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プロローグ

とある1Kアパートの1室。


その部屋にはテレビはおろか、テーブルすらも置いていなかった。


それどころか、畳に直接敷かれた布団以外、一切の家具が置いていないただ寝るための部屋、そんな印象を与えるような部屋であった。


その部屋の中心に、1人男が胡座をかいていた。


彼の名は守銭(もりぜに) 金持(きんじ)

この物語の主人公である。


彼は1人、預金通帳を見てニヤニヤと笑っていた。


「おーおー、お金ちゃんがこんなにたくさん・・・あぁ、お前たちはいつ見ても可愛いなぁ」

そう言いながら金持は、通帳に頬ずりをしていた。


そう。彼はお金が大好きなのだ。

金がかかるという理由で全ての友人関係を切り捨て、ただ1人通帳の数字が増えていくことを楽しみに職場と家の往復するだけの日々を過ごす男なのだ。


「あー、クソ。腹減ったな」

そう呟いた金持は、何も置いていないキッチンへと行き、蛇口を捻ってそこから出る水をただ一心に飲んだ。


「これでオッケー。GW(ゴールデンウィーク)も残り2日。なんとか乗りきれそうだな」


金持はそう呟いてどかりと布団に腰を下ろした。


現在彼は、10日もあるGWを、水のみで過ごすという苦行を自身へと課していた。

ただ、食費を抑えるためだけに。


「あーぁ。ギガ数少ねぇから、小説も読めねぇな。一発抜いて、さっさと寝るか」

金持は、格安スマホの限られたギガ数で読む数少ない彼の趣味とも言えるネット小説を諦め、枕の下からボロボロになった1冊のエロ本を取り出した。


それは、彼がそれを買ってからゆうに10年は経つ年代物である。


もはやそのエロ本の中の裸体の美女達は、直接見なくとも彼の脳内で思うがままに動いてくれる。


それでもわざわざボロボロになったそのエロ本を取り出したのは、最後の最後だけは本物を見ながらという、彼の謎の拘りのためであった。


本だから、本物ではないのだが。


「あぁ、久しぶりに本物の女とやりてーな。やっぱ、あいつと別れたの間違いだったかな」

金持はそう言いながら、数ヶ月前に『一緒にいると金がかかる』という理由で別れた彼女の顔を思い出そうとした。


「ん?もう顔も思い出せねーや。ま、いっか」

金持にとって彼女とは、無料(タダ)でやれる女、という認識でしかなかった。


他人(ひと)に興味がない金持は、心から人を好きになることも、誰かに依存することもなくただ、金にだけその心を注いでいたのだ。


「痛っ」

金持は、エロ本を持ちながらも痛む胸へと手を当てた。


「クソ、また痛む。今日のところは、抜くの辞めてさっさと寝るか」

そう呟いて、金持はエロ本をそっと床に置くと、そのまま布団に横になった。


その後、彼がその布団から起き上がることは、永遠に来なかった。

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