表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天に刃向かう月  作者: 宮湖
25/44

幕間 ―祈り―

完結済みではありますが、読み易いように改行等手直しをしております。


宜しければご覧下さい。


 幕間 ――祈り――



 その女が、御免ね、と謝った時、言われた相手は安らかな寝息を立てていた。

 枕元に、自分の着物の端で作った守り袋を、一つ、置く。


――きっとこれが、今生の別れ。


 だから本当なら、ちゃんと顔を見て、きちんと目を合わせて、話をした上で、別離を告げるべきなのだろう。

 だが、女には、それは無理な相談だった。

 相手の顔を見たところで、今更決心は鈍らない。

 耐え難いのは、相手が止める事だった。


 それしか無いのだと諭しても、怒り、決して赦してはくれないだろう。

 最後の顔が――これから永劫抱く記憶がそれでは、きっと自分は耐えられない。

 だから、相手が眠る間に、逃げる様にして家を出たのだ。


 女は確信していた。


 この儘では、必ず自分達は、持って生まれた力に振り回されて、自滅する。


 人は誰も自分達を救えない。救ってはくれない。

 求めても、得られるものは拒絶だけ。

 人に救いを望めぬなら、残る手段は唯一つ。

 それが、相手をどれ程苦しめる事であっても。


 女は覚悟していた。


 だから、謝ったのは赦してほしいからではなかった。

 相手を護る為にする事だけれど、その相手を孤独にしてしまう事を。

 自己犠牲の精神に酔っている心算は無いけれど、自分は現実に立ち向かわねばならぬ短い年月から逃げ、見守る事しか出来ぬ悠久の歳月を採るのに、相手にはその過酷な現実を強いる事を。


――どれ程謝っても、足りないけれど。


 それでも、謝らずにはいられない。

 これが最善かどうか、今の自分では力が足りない。解らない。


 視えない。


 だから、縋る様に、願うしかない。

 この世に、少しでも良いから、相手を護る盾が、包む優しさが、有る様にと。

 女には、もう、祈るしかなかったのだ。







お読みいただき有り難うございます。

ご感想等ありましたら是非お願いします。励みになります。★★★★★の評価も頂けるとなお一層有難いです。


全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、


星を掴む花

竜の花 鳳の翼


も、ご覧下さると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ