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天に刃向かう月  作者: 宮湖
14/44

幕間 ―禁忌―

完結済みではありますが、読み易いように改行等手直しをしております。


宜しければご覧下さい。

 幕間 ――禁忌――



 男は自室で独りになると、獰猛な唸りを上げて飾り棚の上を薙ぎ払った。

 非合法な手段で入手した、統一感の無い調度類が、不協和音しか奏でずに、床の上で不様に砕ける。


「……畜生! 何だってんだ」


 何時の頃からだったか。自分でも異変を感じてはいたが、奇妙な倦怠感と高揚感が、時折、身体を占める様になったのは。

 それはやがて、身の内から抑え切れぬ何かが噴き出そうとする、不快且つ――快感に変わり。


 何か。


 敢えて言葉にするなら、それは。


――禍つもの。


「……くっ……そがああああっっ」


 不確かなものに正体を与えた途端、自分でも想像の付かぬ程凶悪な欲求が込み上げてきた。

 思わず吼えたのは、その衝動を堪える為か、それとも、大して逆らう事無く、歓喜の渦に呑み込まれたからか。


 本来は忌むべき、人には禁忌の欲望に。


――不様な。


 誰かが……囁いた。

 それとも、嘲笑されたのだったか。


 冷笑。


 侮蔑。


 嘲弄。


 侮られて。


 蔑視。


――誰に?


 軽侮。


 野次。


 声にされぬ非難。


 皮肉。


 面罵。


――誰に……誰の所為で。


 虚栄の驕りが捩れ、羨望が妬心に変わる。

 思考が捻じれ、嫉みから悪意が湧く。


――ああ。


 男は、息を漏らした。

 それとも、それも誰かが耳元で嘆息したのだったろうか。

 満足の吐息を、漏らす様に。

 何かを喰らい、歓喜に打ち震える様に。


――引き換えに、望みのものが得られるなら。


 噴出するものを、抑えずとも良いなら。


 引き換えるものは。


 男は何を差し出せば良いのか、知っていた。

 何を手放す事になるのか、解っていた。


 最後の一線を越える躊躇いは、人としての当然の感情。恐れは本能。

 それを、突如蘇る屈辱が蹴散らした――否。もしかしたら。


 もう疾っくに、手放していたのかもしれぬ。


 水に沈んだ塵芥が何かの拍子に、ふ、と僅かに浮き上がる事が有る様に、今も意識が、少し、戻っただけで。


 直ぐに。


 沈む。


 沈むのは、果たして。


 己か。


 引き換えに手に入れたものか。

 これが、代償か。


――不様な。


 囁く……(いざな)う。


 ああ、と男は自身の嘆息を、確かに聞いた。

 目の端に、不様に散った欠片が見えた。




お読みいただき有り難うございます。

ご感想等ありましたら是非お願いします。励みになります。★★★★★の評価も頂けるとなお一層有難いです。


全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、


星を掴む花

竜の花 鳳の翼


も、ご覧下さると嬉しいです。

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