれている。
「お前も来るんだよ。さっさと。『大聖堂』に」
「やだ。んなことよ、りッ!」
「殺気が駄々漏れなんだよバカが!」
後頭部に岩の塊がぶつけられ、俺はうつ伏せに倒れ込む。ジンジンと熱を持ったところから血が流れている気がする。くそ……だからこいつは嫌いなんだ。
「どうする?ツナギ」
『うーん……夕方まで寝させて』
確かに少し休みたい。だからといって永遠に寝させろとは言ってない。当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれない。
「よし、行くぞ。一人引き摺るのも二人引き摺るのもたいして変わらん」
俺はゴリと一緒に引き摺られながら『聖都』の街を行く。多分、また生暖かい視線を向けられていたことだろう。
「やはりこうなったか。哀れだな」
てめえ今までどこにいたんだよ焼き鳥ぃ……
「もう嫌!ついていけない!」
ソフィアの心からの叫びは特に誰にも相手にされなかった。




