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4話 クラスの聖女様

「じゃ、私朝練あるからー」

「そっか、がんばれよー」

「じゃねー」


 昇降口で由奈と別れてそのまま教室へと。

 少し余裕を持って家を出ていることもあって、人はまばら。

 時間に余裕を持って来ているやつは大抵真面目、それにまだ四月、クラス替えもあったばかりで人間関係も探り探り──というわけで歓談している生徒も多くない。


 ……落ち着くな。

 さっきまでカロリーの使う由奈の相手をしていたせいだろう、静寂が心地いい。

 それにしても疲れた、今日の授業は寝ない自信がない。


 はぁ、とため息を一つ。

 すると隣の席から、


「ため息をつくと幸せが逃げますよ」

「っと……そうだったな」


 声をかけてきたのは新田アリサ。

 一際目立つプラチナの髪が朝陽に照らされてキラキラと輝いている。

 大きなサファイアの瞳で見つめられると、どうも居心地が悪い。

 今日も相変わらずお美しいことで。


「寝不足ですか?」

「いや、ちょっと朝からカロリーの使う相手と話しただけ」

「……女子ですか?」

「そそ、女バスの津川由奈。幼馴染なんだよ」

「ああ、彼女ですか……」


 さすがは有名人。

 頷いたところを見ると新田も由奈のことを知っているらしい。


「まあ、寝不足ではあるんだけどね」


 昨日はそんなに眠れなかった。

 例のごとく──どうすれば頼りがいのある大人な男になれるのか。

 それを考えていたせいだ。


「まだ四月ですよ。その調子じゃ先が思いやられますね」

「手厳しいな……」

「授業中、寝たりしてはダメですよ? 毎度起こす私の身にもなってください」

「それは本当に……いつもお世話になってます!」


 「仕方のない人ですね」と言って新田は不器用に微笑む。

 瞬間。

 殺意の込められた視線が向けられる、主に男子から。


 新田はその特徴的で際立った容姿と、気高く真面目な性格もあって学校では「聖女」なんて呼ばれている。

 同学年の女子の中でも飛びぬけて大人っぽい、と言われている彼女に想いを寄せる男子は数知れず。


 去年も同じクラスで今年は隣の席……という幸運を手にした俺に対して殺意と嫉妬、負の感情をごった煮にした視線を向けてくる男子の気持ちはよくわかる。

 だが落ち着いてくれ、俺は敵じゃない。俺には波留という彼女がいるんだから。


──そろそろクラスの男子とかにも話しておくかな……。


 三つも年上の彼女がいる、なんて話すのは飢えた鳥の群れに餌を放つのと同じこと。

 根掘り葉掘り聞かれるのは避けられないだろう。

 だが、こうも敵意のこもった視線を向けられていては友達にもなれない。

 今度そういう話題が出たら話すことにするか、と俺は決意を固めた。

 

 黙々と、授業の予習を進めていると再び新田が声をかけてきた。


「鳥羽くん」

「……ん、なに?」

「今日、私たちが日直なの忘れてませんよね」

「あっ」

「はぁ……やっぱり忘れてましたか」

「ため息は幸せが逃げるんじゃなかった?」

「誰のせいだと思ってるんですか!」


 小声で叫ぶ新田。

 随分器用な声の出し方をするものだ。


「確認しておいてよかったです、本当に鳥羽くんは手のかかる人ですね」

「新田は頼りになる……な」


 はっ、と。

 冷や水を浴びせられたような衝撃。

 

 新田が頼りになるんじゃない、俺が頼りないんだ。

 神は細部に宿る。

 常日頃から頼りがいのある男であらねば、波留の前でも頼りがいのある男でいられるわけがない。波留が見ていないからと言って手を抜くことは許されない。


 俺はこういう所が「頼りない」んだ。

 大人の男なら


──そうそう、日直の仕事。新田の分まで終わらせておいたから。


 みたいな感じで颯爽と、それでいて恩着せがましくなくやってのけるはずだ。


「どうしたんですか?」

「いや、すまない。新田のおかげで目が覚めたよ」

「は……はぁ」


 要領を得ない、といった様子の新田。

 突然なんのことか分からないことを言われて狐につままれたような顔をしている。


「いつも頼りっぱなしで悪かった。俺、心を入れ替えるよ」

「……なにか悪いものでも食べましたか? 今日の鳥羽くん、様子が変ですよ?」

「ちょっと……色々、あってな」

「まあ……心を入れ替えてくれるなら私としては文句はないのですが……」


 素直に感心した俺は思ったことをそのまま口にする。


「それにしても新田はすごいな」

「と、突然何を言うんですか!?」

「頼りがいがあるし、話していて落ち着くし」

「ちょっと、鳥羽くん!?」


 何故か新田が顔を赤くしている。

 優等生の新田が褒められ慣れてないわけはないだろうに……。


「いや、本当にすごい『大人』って感じだ。俺も見習わないとな」

「もう……突然変なこと言わないでください……」


キーンコーンカーンコーン。


 ちょうどそのタイミングで予鈴が鳴って、担任の先生が教室に入ってきた。

 蜘蛛の子を散らすようにクラスメイトたちが席につく。


「じゃ、日直頑張ろうな」

「……はい」


 新田は尊敬できる相手だ。

 性別こそ違うが、新田から学べることはたくさんある。隣の席になれたのは運が良かった。

 その日俺は新田の態度を参考にしようと、新田のことをチラチラと見ていたのだが……そんな時に限って新田はどうも上の空……と言った感じだった。




これでヒロインは全員登場(今のところ)です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! 


と思ってもらえましたら、ブクマ登録と広告の下にある【★★★★★】から評価していただけると作者のモチベに繋がりますのでよろしくお願いします。

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