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8話 押しかけ幼馴染

 土曜日の昼下がり。


ピンポーン。


 誰かと思ってインターホン越しに確認すれば由奈がいた。


「何しに来た?」

 

 ドアを開けるなりぶっきらぼうに言い放つ。


「来週小テストあるでしょ? 勉強教えて!」

「連絡くらいよこせよ……」

「いやー、急に部活の練習が無くなって暇になったら『あ、新の家に行こっ』って思ったら体がそのまま動いてて……」


 お前の脳みそは飾りか、と喉元まで出かかった言葉を我慢。

 由奈の無計画っぷりは今に始まったことじゃない。

 三つ子の魂百まで。もう……諦めるしかないのだ。可哀想に。


「なんか私のことバカにしてますオーラが出てる」

「すごいな、正解だ」

「むーっ」


 猫みたいに唸る由奈。

 野生児という言葉が頭をよぎる。

 それにしても由奈の直感はすごいな、結構な精度で当たってる。


 それはさておき、さて困った。

 相手は幼馴染、毎週のようにお互いの家を行き来していた間柄とはいえ今の俺は彼女持ち。

 彼女のいる身でありながら別の女の子を家に入れるのは憚られる……。


 どこか別のところにでも行くか? ワックとか。

 などと考えていると後ろからひょっこり義姉さんが顔を出した。


「あら、由奈ちゃんじゃな~い。いらっしゃ~い」

「こんにちは! 霞さん! お邪魔してもいいですか?」

「もちろんよ~。さ、上がって上がって」

「ちょっ、勝手に話を進めないでってば」


 慌てて二人の間に入ろうとしたのだが、由奈のすばしっこいこと。

 するっと俺の脇を抜けて家に侵入してきた。


「義姉さん、俺一応波留と付き合ってるんだけど」

「知ってるわよ?」

「じゃあ、他の女の子を家にあげるのはまずいと思うんだけど……」

「あら? もしかして新ちゃんは由奈ちゃんのことをそういう風に思ってるの?」

「そういうわけじゃないけど……」

「ならいいじゃない。付き合いの長いお友達だもの、大切にしなきゃダメよ」


 言いくるめられてしまった。

 だけど義姉さんの言うことも一理ある。

 由奈は俺にとって大事な友人だ。恋愛感情はない。

 それに由奈のことは波留も知ってるわけだし問題はない、か。


 なんとか自分を納得させる理由をでっち上げて諦める。


「分かった……でも俺の部屋はダメだからな」

「オッケー、でも私としてはゲーム機のある新の部屋が良かったんだけど」

「勉強しに来たんじゃなかったのかよ」


 三歩歩けばすぐに忘れる鳥頭。

 脳の容量が少ない小動物に一定以上のストレスを与えると思考がショートして固まる(エサの取り合いに負けたモルモットとか)らしいが、こいつも多分同じなんじゃないだろうか。


 リビングに勉強道具を持って来てそのまま始まる勉強会、という名の無料個別指導塾。

 人に勉強を教えるのは嫌いじゃない。自分の復習にもなるから。

 とはいえ俺も由奈も高校生。自己責任の割合が強くなってくるお年頃。

 一方的に教えるというのも癪だ。

 何か対価を貰おうか……。


「なあ由奈」

「なにー?」

「男らしさ、ってどうやったら身に付くと思う?」

「んー、やっぱり筋トレじゃない?」


 相談する相手を間違えた。

 早くも俺は後悔した。

 脳筋を地で行く由奈に聞くべき質問ではなかったな。


「あ、でもこれ真面目な話なんだけどなー」

「そうなのか?」

「今って成長期がちょうど終わるくらいでしょ?」

「そうだな」


 もう身長の伸びはあまり期待できそうにない。残念なことに。


「身長が伸びた分、筋肉とかはまだ出来上がってないわけですよ」

「由奈が頭の良さそうなことを言ってる……」

「ほら、プロ野球選手の高卒ルーキーが一年目は体を作るのに集中するためにあえて二軍でトレーニングをする──みたいなことあるじゃん」

「ほーん……」


 分かるような……分からないような。

 俺、スポーツにそんな詳しくないんだけど。


「だからこそ筋トレをすればいいんだよ! 少しでも早く大人のカラダになるためにはやっぱり筋トレ! 間違いないね」


 どやぁ、と得意げな由奈。

 腹立たしいが一理ある。

 確かに身長は伸びたものの、体つきも顔つきもまだ大人とは言い難い。

 人は見た目が九割、なんて言葉もある。

 このまだ子供特有の幼さが残っているせいで波留にも大人の男として見てもらえないのかもしれない。

 それに筋肉はつけておいて損はない。

 今から鍛え始めれば夏頃にはそれなりに体もできてくるだろう。

 万が一波留と海とかプールに行くことになった時に、鍛え上げた肉体を披露することができれば……


「ねえ、新」

「ん?」

「顔がキモい」

「はぁ!?」

「なんか絶対エッチなこと考えてた」

「バっ! そんなことないって!」

「そうやってすぐ取り乱すのも子供っぽいんじゃない? ヨユーがないんですよ、ヨユーが」

「ぐぬぬ……」


 今度こそ何も言い返せない。

 由奈のしてやったり顔がより一層俺から平常心を奪っていく。


 泰然自若。

 動かざること山の如し。

 つまりは誰相手でもどっしりと構えて横綱相撲ができるようにならないといけないわけだ。

 ……ってことはやっぱり筋肉じゃね?


「いっぱい食べていっぱい動く、それが大人への近道だと私は思います!」

「なるほど、悔しいが参考になったよ」

「というわけで報酬におやつを所望します」

「あんま調子乗んなよ、勉強教えないぞ」

「うっ……」


 筋トレか……。

 筋肉は裏切らないって言うし、とりあえず筋トレ初めてみるか。


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