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16話 ドライブデートと波留②

 沈黙が車内を満たして気まずくなる──なんてことはなく、会話は弾んだ。

 お互い違う環境に身を置いている。

 だから共通の話題こそ少ないが、話のネタはいくらでもあった。


「じゃあ、テスト前とかどうするの?」

「それはもう皆で協力よ。過去問集めて交換会したり、サボった授業とかがあったらその時のレジュメとかノートを見せてもらったりって感じ」

「テストの過去問……? 受験じゃないのに?」

「いやいや、大学のテストは受験みたいなものだよ、何せ単位がかかってるからね~」

「波留は留年したりしない?」

「あはは、あたしはそんなにサボってないから大丈夫」


 器用に運転しながら口を動かす波留の横顔を見つめながら。

 やっぱり……波留は綺麗だ。

 大学とかでもきっとモテるであろうことは想像に難くない。


「なに~、私の横顔ジロジロ見て」

「……!?」


 バれてた。

 横顔に見惚れてた──なんてさすがに恥ずかしくて言えない。


「いや、波留ってモテそうだなって思って」

「まあね~、自分で言うのもなんだけどそれなりにモテる方だと思うよ」

「彼氏的には心配なんですけどー」

「大丈夫、私彼氏いるからってしっかりフってるから。そもそも大学生の男子って大抵がカラダ目当てのヤリモクだからそういうのは論外って言うか~」

「……!?」

「あはっ、ごめんね。新くんには刺激が強かったかな?」


 突然のエグい発言に固まってしまった。

 そして運転中とはいえそれを見逃す波留ではない。

 いつの間にか会話は波留のペース。

 気付いたら砂地獄に足をとられてた、みたいな。

「だからかなー、ぴゅあっぴゅあの新くんのことがカワイく思えて仕方ないのは。なんて言うの? 大事にしてくれそうって言うか……実際に大事にしてくれてる感あってそこが母性をくすぐられるって言うか~、好きって言うか~」

「なんか複雑なんだけど……」


 要するに童貞っぽいところに惹かれたってことなのではないだろうか……。

 確かに俺にとって波留が初めての彼女だから大事にしたい、って気持ちはあるけど……それと同じくらいちゃんと性欲だってある。

 大学生男子の生態は知らないけど、俺だって波留のことをそう言う目で見てるんだけど。


 だがそんなことを口に出したりはしない。

 重ねて言うが俺は今蟻地獄につかまっている最中。

 もがけばもがくほど沈んでいく。

 つまりは沈黙こそが正解。


 ……とはいえ脱出手段がない、という点で詰みではあるのだが。


「でも、モテるって意味で言うと霞の方がヤバいんだけどね~」

「ね、義姉さんが?」

「ほら、霞ってぽやんとしてて色々隙がありそうって思われがちじゃない?」

「あーそれは……うん」


 心当たりしかない。 


「しかもあれだけ可愛いから悪い男たちがほいほい集まってくるのよね~」

「なんか……聞きたくなかったかも」

「確かに、新くん的には姉の恋愛事情なんて聴きたくないか」

「まあ、色々と気まずいし……」


 ちなみにだが、俺と義姉さんが血のつながりのない姉弟だということを波留は知らない。

 話題に出す機会もないし、言ったところで……感があるからだ。

 周囲の人間で俺と義姉さんの実際の関係を知っているのは幼馴染である由奈くらいのものだ。


「大丈夫、大学の中では私が霞をちゃんと守るから」

「助かるよ……本当に」

「霞が成人してお酒飲めるようになってから飲み会のお誘いがヤバいくらい来てるのよね」

「うわぁ……」


 見え見えの性欲に嫌悪感。

 その対象が身内であるから尚のことだ。


 男は獣だ。

 なんて例えられることもあるが、本当に下半身だけで動いているような男も存在するらしい。

 俺は決してそうはならない──そんな連中と同じになんてならない。

 より一層波留を大事にしたいという思いが心の底から湧き上がる。


「で、どうなの? 霞はお酒強いの?」

「多分めちゃくちゃ弱い……」

「うわ~、これは絶対に断らないとな~……」

「どうか義姉さんをお願いします……」

「任されました」


 ぱちっとウインク。

 表情が変に歪むことのない完璧な仕草。

 こういう所が大人だよな、なんて思ったりする。


「あ、標識。PAまでもう少しだって」

「ほんと?」

「もうそろそろお昼時だし、何か食べてこうよ」


 時刻は十三時を回った所。

 波留は三時間近く運転していたことになる。

 車を運転することでどのくらい疲労が溜まるか。

 俺には想像することもできないが、きっとそれなりに神経を擦り減らしはするだろう。


「ねえ波留」

「ん~?」

「大丈夫、疲れてない?」

「疲れた! でも気持ちいい疲労感!」


 あっけらかんと答える波留。

 声はいつも通り元気だが、「ふぅ~」と大きく息を吐く回数が増えて来ていることに何となく気付いていた。


「ねえ波留」

「ん~?」

「今日の食事代は俺が持つから」

「あはっ、カッコつけようとしてるんだ、この~! 大人しくお姉さんと割り勘にされとけ~」

「いいや、ここは絶対に引かないよ。波留のためにバイトも増やしたんだし」


 何より運転してもらってお礼なしっていうのが許せない。

 彼氏彼女の関係以前にきっちりと清算しておくべきだろう。

 波留におんぶにだっこ、養われるだけの俺でいたくない。


「そういうことなら今日はカッコつけさせてあげる。ご馳走になります」

「うん、任せて」


 ちょうど話がまとまったタイミング。

 PAまであと1kmの標識。

 運転の対価ではあるけれど、ようやく男らしい所を見せられたんじゃないか。

 ならば今日はもう少し強気に行ってみよう。

 そう心に決めて車を降りる準備を始めたのだった。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 年上のお姉さんと付き合うのは大変だな。 頑張れ新くん!
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