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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
19/89

ふとしたことで言動が変わる、つまり深夜テンション

済(2022.08.16)


◇ リュウゴ


 前回までのあらすじ!

 なんか『聖都』中に魔物が大量発生しそう。


「で、どーするんですか。警備主任殿」


 実際にエルムが警備主任かどうかは分からないが、それなりに責任者ではあろう。そもそも、殲滅戦ならエルムが適任なのだ。俺の出る幕じゃない。


『あいつらはすごく脆い。ちょっと火で炙るだけで溶ける。多分……まともな生き物じゃない』


 思い返すのは少し前の景色。ツナギが地面に炎を【エンチャント】し、魔物を包み込んだ時。あれは……うん、その……ものすごく気持ち悪かった。


「ど…どうするの?」


 ソフィアの声には不安が見てとれる。自分だから無事だったのであって、一般人に対処を求めるのは酷だろう。

 まあ、その心配はしなくても良さそうだが。


「捉えた。思ったより数は少ない。48匹だ」


 片目を閉じたエルムがそう呟く。48……多い……いや、街全体と考えると少ないのか……?


『任せていいか?』


「もうやってる」


 エルムの足元に魔方陣が浮かび上がる。今視認できる肉塊は徐々に形が定まって来ている。


「明日は『聖誕祭』だ。無粋な真似はするんじゃねぇ」


 白い光がエルムの周りに集まる。魔方陣からはいくつもの細い線が飛び出した。48匹と言っていたので48本なのだろう。


「最低限理性を引っ提げて来い。それが礼服だ」


 四足獣の形へと変貌していた肉塊が溶け出した。エルムの魔術だ。いったい何km離れた奴にも当てたのだろうか。

 エルムの【アーク】で位置が分かるとは言え、俺なら無理だ。多分、こいつの頭はスーパーコンピューター並だ。


「《フレクトル》」


 『聖都』の各地で、俺たちの目の前の現象が同時に起こったのだろう。各地で溶け出す肉塊………軽くホラーだ。目撃者がいないことを祈ろう。すぐに蒸発したから大丈夫だとは思うが。


「もう大丈夫なの……?」


「ああ。これで……いや、起きたな」


 片目を瞑ったエルムが、瓦礫を見やる。たしかそこはゴリを吹っ飛ばしたところ……


「オォォォォォォォォォ!!!」


 雄叫びが上がった。







 ゴリが目覚めた。


「て言うかこいつ見捨てられたんだな。かわいそうに」


 嘘です。口には出したけどそんなこと微塵も思っていません。かわいそうに(ざまぁ)


「これは……」


 どうやら騎士団も到着したようだ。遅すぎんだよバーカ。


「ソフィア様!無事ですか!?」


「え…ええ。私は大丈夫……」


「よっしゃもう一回ぶちのめしてやる。かかってこいやぁ」


『あ……』


 俺はさっさとゴリの方へ駆けて行く。どうせあいつは脳筋なんだ。カモだ。辱しめてやる。


「生け捕りだぞー」


 んなこと分かってんだよ。最初から狙いは顎だ。世界揺らしてやるよ。

 距離はもう5mくらいに縮まった。ゴリは腕を大きく振りかぶり、それでも俺は前へ進む。


「オオォォォォォォォォ!!!」


 ゴリが雄叫びを上げながら拳を振るう。俺はまっすぐに地面を蹴って、宙に浮いた状態となる。このままでは拳に当たってしまうが……


「【叛逆】」


 俺の体が空中でピタリと止まる。運動のエネルギーがゼロになったのだ。一瞬だけ止まるも、【叛逆】をすぐさま解除。体はすぐに重力に従って落ちる。


「くたばれ慣性」


 足を地面に着けた俺の跡には、波紋が広がっている。ゴリの腕の下を掻い潜り、俺は剣ではなく拳を握り込む。


「残念だったな。俺とお前じゃ、相性が悪すぎた」


 右のアッパーカットをゴリの顎に叩き込む。フッと力の抜けた体に押し潰されないように横へと逃れ、後ろを振り返る。


「ククク、俺の勝ちだ」


『はいはい……』


 なんだろう。ものすごくテンションがあがっている。今ならエルムをボコボコに出来る気がする……


「あ…あのう……」


 騎士団が話し掛けてきた。俺は今エルムをボコすシミュレーションで忙しいんだよ。


「何があったか詳しくお聞きしても……」


「そういうことならエルムに聞くといいよ」


 よし、後ろからの不意打ちにしよう。頭をぶん殴るんだぁ。

 彼らから見て俺は、いきなり大男を殴って倒した奴だ。つまり、俺が一番強い。


『ほどほどにしろよ?俺は寝たい』


 ほら、ツナギも応援してくれている。


「お前も来るんだよ。さっさと。『大聖堂』に」


「やだ。んなことよ、りッ!」


「殺気が駄々漏れなんだよバカが!」


 後頭部に岩の塊がぶつけられ、俺はうつ伏せに倒れ込む。ジンジンと熱を持ったところから血が流れている気がする。くそ……だからこいつは嫌いなんだ。


「どうする?ツナギ」


『うーん……夕方まで寝させて』


 確かに少し休みたい。だからといって永遠に寝させろとは言ってない。当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれない。


「よし、行くぞ。一人引き摺るのも二人引き摺るのもたいして変わらん」


 俺はゴリと一緒に引き摺られながら『聖都』の街を行く。多分、また生暖かい視線を向けられていたことだろう。


「やはりこうなったか。哀れだな」


 てめえ今までどこにいたんだよ焼き鳥ぃ……



「もう嫌!ついていけない!」


 ソフィアの心からの叫びは特に誰にも相手にされなかった。

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