幕間 ―邂逅―
完結済みではありますが、読み易いように改行等手直しをしております。
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幕間 ――邂逅――
頼みが有る、とその女は言った。
あまりに美しく、同時に儚過ぎる風情。古めかしい装束に、人か妖かと訊ねて、だが返ったのは、答えにならぬその懇願だった。
その時の自分には既に、戦う力は有ったが。
問答無用で滅しなかったのは単なる気の迷いと、その時は思ったのだが、顧みればそれすらも組み込まれた……予定調和か。
女は願った。
何時か出会う生命を、救ってくれと。
――そなた、未来見の巫女……否。
違う。この女は既に。
――未来見の供物か。
儚過ぎるのは、実体が無いからだった。
ふんわりと形容したなら現実を知らなさ過ぎ、薄いと評したなら現実しか知らぬと言われただろうか。
身体を透かして森の深い闇が見える程、薄淡く、人魂の様に濃く燃えるではなくぼんやりと、仄かに……そう、仄かに光る様な、朧な、幻想の様な女だった。
古風な着物と見えたのは斎姫が纏うに似た装束で、それが全ての光を呑む元始の深遠の如き夜の森の中で、ぼう、と幽かに発光して、輪郭が闇に溶けかけた女を、辛うじて他に認識させていた。
或いは、光るのは女自身で、他者と意思の疎通を図る為に、敢えて力を抑えていたのだろうか。
既に実体が無いにも拘らず存在する己を、畏怖させぬ為に。
夢幻でない証に、これを、と、女が差し出したのは確かに現実の物だったが。
今の私は、目。片目はもう、不要だからと。
――救えと、強請るか。
女は言った。この邂逅は奇跡なのだと。
――仕組まれていないと言うか。
今この時点では奇跡の偶然でも、時間を鳥瞰したなら必然とは言われないか。
引き換えではないと言う女の願いを、それでも結局自分は聞き入れた。
何故だろうと、今でも思う。理由は――もしかしたら。
――同情とは、よく言ったもの。
だから、だろうか。
分からないけれど。
分からないのだ。何時か出会う生命が誰なのかも、何時巡り会うのかも、ひょっとしたらもう既に知己となっているのかも、気付かず素通りしてしまったのかも、一切が分からないのに。――否。分からないから、こうして――今が在るのだろうか。
答えは、天寿を全うした時に閃きでもするのだろうか。
今分かるのは、確かに在るこの証だけ――。
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全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、
星を掴む花
竜の花 鳳の翼
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