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天に刃向かう月  作者: 宮湖
9/44

幕間 ―邂逅―

完結済みではありますが、読み易いように改行等手直しをしております。


宜しければご覧下さい。


 幕間 ――邂逅――



 頼みが有る、とその女は言った。


 あまりに美しく、同時に儚過ぎる風情。古めかしい装束に、人か妖かと訊ねて、だが返ったのは、答えにならぬその懇願だった。


 その時の自分には既に、戦う力は有ったが。

 問答無用で滅しなかったのは単なる気の迷いと、その時は思ったのだが、顧みればそれすらも組み込まれた……予定調和か。


 女は願った。


 何時か出会う生命(いのち)を、救ってくれと。


――そなた、未来見(さきみ)の巫女……否。


 違う。この女は()()


――未来見の()()か。


 儚過ぎるのは、実体が無いからだった。

 ふんわりと形容したなら現実を知らなさ過ぎ、薄いと評したなら現実しか知らぬと言われただろうか。

 身体を透かして森の深い闇が見える程、薄淡く、人魂の様に濃く燃えるではなくぼんやりと、仄かに……そう、仄かに光る様な、朧な、幻想の様な女だった。


 古風な着物と見えたのは斎姫が纏うに似た装束で、それが全ての光を呑む元始の深遠の如き夜の森の中で、ぼう、と幽かに発光して、輪郭が闇に溶けかけた女を、辛うじて他に認識させていた。


 或いは、光るのは女自身で、他者と意思の疎通を図る為に、敢えて力を抑えていたのだろうか。


 既に実体が無いにも拘らず存在する己を、畏怖させぬ為に。


 夢幻(ゆめまぼろし)でない証に、これを、と、女が差し出したのは確かに現実の物だったが。


 今の私は、目。片目はもう、不要だからと。


――救えと、強請るか。


 女は言った。この邂逅は奇跡なのだと。


――仕組まれていないと言うか。


 今この時点では奇跡の偶然でも、()()()()()()()()()必然とは言われないか。


 引き換えではないと言う女の願いを、それでも結局自分は聞き入れた。

 何故だろうと、今でも思う。理由は――もしかしたら。


――()()とは、よく言ったもの。


 だから、だろうか。

 分からないけれど。

 分からないのだ。何時か出会う生命が誰なのかも、何時巡り会うのかも、ひょっとしたらもう既に知己となっているのかも、気付かず素通りしてしまったのかも、一切が分からないのに。――否。分からないから、こうして――今が在るのだろうか。

 答えは、天寿を全うした時に閃きでもするのだろうか。


 今分かるのは、確かに在るこの証だけ――。






お読みいただき有り難うございます。

ご感想等ありましたら是非お願いします。励みになります。★★★★★の評価も頂けるとなお一層有難いです。


全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、


星を掴む花

竜の花 鳳の翼


も、ご覧下さると嬉しいです。

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