始まりの『1』
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「ふう、これで一段落か」
廃墟と化した―――――しかしそれでも荘厳さを感じさせる建物の中に、男が二人いた。ただし、そのありさまは対象的だ。立っている者と倒れている者。さながら勝者と敗者のように―――――
「願わくば次は自由に生きてほしいものだ」
そう言うと、立っている男は何かをし始めた。首からさげたペンダントからいくつもの光が溢れだす。赤、青、金、果ては白から黒まで。虹のような色彩に、辺りは包まれる。
光が倒れている男を包み込み、その体を粒子へと変える。少し桃色がかった男の白髪が風になびき、目元が現になる。もうすでに死んでしまっているが、その目元には涙が浮かんでいた。
後悔と、安心と、感謝と、それらでごちゃまぜになったような涙だ。
「全く、アイツにはお灸を据えてやらんとな。何万年後になるかはわからんが………ククッ」
苦い表情をするも、自らの友人にこっぴどくやられるだろう「アイツ」のことを思うと、わざわざ今手を出す必要はないと嘲笑する。
「………あぁ駄目だ。また未来を見てしまった」
ボコボコにされる「アイツ」見たさについ気を抜いてしまった。いつになってもこれだけは治らないと、男は自らをも嘲笑する。
「まあいい。彼は元気そうだった。贈り物は丁寧に扱わないとな」
それは、人道的には非道とされるのだろう。しかし、男の行動には一切の迷いがない。そもそも人ですらない者に人道を説いていったい何になるというのだろうか。
「我は無益なことはせん。が、そこまで無粋でもない」
もはや光は辺りを包み込み、夜だというのに真昼よりもなお、明るい。
「安らかな終焉をくれてやる。魂には手を出さん。もっとも、体の方は使わせてもらうがな」
そう言うと男、□□□は作業の最終工程へと入る。それは、実に、5409年後のとある人物への贈り物。□□□の、この世界での友人が創った世界。そこからの来訪者のためのもの。実際には、その人物の事情はかなり複雑なのだがそれすらも□□□の関心を引き立てる。
「まあ、お前はよくやったよ。ここまで、一人で。来世では良い縁に恵まれるといいな」
光ももうすでに収まり、さっきまで中心だった場所には小さな赤ん坊がいた。桃色がかった白髪の赤ん坊だ。
「餞別だ。持っていけ」
そう言って□□□が渡したのは、さっきまで自分が首から掛けていたペンダントだ。二つの輪っかで構成され、中に淡く光る結晶が入っている。
それが、ふわふわと飛んで赤ん坊の下へと向かっていく。
「それは何かと便利だ。そういうものだからな。困った時には助けてくれるかも知れんぞ」
全て言い切るのを待たずに赤ん坊は未来へと跳んでいった。後に残るのは□□□、彼は今いったい何を思っているのだろうか。
「フッフ………あいつらもそろそろ終わったかな。我を顎で使ったのは高くつくぞ」
果たして全員生きているのだろうか。凄惨な笑みを浮かべて友人たちに想いを馳せる。そうして衣服をはためかせて□□□は歩く。
「あぁ、そうだ」
ふと何かを思い出したように□□□が振り向く。そこには誰もいない。だが―――――
「覗き見は良くない」




