幕間 ―禁忌―
完結済みではありますが、読み易いように改行等手直しをしております。
宜しければご覧下さい。
幕間 ――禁忌――
男は自室で独りになると、獰猛な唸りを上げて飾り棚の上を薙ぎ払った。
非合法な手段で入手した、統一感の無い調度類が、不協和音しか奏でずに、床の上で不様に砕ける。
「……畜生! 何だってんだ」
何時の頃からだったか。自分でも異変を感じてはいたが、奇妙な倦怠感と高揚感が、時折、身体を占める様になったのは。
それはやがて、身の内から抑え切れぬ何かが噴き出そうとする、不快且つ――快感に変わり。
何か。
敢えて言葉にするなら、それは。
――禍つもの。
「……くっ……そがああああっっ」
不確かなものに正体を与えた途端、自分でも想像の付かぬ程凶悪な欲求が込み上げてきた。
思わず吼えたのは、その衝動を堪える為か、それとも、大して逆らう事無く、歓喜の渦に呑み込まれたからか。
本来は忌むべき、人には禁忌の欲望に。
――不様な。
誰かが……囁いた。
それとも、嘲笑されたのだったか。
冷笑。
侮蔑。
嘲弄。
侮られて。
蔑視。
――誰に?
軽侮。
野次。
声にされぬ非難。
皮肉。
面罵。
――誰に……誰の所為で。
虚栄の驕りが捩れ、羨望が妬心に変わる。
思考が捻じれ、嫉みから悪意が湧く。
――ああ。
男は、息を漏らした。
それとも、それも誰かが耳元で嘆息したのだったろうか。
満足の吐息を、漏らす様に。
何かを喰らい、歓喜に打ち震える様に。
――引き換えに、望みのものが得られるなら。
噴出するものを、抑えずとも良いなら。
引き換えるものは。
男は何を差し出せば良いのか、知っていた。
何を手放す事になるのか、解っていた。
最後の一線を越える躊躇いは、人としての当然の感情。恐れは本能。
それを、突如蘇る屈辱が蹴散らした――否。もしかしたら。
もう疾っくに、手放していたのかもしれぬ。
水に沈んだ塵芥が何かの拍子に、ふ、と僅かに浮き上がる事が有る様に、今も意識が、少し、戻っただけで。
直ぐに。
沈む。
沈むのは、果たして。
己か。
引き換えに手に入れたものか。
これが、代償か。
――不様な。
囁く……誘う。
ああ、と男は自身の嘆息を、確かに聞いた。
目の端に、不様に散った欠片が見えた。
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全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、
星を掴む花
竜の花 鳳の翼
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