幕間 ―祈り―
完結済みではありますが、読み易いように改行等手直しをしております。
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幕間 ――祈り――
その女が、御免ね、と謝った時、言われた相手は安らかな寝息を立てていた。
枕元に、自分の着物の端で作った守り袋を、一つ、置く。
――きっとこれが、今生の別れ。
だから本当なら、ちゃんと顔を見て、きちんと目を合わせて、話をした上で、別離を告げるべきなのだろう。
だが、女には、それは無理な相談だった。
相手の顔を見たところで、今更決心は鈍らない。
耐え難いのは、相手が止める事だった。
それしか無いのだと諭しても、怒り、決して赦してはくれないだろう。
最後の顔が――これから永劫抱く記憶がそれでは、きっと自分は耐えられない。
だから、相手が眠る間に、逃げる様にして家を出たのだ。
女は確信していた。
この儘では、必ず自分達は、持って生まれた力に振り回されて、自滅する。
人は誰も自分達を救えない。救ってはくれない。
求めても、得られるものは拒絶だけ。
人に救いを望めぬなら、残る手段は唯一つ。
それが、相手をどれ程苦しめる事であっても。
女は覚悟していた。
だから、謝ったのは赦してほしいからではなかった。
相手を護る為にする事だけれど、その相手を孤独にしてしまう事を。
自己犠牲の精神に酔っている心算は無いけれど、自分は現実に立ち向かわねばならぬ短い年月から逃げ、見守る事しか出来ぬ悠久の歳月を採るのに、相手にはその過酷な現実を強いる事を。
――どれ程謝っても、足りないけれど。
それでも、謝らずにはいられない。
これが最善かどうか、今の自分では力が足りない。解らない。
視えない。
だから、縋る様に、願うしかない。
この世に、少しでも良いから、相手を護る盾が、包む優しさが、有る様にと。
女には、もう、祈るしかなかったのだ。
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全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、
星を掴む花
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