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3話 快活な幼馴染

「よっ!」


 背後から強めの肩パン。

 タチの悪いことにパーではなくグー、普通に痛い。


「痛いって……」


 患部をさすりながら振り返るとしてやったり顔の津川由奈がいた。

 ショートボブがトレードマークの元気っ子。

 朝から相手をするには消費カロリーが多い相手。

 物理的に激しいスキンシップは体育会系ならではか、それとも幼馴染という気の置けない間柄ゆえか。


「元気ないオーラが出てたからね~」

「オーラってなんだ、オーラって。由奈、お前変な宗教にハマってるんじゃないだろうな」

「そうじゃないけどさ、なんか分かるんだよね……こう背中からもや~っとした空気っていうの? そういうのが出てた」


 バカっぽい。

 実際頭の方はあまりよくないのだが。

 ステータスは運動神経に全振り、二年にして女バス──女子バスケ部のエース。

 俺より10cmは身長が低いのによく活躍できるよな……。


「ま、要するに幼馴染パワーってやつ?」


 にしし、と屈託のない笑みを浮かべる由奈。

 何をバカなことを、と一蹴したい気持ちはあるが……ちょっといつもより元気がないのは事実なのだからなおさらタチが悪い。


「ほらほら、私に話してみなって。一緒にお風呂にも入った裸の付き合いもある間柄なんだからさぁ~」

「誤解を招く言い方やめれ。これでも彼女持ちなんだぞ。それに一緒にお風呂に入ったのだって十年は前の話だろ?」

「でも事実は事実でしょ?」

「……」


 はぁ、とため息を一つ。

 やはり朝から相手をするには重い。

 朝食に脂っこい揚げ物を食べるみたいな……そんな感じ。


 当然のように横に並んで歩いてくる由奈。

 この分だと一緒に登校することになりそうだ。

 どうせボッチ登校だから構わないと言えば構わないのだが。


「彼女と初デートに行ったんだけどさ」

「うんうん」

「なんて言うか……あんまり男として意識されてない気がしてさ。早く頼れる大人な男になりてぇな~って思ってただけだよ」


 由奈は俺が彼女持ちだということを知っている。

 なんなら波留とも面識がある。

 テスト勉強をしに(というか一方的に教わりに)家に来た時にたまたま波留も家に来ていたのだ。


 彼女が出来た、と幼馴染の義理で報告した時も、


──あー、あの綺麗な人……


 と納得したような表情をしていたから印象に残ってはいたのだろう。


「確かに新は大人な男って感じじゃないもんね~」

「傷を抉るな」

「でも最近ちょっと垢抜けたよねって女子の間では話題になってるんだよ?」

「マジで?」

「マジのマジ」


 知らなかった。

 波留と付き合い始めてから初デートまで、とにかくがむしゃらに自分磨きを頑張った。

 結局上っ面だけのものだから波留にはすぐに見破られてしまったが……そうか、全くの無意味ってわけじゃなかったのか。

 努力が報われたような気がして気力がモリモリと回復していく。

 我ながら単純なやつだ。


「それは良い事を聞いたな、ありがと」

「どーいたしまして」


 そのまま他愛のない会話を続けていると、ふと由奈が呟いた。


「あーあ、にしてもまさか新の方が先に彼女を作るなんて思わなかったよ……」

「酷い言われようだな。部活一筋の由奈に負けたらそれこそ元気ないオーラ全開になるぞ」

「あー、失礼な。私これでも結構モテるんですけどー」


 むっと頬を膨らませて不満げな由奈。

 ただでさえ童顔なのに仕草まで幼いせいで、とても十七歳になりたてには見えない。


「モテる……? 由奈が?」

「うーわ、これでも私この前男バスの先輩に告られたんだからね?」

「マジか、今年一番驚いた」


 おい、とスナップを効かせたツッコミを入れてくる。

 だから痛いんだって。

 いや……でも今のは俺が悪いか。


「付き合えばよかったじゃん」

「ん~……やっぱ今は部活に集中したいし?」

「そら彼氏なんてできないだろ」

「なんだろ、私ってそんなに恋愛体質じゃないって言うか~」

「サバサバ系、ってことか?」

「あんまり甘々な恋愛とか考えたら背筋がぞわぞわってなるって言うか……」


 つまりは恋愛に興味ないのでは?

 でも何となく由奈の言いたいことは分かる。

 恋人特有の甘い空気──ってやつに拒絶反応を示しているのだろう。

 

 逆に俺はそういう甘い空気に憧れてるんだけどな。

 波留との初デートではそんな雰囲気になりもしなかった。

 確かに楽しいデートではあったのだが……終始主導権を波留に握られっぱなしで、あれじゃデートというより犬の散歩って表現の方がしっくりくるかもしれない。


「どっかに気兼ねなく、気がラク~な感じで付き合える男子……いないかな~」

「……いないだろ、そんな都合のいいやつ」

「いるかもしれないでしょー、何でも否定から入るのは良くないと思います!」

「へいへい」


 もしかしたら由奈が求めている恋人関係は、こうやって気兼ねなく話せる由奈と俺みたいな関係なのでは?

 ふと思った。

 だけど……それを口にするのは冗談でも憚られた


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