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10話 もうすぐ二十歳の義姉さん

「鳥羽、もう上がっていいぞ」

「はーい」


 二十一時。ちょうど客足も落ち着いてきた頃。

 バイト先のファミレスにて。


「来週のシフトなんだけどいつも通りでいい?」

「はい、大丈夫です」

「了解、来週もよろしく~」

 

 バイトを始めて一年弱。

 もう立派な一兵卒と言えるはずだ。

 

 そのまま更衣室に直行して帰宅の準備。

 週末も近づいてきて疲労が溜まってきているのを感じる。

 やはり人は五日連続で稼働するのは無理がある。

 水曜日を中休みにしてほしい──週休三日制を早急に実装してほしい。

 

「でも働かないといけないもんな~」


 独りごちる。

 高校生にもなると、何かとお金が必要になるのだ。

 しかも俺には波留という彼女がいる。


──無理しないでいいよ、私が奢るから。


 波留はそう言ってくれるけど、俺は彼氏だ。

 彼女に奢らせる彼氏──いくら年下とはいえ外聞が悪くて仕方ない。

 だからバイトを週二から週三に増やした、せめてデート費用を割り勘にするために。

 正直まだ稼ぎたいところだけど、これ以上は学業に影響しそうだからこれで妥協。


「お先に失礼しまーす」

「はーいお疲れー」


 バイト先のファミレスを後にしてそのまま帰宅。

 バイト先から家までは自転車で十分だ。

 時給もそれなりに高いし、家からのアクセスもいい。

 鼻唄なんて歌いながら自転車を走らせていると、すぐに自宅に到着。


「おかえり~。お風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し?」

「ただいま、じゃお風呂で」

「一緒に入る?」

「バカなこと言わないでよ……」

「むぅ~」


 パタパタと玄関までやってきた義姉さんのダル絡みを難なく突破。

 長年の経験の為せる技。

 義姉さんの扱いに関してはそろそろ免許皆伝をもらってもいいと思う。


「そういえば……」


 義姉さんの顔を見てふと思い出した。


「今週末って義姉さんの誕生日だよね?」

「あら~、新ちゃん覚えててくれたの~?」

「さすがに忘れないよ」


 そこまで恩知らずな義弟ではないつもりだ。

 家族の誕生日くらい覚えている。


「バイト代も入ったし何かプレゼントするよ。何か欲しいものある?」

「新ちゃんがくれるものなら何でも嬉しいわ」

「義姉さんには色々世話になってるから遠慮しないで。義姉孝行させてよ」


 そう言うと、義姉さんは大袈裟に体全体を使って喜びを露わにしてきた。

 にへら、と表したくなるくらい頬が緩んで溶けそうになってる。

 なんならくねくねとよく分からない小躍りみたいなこともしている。


「あ、じゃあ……リクエストしてもいい?」

「もちろん」

「えーとね……私が欲しいのは~、『新ちゃんを一日好き放題に甘やかせる権』です!」

「ダメに決まってるでしょ」


 何を言いだすのかと思えば、まさかの要求。

 一日義姉さんの好き放題にされること──世間一般的に見ればむしろ俺へのご褒美に思えるかもしれないが、俺はそうは思わない。

 ご奉仕という名目で風呂場にまで侵入してきかねない。


「え~」

「常識的に考えてよ……」


 口を尖らせてぶーたれる義姉さん。

子供か、とツッコミを入れたくなる。

週末で二十歳でしょうが。お酒も飲めるようになる年齢でしょうが。


「じゃあコンビニスイーツとか?」

「ハードルの下がり方がすごい」

「でも私本当に何でもいいの。新ちゃんが私に何かしてくれようと思ってくれてる──それが何よりも嬉しいんだから」

「それくらいじゃ足りないって」


 だって……仕事で遠方にいる父さんと、それについていった母さん。

 二人の代わりに義姉さんが家事のほとんどをやってくれているんだし。


──私が好きでやっているのよ。


 と義姉さんは言っているけど、俺が何不自由なく生活できているのは義姉さんのおかげなのは間違いない。

 いくら素直になれないお年頃だとはいえ、その感謝を伝えられないような恩知らずにはなりたくなかった。


「じゃあ、私あれが食べたいな」

「結局食べ物でいいんだ……」


 義姉さんなら何か形に残るものとかを欲しがりそうだと思ったんだけど。


「ハーゲンタッツのでっかいやつ」

「絶妙に普段買わないやつだ」

「ふふ、でしょ? だから一回食べてみたいな~って」

「分かったよ、今度買ってくるね」

「嬉しい、ありがとう!」


 ぽふん。 

 油断したところに抱きつき攻撃。

 久々の不意打ち、もろに喰らってしまった。

 

 姉弟とはいえいろいろまずい。

 ぎゅーっと、よく育ってしまった柔らかい胸が抵抗する度にぎゅむぎゅむと形を変えて、俺の体にフィットしてくる。

 何とかして引き剥がしたいけど……力つっよ。

 プロレス技かよ、と思うくらい強く抱きつかれてされるがままになってしまった。


 それ以上は色々とまずい。

 姉弟のスキンシップの範疇を超えかねない。


 ……何とかもがいて脱出。

 抜け出した俺はぐったりと。逆に義姉さんは活き活きと。

 生気を吸い取られた気がする……


 真剣に明日が休みならいいのに、と改めて思うのだった。


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