教師としては無能な二人
済(2022.08.15)
◇ ツナギ
薄暗い路地裏。相対するは俺とローゼン。その背後にはそれぞれソフィアとゴリがいる。
「やれやれ、早くしなければ騎士団が来てしまいますね……」
ローゼンはそう呟き懐から何かを取り出すと、それを前ヘ投げた。赤黒い、指程度の大きさのものが二つだ。
「数で攻めるとしましょうか。コレを使うのもオーダーですしね」
『うわっきめぇ』
それは同感だ。ローゼンが投げた……肉片とでも呼ぼうか……それが二つ蠢いたと思ったら一気に巨大化した。そして現れたのは、……なんだ?あれ。名状しがたい冒涜的なモノだ。それだけは分かった。
「何?これ?」
ソフィアの声にも不快感が滲み出ている。
「まずはあなたから殺しますか」
「ッ!」
ローゼンが迫って来た。妙に気配を読みづらい。さっきからいちいち姿がブレる。相手の気配を捕捉出来ないのは襲撃時と同じだ。
しかしリュウゴは何故か正確に認識できているようなので、俺だけに見えるその姿を追いかけるように剣を振る。さながら視界が悪い時の道標だ。もっとも、とてもやりにくい。
「チッ!」
(やはり一度認識されるとバレますか……。要対抗策の献策ですね)
目を細めてやりずらさを感じながらそれを払いのけるも、ついさっき生まれた魔物が二体、立て続けに襲ってくる。その後ろにはゴリと呼ばれた大男が走って来て……
「【エンチャント:フレイム】」
俺の剣が炎を纏う。今まさに俺に届こうとした魔物を横なぎに剣を振るって屠る。炎の軌跡が、奴らの頭があった場所に残っている。血は出ない。
「オオォォォォォォォォォ!!!」
大きな雄叫びを上げて、ゴリが殴りかかって来る。ただ力任せに来るだけだ。
『これは避けだ』
言われなくとも分かっている。石畳を割った大振りの拳を避けるも、避けた先にローゼンがいる。離れたところでは、また新しい魔物が生まれている。何匹かはソフィアの下ヘ向かっているも、自分で防いでいるようだ。
「【エンチャント:アイス】……【ロック】」
剣同士で斬り結びながら、俺はローゼンの足元に氷やら岩の出っ張りやらを作り、小細工をする。当然そんな見え透いた罠にかかってはくれないが、こちらの多彩な手札を一部見せておくことも駆け引きの一つだ。まだ何かしてくるぞ、と思わせられる。
……ああ、しかし眠い。面倒だ。敵が多い。ソフィアを守らなければ。眠い。腹減った。体が痛い。……
目の前では戦いが繰り広げられている。最低でもローゼンとゴリの相手は俺がしなければ。どんな攻撃手段を持っているか分からないからだ。
よし、こいつらさっさと片付けるか。
エルムは……まだ来ない。
◇ ソフィア
私は、魔物に群がられている。正確には、魔物を押し止めていた。
正直、油断していた。
『聖都』の街の中で、命を狙われるとは思ってなかった。普段から鬱陶しいくらいの名ばかり護衛に護衛として感謝したのはこの時が初めてだ。
自分の【アーク】に胡座をかいていた。これは、私が入れたくないものは入れない結界だ。……それもついさっきまでだったのだが。
(て言うか何よ!気持ちが足りないって。そんなの知らないわよ!)
思い出すのはツナギに言われたこと。おおよその言いたいことはなんとなく分かったが、本能で理解できていないのかもしれない。
「ソフィア!今からちょっと負担をかけるかもしれないけど……まあ、がんばれ!」
ローゼンとゴリの猛攻から抜けてきたツナギが、【聖域】の周りの魔物を斬りつけながら私に話しかける。
自分で何とかしろ、と。
「え、ちょっ……」
「大丈夫。本気でやれば何とかなる」
『根性論じゃ分からねえだろ?……そうだな、MPゲージ削ってバフかけるイメージだ。なっ?』
もっと分からない。エム……?バフ……?リュウゴは時々意味の分からない言葉を話す。そういう時は無視するに限る。気にしたら負けな気がする。
ツナギがその場にしゃがみこみ、地面に手をつける。
「【エンチャント:フレイム】」
辺りが炎に包まれた。ツナギが火を着けたのだ。路面に炎が走る。
「熱ッ」
一瞬だけ熱さを感じるも、すぐにそれを遮断する。拒絶の対象に熱を加え、再度壁を展開したのだ。【聖域】にはそれもできる。
「何を……」
どうしてこんなことをしたのか問おうとするも、周囲の魔物たちを見てその考えは変わる。溶けているのだ。
「おや、もう対策してくるのですか」
「妙に脆いんだよ、こいつら。お前らいったい何をやってるんだ?」
匂いはしない。生物……と言って良いのか分からないが……それが燃えているのに、だ。倒れて溶け出している魔物たちは、その死骸さえも残していない。
「ただの使い魔ですよ。あなたと同じ、ね?……ところであなたも【アーク】を持っているのですか?私、才能に嫉妬してしまいそうです」
「……グレンをこいつらと一緒にするなよ。精霊様だぞ」
それは初めて聞いた。ツナギの頭の上に乗っている姿からは想像できない。あれが威厳と神秘に溢れる精霊だなんて……
騎士団は……まだ来ない。




