幕間 ―抵抗と言う別離ー
完結済みではありますが、読み易いように改行等手直しをしております。
宜しければご覧下さい。
幕間 ――抵抗と言う別離――
ひたひたと言う足音を、聞いた様に思う。
本当にそんな音がするのだと、思ったから。
――これで、最期か。
裏切られ、棄てられる様にして、此処へ追い遣られた。
人が保身の為にどれだけ醜くなれるのか、思い知らされた。
思い知った。
好きでこんな力を求めた訳ではない。
好んで術を学んだ訳でもない。
破滅へ押し遣る、有無を言わせぬ強い流れに負けぬ様に、生きる為に身に付けただけだ。
だがそれが、結果として裏目に出た。
生きる為に得た知識が死地へと背を押し、高めた技が死期を早める事になったのだから。
自分はそれ程異質で、恐ろしかったろうか。
実の親自らが、生贄に差し出す程に。
――ああ、また聞こえた。
ひたひたと言う――死の足音が。
左頰の不揃いな砂礫の感触だけが、やけに大きい。
足は両方とも、腿から下の感覚が無い。腕は――倒れる前に、左腕が吹き飛ばされるのを見た気がするが、どうだったろうか。
腹部を浸す生温い液体。もう、天下の名医が何人集まっても、手の施し様が無いに違いない。
妖には、自分以上の傷を負わせてやったが、回復力と元々の身体の作りが違う。相打ちでも、結局は此方が圧倒的に不利だった。
死んでも構わないと思っていたのに、何故戦ったのだろう。生きて戻っても、誰も喜ばないのに。
余計に畏れられ、忌まれるだけなのに。
ふ、と、昔会った幻想を、思い出す。
時を鳥瞰し、飛び越えた夢幻の女。
これが、死の直前に見る走馬灯と言う奴だろうか、と、内心で笑う。
――奇跡の邂逅。
更に、その後に出会う筈の、生命。
奇跡か。
そう言う結末も、有ったか。
結末――未来。
そうだ。未来を求めて戦ったのではなかった。どうせ死ぬのなら、と思ったのだ。
どうせ死ぬのなら。
死を強いられ、生有る事を疎んじられるのなら。己に出来る事を全て遣り尽くしてから死のうと思ったのだ。
だから、戦った。
戦う事が、別の結末を用意していた造物主とやらに対する叛逆であっても。
運命に対する復讐であったとしても。
――だが、もう、無いか。自分に出来る事は。
否。
――……有る。
何人もの名医が匙を投げる重傷だとしても。
そう、医師には不可能でも。
自分には、有る。
それは禁忌にも等しい方法だけれど。今、自分を生き延びさせる術はその一つのみ。
それに。
――どうせ死を強要されるのならば。
何者かの意思に悉く反目に出てやるのも、一興ではないか。意趣返しで何が悪いか。
仮に、自分のこの決断さえもが組み込まれた予定調和なのだとしても。少なくとも自分の死を望む者達への、抵抗にはなるのだから。
ひたひたと言う、足音が聞こえる。
だがそれはもう、死の足音ではなかった。
運命からも、時の奔流からも抗う事を決めた者を――全てからの別離を受け容れた自分を肯定する者の、足音だった――。
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全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、
星を掴む花
竜の花 鳳の翼
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