表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
17/89

はじめまして、俺の名前は

済(2022.08.15)


◇ リュウゴ


 少しだけ時を戻そう。と言っても、10秒ほどだろうが。


 ツナギが吹っ飛ばされ、建物を突き破る。瓦礫に埋もれたツナギは一瞬だけ意識が飛んでいたようだ。背中から叩きつけられたのだ。骨も折れているだろう。


『おーい、生きてるか?』


 返事は無くとも言いたいことはわかる。その気持ちは痛いほどわかる。徹夜でゲーム中、ひどい初見殺しを食らってアイテムロストする感覚だ。萎えるよな。そういう時は寝てしまうに限る。


 瓦礫の山から起き上がったツナギは、不服そうな顔をしている。この建物はどうやら無人のようだ。


「リュウゴ……代わるか?」


『いいのか?』


「ああ。俺は疲れた」


 なら、早くしないとな。ゆっくりしている暇はない。ソフィアが殺されてしまう。今は……話をしているな。少しなら余裕があるか?


「じゃあ最後に……【エンチャント:フレイム】――――プラス【ボルト】」


 ツナギの左手に炎が灯る。右手には雷が光る。そして両手を地面につき、炎が雷を伴って地を這う。向かう先はローゼンとゴリだ。

 ツナギの口元はにやけている。いたずらを仕掛けた子供のようで……


『よーし、代わるぞー』


 俺はツナギと体の主導権を入れ換える。心なしか逆立っていた髪が落ち着き、その表情からも、今ここにいるのは(リュウゴ)だということを確信できる。

 生で味わう空気感。自分の体の重み。それらよりもまず最初に俺が感じたのは……激痛だ。


 うん、壁を突き破るくらい思いっきり叩きつけられて?なんならゴリに殴られただけでも重傷で?


 結論。


「ツナギィ!」


『俺は何も知らない』


「確信犯かコノヤロウ!」


 はめられた。あいつは痛みを全部俺に押し付けやがったのだ。ちょっとでも同情した俺がバカだった。コノヤロウ……吹っ切れやがった。


『俺は嫌だからな。後は任せた』


 駄々を捏ねだした。こういうところはまだガキだな。

 まあ、やるけど。


 俺は立ち上がり、服についた土埃を軽く払う。その時に剣を一振り、靴を斬り落とした。それを足首のスナップを効かせて脱ぎ捨てる。靴底が擦り切れてダサかったのだ。それに動きにくい。


「【叛逆はんぎゃく】」


 そう呟き、俺は飛ぶ。物理法則を無視したように。一向に落ちる気配は無く、それどころかだんだんと高度は上がっていく。……まあ、途中で落ちるが。

 上昇を止め、そのままの勢いで、後は慣性に任せて突っ込む。背後には波紋が無数に広がっている。


「よく吠えた、ソフィア。後は任せろ」


 かなりの勢いだが心配する必要はない。地面に激突する直前で、俺は慣性に【叛逆】する。その場で止まった俺は、足を伸ばしゆっくりと地面に足をつける。


「さあ、世界に【叛逆】しようか」






 ゴリが殴りかかってくる。ツナギの嫌がらせはしっかりと効いていたらしい。直撃は避けたが、炎で炙られて雷で痺れて、脳筋には刺激が強かったのか。


「くたばれ摩擦。【アンチフリクション】」


 俺は大振りの拳を剣の腹で受け流す。触れた部分から波紋が広がったように見せ、力のベクトルを少し曲げる。波紋――――これは【叛逆】を使った際に勝手に出るものだから正直どうしようもない。ジジイは世界に負担がかかっているとかなんとか、その影響でー、とか言っていた。


「パリィはゲーマーの必須技能だよなぁ?」


 細かいことはどうでもいいのだ。俺の【アーク】はいろんなものに【叛逆】する。今回なら物理法則だ。

 摩擦を無くして滑りやすくした、ということが剣で可能ならば楽だが、そう簡単には物事は進まない。【叛逆】出来るのは俺の体だけだ。剣や服には適応されない。

 つまり言いたいことは、この【叛摩擦(アンチフリクション)】云々は(ブラフ)だ。さっきのパリィはただの自前の技術だし、波紋は別のものに【叛逆】して代用した。こちらを観察するローゼンへの嫌がらせ。最初から間違った認識を植え付けてやる。


「お返しだ。吹っ飛べ」


 無防備な腹をさらすなんて、ここに攻撃してくださいって言ってるようなものだ。だから遠慮なく蹴りを放つ。私怨は込もっていない。体が痛いとかは関係ない。


「ツナ……いえ、リュウゴ?」


 ソフィアの勘は鋭いようだ。現在体の主導権を握っているのが俺だと、すぐに分かったようだ。もっとも、名前をばらしたのはいただけないが。


「興味深いですね。二重人格ですか」


「ケッ」


 ローゼンは飄々とした態度を崩さない。それが気に入らない。

 対立する両者の表情は似かよっている。どちらも口元に笑みを浮かべて。



 二人同時に動いた。お互いの剣が交差し、鍔迫り合いとなる。


「はじめまして。俺は二人目のジョン・ドゥだ。そのにやけ面歪ませてやるよ」


「その言葉。そっくりそのままお返ししましょう」


 いくらか剣を交えた後、両者がまた離れる。


 こいつは何をしてくるか分からないところがある。ツナギがやられたのも、詳しくは分からない。幻術だろうか。もっとも、【アーク】であるのは間違いなさそうだが。


「まあいい。ボッコボコにしてやるよ」


 俺は剣の先をローゼンへと向けた。そして奴を注視するが、妙に認識しづらい。ツナギがやられたのもそのせいだろう。

 裏側にいた時、こんなことはなかった・・・・・・・・・・


「見えてるか?ちゃぁんと」


『ああ』


「それは重畳」


 ツナギには俺の目になってもらおう。詳細はまだ分からないが、これでローゼンを見失うことはない。

 俺には正面から迫るローゼンとゴリの姿が見えた。


『後ろ』


 しかし、それは俺からそう見えただけだ。


「目隠ししてても勝てるぜ。優秀な視界(ヴィジョン)があるからなぁ!」


 後ろは向かずに剣だけ動かして攻撃を受け止める。


「これはまた……天敵」


「そうかい、光栄だ!」


 そのままツナギが示すルートで剣を振る。時折わざと崩して隙を作り誘うが、それには乗って来ない。では、もう一つ揺さぶりを。


「幻覚かぁ?幻聴も入ってんなぁ」


「さてどうでしょう」

 

 ローゼンのいる場所に剣を突き出すも、交差させた二本の剣で防がれる。


「フフ……」


「何だ?変態マゾかよ」


「やめてくださいよ。疼いてしまうじゃないですか……」


「そーかい。俺もこの左手が疼くぜ」


 もうさっきからずっと臨戦態勢なのだが、俺はさらに深く没入する。ソフィアはゴリの方を警戒している。まだ動く気配はなさそうだ。ならば俺は目の前の敵に集中して……



『来たな』


 集中が一瞬で途切れた。


「おい、お前ら。そこまでだな」


 声が上から降ってきた。見上げると、こちらを見下ろす、空に浮かぶローブ姿の男。

 タイムオーバーだ。エルムが来た。

Q.どうしてリュウゴは交代後「さあ、世界に【叛逆】しようか」と痛いことを言うの?


A.彼は末期の中二病患者で、生粋のイキリストです。つまり、手遅れです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ