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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
11/89

城に張りつく例のあの子

済(2022.08.08)


◇ ツナギ


 ここはどこだ?いや、それは知っている。『聖都』ベラだ。ただ、ここに来たまでの経緯が少し曖昧だ。

 えーと……たしか……



「で?結局何を企んでるんだ?」


「そうカリカリしないで下さいよ。私だって詳しくはないんです」


『うっせえ、さっさと吐け』


「そうですねぇ……なんか護衛らしいぞ?がんばれ」


「えぇ……?」


『なあ今からでも逃げた方がよくね?』


「そうはさせませんよ……あ、すみません。馬の替えお願いします」


「え?隊長!?何でここに!?ホート村は!?」


「その件はもう解決しました。今は全くの別問題に直面しています」


「はあ……」


『隊長……?そういや前もそう言われてた気も……』


「ところでツナギ君、御者代わりません?」


「いえ、結構です」


「チッ」


『舌打ちすんなよ、この暗黒騎士(ブラック企業戦士)。職務怠慢か?』


「私ほど真面目な奴はいませんよ。ほら今もボロボロになりながらもあなたを運んでるんだよ」


『おい焼き鳥、どう思うよこのおっさん』


()の主張をせんのをいいことに使い潰される奴の目だ。森にもそういった奴らは多い。弱肉強食だな」


『だとよ。強く生きろ社畜よ』


「へー……ああそうだツナギ君。『聖託』ぶん殴っていいですよ。それはもうボッコボコに。何が一日前には着いておけだ。ぶっ通し確定じゃねえか」


「いやぁ……殴らないよ。さすがに」


『んじゃぁ俺がやってやるよ』


「私の分もお願いしますね」


「隊長。馬の交換、終わりました!」


「ご苦労様です。では行きましょうか。道程はまだ半分ほどある」


「うっ……またあのガッタガタの……」


「この先の道はもうだいぶ整備されてるのでいくらかマシだとおもいますよ」


「寝たいけど寝れないんだよなぁ……痛くて」


『走っていった方が楽だったりして』


「それは……あるかも」


「さて……あれ?私いったい誰と話してるんでしょうか?」


「これは重症だな。錯乱している」


『まあ……こっち三人いるからな。一匹鳥が混じってるけど』


………………………

……………

………


 こんな感じだった気がする。でもさすがに<聖託>を殴っていいとは言ってないんじゃないだろうか。騎士がそんなこというはずがない。






 『聖都』は大きな街だ。この国だけでも、もしくは世界的に見ても。

 『大聖堂』を中心に広がる街並みは美しく、神秘的な石造りの建物が多い。朝の光を受けて輝きだすその様を見るために訪れるという人がいるのも納得だ。


「さて……ご要望通りの『聖誕祭』一日前です。何とか間に合いましたね……」


「この強行軍も二度とやりたくねえ」


 『聖都』を囲う外壁と一体となった関所を抜けながら、俺たちはようやく着いたこの旅路に一息つく。結局あれからは一睡もできていない。丸二日寝ていないことになる。肉体的にも精神的にも悪影響の出る苦行はもう二度とやりたくなかったのだが、そう都合良くはいかなかった。

 朝の『聖都』という、それなりに好きな光景に身を投じているというのに色褪せて見えるのは気のせいだろうか。それとも嫌な記憶がよみがえってくるからだろうか。


 マーク村から『聖都』まで、俺は馬車で運ばれた。途中で村々を経由しては疲れた馬を代え、車輪の壊れた荷台を代え、『聖都』に着いた頃には、早朝に出発したというのに日をまたいでいた。上り始めた太陽の光が眩しい。

 大通りを馬車が進む。その道には石がきれいに敷き詰められており、揺れはほとんど感じない。早朝なので人が少ない広場を抜ける際、噴水からの水飛沫が寝転んだ俺の顔にかかった。



 そうして『聖都』の中心にそびえる大聖堂に無事に合法密輸入された俺は、招待状を見せて部屋を提示される。見せたのはもちろん『レイさん』宛てのものだ。国賓用の部屋に案内されるつもりはない。アホ(リュウゴ)なら迷わずそうするだろうが。『大聖堂』のだいたいの構造は頭に入っているので迷うことはない。

 ちなみに野郎(リュウゴ)は今は眠っている。


 『大聖堂』の一室。俺は豪勢な部屋ではあまり落ち着けない。森で暮らしているからだろうか。ここに何部屋もある質素な部屋の一つに扉を開けて入った俺は、フカフカのベッドに倒れ込んだ。沈み込むこの感じがどうしようもなく心地よい。

 だって馬車が揺れるんだもん。いや、馬車とは言ったがあれはもはや荷車だもん。揺れると言うか跳ねるんだもん。……とにかく乗り心地は最悪だった。


「……寝れない」


 体は疲れているのに妙に寝付けない。馬車の上ではあれほどまでに安眠を渇望していたというのに。


「なあグレン、どうしようか」


「うまい空気でも吸えばいい。そうすれば何かは変わるさ」


「それもそうだな」


 リュウゴを相棒(呪い)とするならば、グレンは友達だ。出会ったのはたしか5年ほど前。その時も『聖都』に向かっている最中だった。もう随分と懐かしい。


 そんなことを考えながら、俺は窓から部屋を出る。うまい空気を吸うなら高い所の方がいい気がする。あと、純粋に高い所は好きだ。


「よっ、と」


 窓の縁に足を乗せ、外壁に僅かにある窪みに指をかけて屋根の上に登る。『大聖堂』はいくつもの棟が組み合わさった造りとなっており、それすなわち、規模の大きさにも直結している。『聖都』を運営する者たちはほとんどがここに住んでおり、上層部、騎士団、そして一般職員たちの家であり、職場であり、城でもある。

 グレンは自らの翼で飛んで来た。灰暗い空に橙色の翼がよく映える。


「とりあえず上に行くかぁ」


 屋根から屋根へと乗り移り、時には立てに跳躍してさらに上の屋根に行き、しばらくしてようやく頂上が見えてきた。






 端から見ると完全に不審者そのものだったかもしれないが、ツナギはその事に気付く様子はない。

 実は、騎士団は彼の姿を見つけており、なんなら報告寸前までいったりしていたのだが、「なんだまたあの子か」と黙認されたのだ。

 これにはツナギが『聖都』に残した黒歴史が大きく関係するのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。






 頂上を見据えながら、俺はニュートさんとの去り際の会話を思い出していた。


「そういや気にはなってたんだが……護衛ってのについて詳しく聞いてもいいか?」


「そうですねぇ……かわいい女の子ですよ。君の年齢は知りませんが多分君と同い年です」


 道中では不満であふれていたが、もうここまで来たならやるしかないだろう。『聖託』の思惑にも意を決して飛び込まなければならない。……面識はないけど。


「我々騎士団……と言うより、私の隊が『聖都』周辺の村に散らばっているということは察してますよね?」


「ああ」


 ところどころ新事実を伝えられた気がするが、その件については知っている。ニュートさんが愚痴っていたのだが、ホート村も無事とのことだ。


「それで一部隊分……と言っても私のところは少ないのですが……まあ人手不足になるというものですよ」


 VIPは護衛を連れてきているので大丈夫であるという見解なのだが、その少女を普段護衛しているのがニュートさんの部隊にいる団員らしい。名前はパナールというそうだ。その人も村を守るために今は『聖都』にはいない。


「そんなこんなで君に白羽の矢が立ったんですよ。ちなみに提言者はエルムさんです」


「んのバカエルムめ……リュウゴが嫌うはずだ……」


「奇遇ですね。私も彼は嫌いです」


 つまりだ。俺の役目はその護衛の代役。万が一は起こってからでは遅いのだ。

 まあ、起こらないでほしいけど。


「何はともあれ『聖誕祭』当日は頼みましたよ。『聖託』には私から伝えておきます。では」







 歌が聞こえてきた。子守歌のような歌だ。


 頂上に近付くにつれ聞こえてきたのだ。わずかに明るくなってきた世界と合わさって、実に神秘的だ。


「――――――――――」


 そこには、少女がいた。

 大聖堂の頂上に座り込み、長い白髪を風になびかせている。顔は見えない。髪で隠れているのだ。

 どうやら先ほどから聞こえていた鼻歌は彼女のものだったらしい。



 俺が近づく気配に少女が気付いた。彼女の口が次に紡ぐものは……

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