はじめまして、俺の名前は
済(2022.08.15)
◇ リュウゴ
少しだけ時を戻そう。と言っても、10秒ほどだろうが。
ツナギが吹っ飛ばされ、建物を突き破る。瓦礫に埋もれたツナギは一瞬だけ意識が飛んでいたようだ。背中から叩きつけられたのだ。骨も折れているだろう。
『おーい、生きてるか?』
返事は無くとも言いたいことはわかる。その気持ちは痛いほどわかる。徹夜でゲーム中、ひどい初見殺しを食らってアイテムロストする感覚だ。萎えるよな。そういう時は寝てしまうに限る。
瓦礫の山から起き上がったツナギは、不服そうな顔をしている。この建物はどうやら無人のようだ。
「リュウゴ……代わるか?」
『いいのか?』
「ああ。俺は疲れた」
なら、早くしないとな。ゆっくりしている暇はない。ソフィアが殺されてしまう。今は……話をしているな。少しなら余裕があるか?
「じゃあ最後に……【エンチャント:フレイム】――――プラス【ボルト】」
ツナギの左手に炎が灯る。右手には雷が光る。そして両手を地面につき、炎が雷を伴って地を這う。向かう先はローゼンとゴリだ。
ツナギの口元はにやけている。いたずらを仕掛けた子供のようで……
『よーし、代わるぞー』
俺はツナギと体の主導権を入れ換える。心なしか逆立っていた髪が落ち着き、その表情からも、今ここにいるのは俺だということを確信できる。
生で味わう空気感。自分の体の重み。それらよりもまず最初に俺が感じたのは……激痛だ。
うん、壁を突き破るくらい思いっきり叩きつけられて?なんならゴリに殴られただけでも重傷で?
結論。
「ツナギィ!」
『俺は何も知らない』
「確信犯かコノヤロウ!」
はめられた。あいつは痛みを全部俺に押し付けやがったのだ。ちょっとでも同情した俺がバカだった。コノヤロウ……吹っ切れやがった。
『俺は嫌だからな。後は任せた』
駄々を捏ねだした。こういうところはまだガキだな。
まあ、やるけど。
俺は立ち上がり、服についた土埃を軽く払う。その時に剣を一振り、靴を斬り落とした。それを足首のスナップを効かせて脱ぎ捨てる。靴底が擦り切れてダサかったのだ。それに動きにくい。
「【叛逆】」
そう呟き、俺は飛ぶ。物理法則を無視したように。一向に落ちる気配は無く、それどころかだんだんと高度は上がっていく。……まあ、途中で落ちるが。
上昇を止め、そのままの勢いで、後は慣性に任せて突っ込む。背後には波紋が無数に広がっている。
「よく吠えた、ソフィア。後は任せろ」
かなりの勢いだが心配する必要はない。地面に激突する直前で、俺は慣性に【叛逆】する。その場で止まった俺は、足を伸ばしゆっくりと地面に足をつける。
「さあ、世界に【叛逆】しようか」
◇
ゴリが殴りかかってくる。ツナギの嫌がらせはしっかりと効いていたらしい。直撃は避けたが、炎で炙られて雷で痺れて、脳筋には刺激が強かったのか。
「くたばれ摩擦。【アンチフリクション】」
俺は大振りの拳を剣の腹で受け流す。触れた部分から波紋が広がったように見せ、力のベクトルを少し曲げる。波紋――――これは【叛逆】を使った際に勝手に出るものだから正直どうしようもない。ジジイは世界に負担がかかっているとかなんとか、その影響でー、とか言っていた。
「パリィはゲーマーの必須技能だよなぁ?」
細かいことはどうでもいいのだ。俺の【アーク】はいろんなものに【叛逆】する。今回なら物理法則だ。
摩擦を無くして滑りやすくした、ということが剣で可能ならば楽だが、そう簡単には物事は進まない。【叛逆】出来るのは俺の体だけだ。剣や服には適応されない。
つまり言いたいことは、この【叛摩擦】云々は嘘だ。さっきのパリィはただの自前の技術だし、波紋は別のものに【叛逆】して代用した。こちらを観察するローゼンへの嫌がらせ。最初から間違った認識を植え付けてやる。
「お返しだ。吹っ飛べ」
無防備な腹をさらすなんて、ここに攻撃してくださいって言ってるようなものだ。だから遠慮なく蹴りを放つ。私怨は込もっていない。体が痛いとかは関係ない。
「ツナ……いえ、リュウゴ?」
ソフィアの勘は鋭いようだ。現在体の主導権を握っているのが俺だと、すぐに分かったようだ。もっとも、名前をばらしたのはいただけないが。
「興味深いですね。二重人格ですか」
「ケッ」
ローゼンは飄々とした態度を崩さない。それが気に入らない。
対立する両者の表情は似かよっている。どちらも口元に笑みを浮かべて。
二人同時に動いた。お互いの剣が交差し、鍔迫り合いとなる。
「はじめまして。俺は二人目のジョン・ドゥだ。そのにやけ面歪ませてやるよ」
「その言葉。そっくりそのままお返ししましょう」
いくらか剣を交えた後、両者がまた離れる。
こいつは何をしてくるか分からないところがある。ツナギがやられたのも、詳しくは分からない。幻術だろうか。もっとも、【アーク】であるのは間違いなさそうだが。
「まあいい。ボッコボコにしてやるよ」
俺は剣の先をローゼンへと向けた。そして奴を注視するが、妙に認識しづらい。ツナギがやられたのもそのせいだろう。
裏側にいた時、こんなことはなかった。
「見えてるか?ちゃぁんと」
『ああ』
「それは重畳」
ツナギには俺の目になってもらおう。詳細はまだ分からないが、これでローゼンを見失うことはない。
俺には正面から迫るローゼンとゴリの姿が見えた。
『後ろ』
しかし、それは俺からそう見えただけだ。
「目隠ししてても勝てるぜ。優秀な視界があるからなぁ!」
後ろは向かずに剣だけ動かして攻撃を受け止める。
「これはまた……天敵」
「そうかい、光栄だ!」
そのままツナギが示すルートで剣を振る。時折わざと崩して隙を作り誘うが、それには乗って来ない。では、もう一つ揺さぶりを。
「幻覚かぁ?幻聴も入ってんなぁ」
「さてどうでしょう」
ローゼンのいる場所に剣を突き出すも、交差させた二本の剣で防がれる。
「フフ……」
「何だ?変態かよ」
「やめてくださいよ。疼いてしまうじゃないですか……」
「そーかい。俺もこの左手が疼くぜ」
もうさっきからずっと臨戦態勢なのだが、俺はさらに深く没入する。ソフィアはゴリの方を警戒している。まだ動く気配はなさそうだ。ならば俺は目の前の敵に集中して……
『来たな』
集中が一瞬で途切れた。
「おい、お前ら。そこまでだな」
声が上から降ってきた。見上げると、こちらを見下ろす、空に浮かぶローブ姿の男。
タイムオーバーだ。エルムが来た。
Q.どうしてリュウゴは交代後「さあ、世界に【叛逆】しようか」と痛いことを言うの?
A.彼は末期の中二病患者で、生粋のイキリストです。つまり、手遅れです。




