主人公とヒロインの邂逅~冒涜的な実況を添えて~
済(2022.08.10)
◇ リュウゴ
前回までのあらすじ!
ツナギが女の子に話しかけようとしている!
正直、眠たくて眠たくて仕方がないのだが、こんな面白そうなこと見逃すわけにはいかないだろ?ずっと森に引きこもっているおかげであまり外の世界と関わったことのないツナギにとっては一世一代の大勝負なのだ。知らんけど。後でイジろっと。
「誰……?」
少女がツナギに気付いた。声には警戒心がにじみ出ている。
「驚かせてごめん。きれいな歌だったから」
ツナギが少女に歩み寄る。いやお前完全に不審者だぞ。城があったので登りました、は通用しない事の方が多いんだぞ。
焼き鳥は空を旋回しながら飛んでいる。
「あなた……」
「?」
「こんな朝早くからも追いかけてくるなんて!!」
「!?!?」
少女が立ち上がり、『大聖堂』の屋根の上を駆けだす。と言っても、そこは狭い。すぐに端に辿り着き―――――少女はその身を投げ出した。
「な……おいっ!」
この『大聖堂』は巨大な建造物だ。何階建てなのかは知らないが、もう物凄く高い。向こうの高層ビルと同じぐらいには高い。そのうえ横幅もある。街のシンボルでもあり国の象徴でもある『大聖堂』からは、当然飛び降りたら余裕で死ねる。
「【聖域】」
しかし少女はそうなることはなく、宙に立っていた。目を凝らせば、その足元に淡く輝く透明な結界があることに気付く。そしてそれは、ここ『大聖堂』の頂上から街の方へと続いている。少女は、その上を走って遠ざかって行った。
「なあちょっと聞きたいこと……がッ!!!」
遠ざかる少女に話しかけようとしたツナギは不用意に、宙に浮く足場を通って少女を追いかけた。いや、そうしようとした。しかし、それはツナギが落ちた事によって叶わない。……くそだせぇ、笑える。
(消えた……いや違う。すり抜けた)
足の下、足場――――つまり踏みしめるものがなくなり、落ちたのだとツナギは思った。しかしそれは、先ほどすり抜けたものの次の別の足場へと伸ばした手が何も掴まなかったことにより否定される。その場にある、見えているにも関わらず、ツナギはすり抜けたのだ。少女はすり抜けないのに対して。……嫌われてて笑える。
(【アーク】ならそれぐらいはできるか……)
【アーク】と呼ばれる能力がある。一国に十人もいれば国を侵す者なしと言われ、英雄ともてはやされる。また、不思議な現象を操ることができるとされており、その性質もバラバラ。一説では本人の性格に左右されるとかしないとか。
と言っても億のうちの十人だ。数は少ない。まあ、ぶっちゃけ俺もツナギも持ってるし、周りの奴らもだいたい持ってたせいかレア感が薄いんだよなぁ。
(さて……護衛ってのはあの子のことだよな。ここからどうするか……)
『大聖堂』の頂上から落ちながら、ツナギは少女の姿を見る。二人の距離はかなり離れており、それは今なお広がっていく。天を駆ける姿はとても美しく――――
「べー」
少女が舌を出してツナギを見下ろす。荘厳さのかけらもない実に可愛らしい行動なのだが、それは同時にツナギの地雷でもある。
原因は俺のせい。バカにされる見下されるというストレスを俺が毎日与えているからだ。少女にとっての不幸は、ツナギが寝ていなかった――――頭の回転が鈍っていたことだろうか。
「上等だよ。捕まえてやる」
ツナギにとってのトラウマ、もとい怒りのツボの一つは、見下されること。普段ならスルーするのだろうが、今回は間が悪かった。ところで、そのトラウマを普段から植え付けている張本人と致しましては誠に申し訳ないとは思っていますが反省は全くしておりません。
(ところでどうしたものか。パンツ見えねぇ)
少女はスカートではなくやけにヒラヒラしたズボンを履いている。その奥の聖域をうかがうことはできない。まあクソほどどっちでもいいけど。
空中を落ちて行く中、手を打ち合わせてツナギは笑った。
「【エンチャント:ウィンド】」
俺たちは、自由落下には慣れている。だいたいあのクソジジイとクソエルムのせいだ。実に嘆かわしいことだが、そのせいでツナギはこんな状況でも動じていない。
「フウッ」
全身に纏った風が落下の勢いを殺し、ツナギは『大聖堂』の屋根の内の一つに着地する。ピシッという音は聞かなかったことにしよう。
「グレン!手伝ってくれ!」
「ハア……世話のかかる」
『大聖堂』の三分の一ほどを自由落下したツナギは、残りを自分の足で下りながらグレンに協力を取り付ける。空から少女の姿を捉えておいてほしいというわけだ。空なら障害物はない。
さあ、面白くなってきた。
◇
ちょっと前までのあらすじ!
ツナギがストーカーしようとしている!
もう字面だけで面白い。
本当のところを言うと、煽られたツナギがキレた。寝不足で気が立ってたんだなぁ……
(なにかしらあの赤い鳥……)
少女が目にしたのは、グレンだ。グレンの体の色は鮮やかな橙色で、目を引くのも無理はない。問題はその鳥が追跡者の目となっていることだが、そんなことは少女には知る由もない。
「あっちか」
ツナギはそんなグレンと、空中に展開された足場から少女の位置を特定する。『大聖堂』に備え付けられた門をくぐり、辺りを覆う堀に架けられた橋を通って街へと繰り出す。起きている人の気配も増えてきた。
「いぃ!?何ですぐに追いかけられるのよ!?」
ツナギにとってはそうではなかったとは言え、常人なら生を諦めるほどの高さだった。前世の俺なら五点着地を試して無理ならそのまま死ぬだけだ。しかし、俺たちにはもう高さを怖がるなどという感情は残っていない。たとえパラシュートなしで成層圏から落ちても生き抜いてやる自信がある。
建物の上に乗り移ったツナギは、当然その頭上にいる少女からよく見える。故に、これはツナギからの宣戦布告。こういうところはまだまだ子供だ。
「むぅ……」
それを見た少女は進行方向を変える。そしてツナギも路地裏に溶け込む。
追いかけっこの始まりだな。フィールドは『聖都』全域ってか?
少女は空中の足場を飛び降りるように高度を落とし、いまだ人の少ない通りに降り立った。そしてツナギ同様路地に入る。
そうして『聖都』の街を縦横無尽に駆け回ったその先に――――
「【エンチャント:ライト】」
ツナギは先回りしていた。
ツナギがそう呟くと、少女の足下が輝きだした。と言っても、ただ強く輝くわけではない。淡く、儚く、しかし薄暗い路地に確かな存在感として。
ツナギとしては追いついて一泡吹かせた時点で怒りなど忘れてしまっている。おおよそ、驚かせつつ楽しませることを考えてのこの演出だろう。
「ハア……ハア……」
息を切らした少女はここからさらに逃げる素振りを見せず、ツナギの作り出した光の世界に目を奪われている。
そもそもどうやって居場所が分かって待ち伏せしていたのかと言うと、単純なことだ。グレンがいた。そこから少女の現在位置はこちらに筒抜けだった。それが理由の大半ではあるのだが、強いて言うならツナギは路地裏での駆け引きに長けていた、というわけだ。
それについては『聖都』ではない場所でのある種の黒歴史が関係しているのだが……役に立ったのならそれでいい。
「あなたも……」
少女が驚いたような声を上げる。それも無理もない。いくら俺たちが慣れていると言っても世間一般では【アーク】は貴重なのだ。そうポンポンいるようなものじゃない。
「どうぞ、お嬢様?」
ツナギが勧めるのは、ついさっき自らが彩ったものだ。ツナギの意思を反映した淡い光が少女の手に触れ、消える。小さな粒子に分解された光は闇に溶け消えた。
それにしてもキザなセリフだ。「どうぞお嬢様」、だとよ。
それを聞いた俺は……
『ブフォッ!!!』
盛大に吹き出した。
『アッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!』
俺の笑い声が、静かな路地に響いていた。腹ァ捩れる!
【アーク】=ユニークスキルぐらいの認識で構いません。タイトルにもありますが、特に気にする必要はないです。しばらくは。




