非行少女
道を一つ、逸れて見た―――下らない帰り道の変更。
私はいつも同じ道を、同じ歩幅で、同じ時間に歩く人間だった。
そんな私が一本、横の道に逸れて見たのだ。
知らない道だった―――家から徒歩一キロも無い距離だが、本当に初めての道。
知らない家が並んでいる、知らない猫が休んでいる、知らない川が流れている。
知らない物だらけの日常を知った―――私は一つ、知らなくて良い事に脳のリソースを割いた。
私は一つ馬鹿になって、少し楽しくなった。
試しに歩幅も変えてみる。
規則正しい一歩一歩ではなく、少し跳ねる様に一歩半の距離を踏み込む。
腕に掛けるバッグの中身も跳ねている。
頭の後ろで一つに纏めた髪も跳ねている。
更に楽しくなってきた―――だから、いっそ髪を解いてみた。
ずっと結んでいたので、一箇所だけ中心に寄った跡が残る髪を、頭を振ってバラけさせる。
もう辛抱ならない、これ程楽しいのは初めてだ。
辺りの家の人に怒られるのではないかと思い、少し怯えながらも、鼻歌も試す。
音楽を聴く暇が有れば勉強をする様な躾をされてきたので、私はロクに音楽を知らない。
だから、学校のクラスで流行っており、何度か耳にした曲を、うろ覚えで歌う。
もう楽しくて仕方がない。
帰り道を少し逸れただけでこれ程に楽しいのかと、自分の気紛れの成果に驚く。
気分はオーケストラ―――自分が主役、世界が観客。
万雷の喝采を浴びる様な気分で、一本逸れた知らない道を進んで行く。
人気の少ない知らない道―――そこは私の、ユートピアだった。
私は道を逸れた。
帰り道とそれから、生真面目に生きてくつまらない道から。
初めて娯楽に触れた、自由に触れた。
私はもう一度道を逸れる。
元来た道の方へと、一本だけ。
帰り道は戻ったが、私は少し変わってしまった。
髪をバラバラにして、鼻歌を歌い、軽い足取りで家に帰る。
人生で初めて、非行を犯した日であった。
読んでくださりありがとうございます。
普段ファンタジーらしきものも書いているので、そちらも読んでいただけると幸いです。
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)