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1話 嫌悪

初めまして。さわゆうと申します。

僕は森見登美彦さんみたいなお洒落な語彙力も無ければ、堀江貴文さんみたいな革命的な内容も書けないし、大した文章力もありませんが、学校に行かないという経験をどうにか人のために使えないだろうかと考えた結果、そのまま書いてしまおうと思い至りました。

どうか今学校に行ってない人や、過去に経験がある人に見て欲しいです。あなたの心にほんの機微な光が差し込む事を願っています。

 カーテンに朝日が侵入してくる。

「寝よ」

朝に寝て正午に起きるこの生活になったのは2ヶ月前に学校に行かなくなってからだ。

寝るまでゲームをして、起きて食事を済ましてからゲームして寝る。ただこれだけの生活を毎日送る。こんな生活が僕は嫌いではなく、ずっとこのまま続けばいいとさえ思っていた。

 僕はこの家に一人っ子として育ち、母と二人暮らし。母子家庭は今時普通と言われる時代だから別に何も気にしていない。普通の家庭じゃ口煩かったり怒る役目の父という存在が居ないことに寧ろ得な気分でもある。

母は温厚な性格で僕を怒った回数は指で数えられる程度。学校に行かなくなった今もそれまでとなんら変わりなく接してきている。学校の話をする気配もなければ「晩御飯なにがいい?」と普通に話しかけてくる。だから僕も学校には行かなくとも部屋に閉じこもるような生活にはならない。少なくとも家は味方だと思っている。

 今日も有名なRPGのゲームをやり込んでいた。このゲームはストーリー性もバトルなどもとても面白く、シリーズ物として何十年も愛されているゲームだ。僕はこのゲームをクリアしたが、このゲームはクリア後もイベントが沢山あるために、クリアの概念とは?と思うくらいクリア後が深く楽しい。

時計を見ると朝の6時になっていて、窓の外が明るくなってきている事に気付いてゲームをやめた。ベットから起き上がり自分の部屋を出るとまだ暗い自分の家に安堵する。あと1時間程で母が起きて仕事に出る為のバタバタ音が聞こえてくる事になる。僕はその時間が嫌でしょうがない。学校に行く日常を思い出すことと、母への罪悪感に苛まれるからだ。罪悪感を感じるくらいなら学校に行けよとも思うが、断る。

キッチンに行き冷蔵庫をあける、コンビニの袋が入っていて、袋の中にパスタサラダとおにぎりがある。母が夜中に僕のご飯用に買ってきた物だ。自分の部屋に持っていき、無言で食べ始める。殆ど咀嚼せずに飲み込むように早食いする。これは幼少期からの癖だ。僕は元々痩せ型で全く太らない体質だったのだが、学校に行かなくなってからは酷い太り様だった。食べ終わりゴミだらけのスペースにゴミを放り投げる。カーテンが外側から明るく照らされて嫌な気分になる。

「寝よ」

母が起きてくる前に僕は眠りについた。


 起きたのは13時頃だった、僕はいつも通りゲームを始めようとしたが、トイレに行きたくなり体を起こす。部屋を出て7歩程で到着するトイレに向かう。手洗いを済ましてから自分の部屋に戻ろうとした時だった。ピンポーーン......インターホンが鳴った。僕は歩こうとした動作をやめて息を止める。心臓が大きく跳ねる。誰だ?先生か?同級生か?

「宅急便でーす」

僕は体と顔の強張りが全て抜け落ち、呼吸をゆっくり再開する。

「はーい」

僕はドアアイを一度覗く、本当に宅急便か確かめるためだ。どうやら嘘ではないようなので玄関を開ける。母の名前の宅配物だということでサインだけして受け取る。この時間に子供が家にいる事に明らかな疑惑の表情を作る宅配屋さんから逃げるように僕は顔を引き攣らせながら玄関を急いで閉める。

宅配物をキッチンの方に投げて、急いで自分の部屋に戻り布団の中に潜る。学校の人じゃなくて安心したものの、酷く疲れた。学校に行かなくなってからインターホンの音が鳴るたびに動悸が止まらなくなる。八割は宅急便だが、ニ割が学校関係者が僕を学校に来る様に家まで来る。担任の先生と同じクラスの同級生が今まで何度か来たが、僕は全て居留守を使った。

玄関の外から同級生が僕の名前を呼んだ時は嘔気が止まらなかった。もうニ度とあの教室にいる全員の顔を見たくない。全員居なくなってしまえばいい、本気でそう思っている。

僕にみんなを殺す勇気も力も無ければ外に出る事だって出来ない。僕は自分の無力さに布団の中で暫く嗚咽を漏らした。

 泣き終わり布団の中でゲームを開きまた始める。ゲームをしている時だけはあいつらの事を忘れられる。1時間ほどゲームをしていると、ガラケーの着信が鳴った。母からの電話である。今日何食べたい?と聞かれたのでなんでもいいと答えて電話を切る。僕は連絡用にガラケーを持たされている。メールと電話くらいしか使わない。ケータイを閉じようとした時に待ち受け画面の曜日を見て今日が金曜日だった事を思い出した。僕が週に唯一外に出る二日間がある。土日だ。理由は所属している野球チームの活動が土日にある為だ。僕は小学生から野球チームに所属していて、中学生に上がるタイミングで中学の部活ではなく、市のクラブチームに入団した。小学生の時に所属していたチームの殆どのみんなはそのまま中学の部活に入る為、僕は市のクラブチームに入る事で皆んなと違う優越感を感じたかったという安易な理由でクラブチームを選んだ。クラブチームはボールもプロと同じ硬球ボールを使う事と少し能力が高い選手が入る。僕は一番上手い様な選手ではなかったが、センスはある方だったと思う。

そんな選択が功を奏して学校に行かなくなった今も土日の野球チームには通っている。同じ中学の人もいないし、誰も僕を不登校だと知らないからだ。学校に行かなくなってからは曜日感覚が無くなったため、次の日が野球だった事を金曜日になり思い出した。僕はバットを取り出して、外に出て素振りを始めた。僕が今唯一努力をしている事であり、野球の為に行うことは全て自信を持って外に出れる。一時間ほどバットを振っていると、母が車で帰ってきた。

「おかえり」

僕は汗を袖で拭きながら母の元へ向かう。

「あ、そっか明日野球か」

母は車の鍵を閉めながらスーパーの袋を僕に渡す。一緒に家に帰り、母はすぐに料理を始める。僕はその間にシャワーを浴びて汗を流す。運動した後のシャワーは嫌な事を忘れられて気持ちがいい。

シャワーを出ると母が宅配物を開けていた。

「受け取ってくれたんだ!偉いじゃん!」

と言いながら僕の頭をわしゃわしゃ撫でてくる。

「お腹すいた」

僕は照れ隠しで話を逸らす。

晩御飯ができていて、机の上に並んでいる。一人分のご飯だけ。

「じゃあ行ってくるから明日の用意しとくんだよ」

母はそう言いまた出かけた。

「はーい」

僕は応えて見送る。母は日中に仕事をして、夜はまた直ぐに別の仕事に行く。だから家にいるのは夜中帰ってきて朝出る時間の間と日中の仕事を終えて夜の仕事に向かう間の夕方の一瞬だけだ。夕方に僕のご飯を作り、夜中にコンビニで僕の朝ごはんを買ってくる。僕は寂しいという感情は無かった、あるのは学校の事について言及され無い安堵だけだった。

 ご飯を食べ終え、ケータイにメールが来ている事に気づいた。野球チームの連絡網だった。内容は一学期の学校の成績表を持ってくる様に。という内容だった。僕は絶句した。今学校が夏休み期間に入っている事を完全に忘れていた。このチームには昔からの風習で学期毎の成績表を監督に提出する決まりがある。僕は学校に行って無いため貰って無いし、先生が届けにきたとしても出ていない。貰っていたとしても成績表を監督に見せれば出席で学校に行ってない事を知られる。監督は昔ながらの恐めな風貌の人で、怒ると本当に怖い。みんなに知られるのも嫌だ。また動悸が走る。僕の好きな野球にも影響する事に悔しい気持ちになる。考えついた結論は家に忘れた事にしようと思った。土日しか活動もないから監督も忘れてなんとかなるだろうと思った。僕は野球の前日の日だけは夜に寝るのだが、罪悪感と不安でその日は一切寝れずに朝を迎えた。


「おう」

自転車で野球チームの集合場所に向かっていた時に後ろから声をかけてきたのは同い年の花井だ。

「おっす」

俺は眠い目を隠す様に花井に声を返す。

「いやー成績やばいんだわ」

花井が怠そうに言う。「お前はどうだった?」

「俺もやばいんだよね」

僕はいつも野球チームで学校の話題が出た時は嘘をつき話を合わせる。敵を騙すにはまず味方からではないが、花井にまず嘘をつく事にした。

「僕成績表忘れちゃったんだよね」

「まじ!?やばいぞ!」

「やばいかな?」

「去年兄貴が成績表を忘れた時は家まで帰らされて持ってこいって言われてたぞ!」

花井は二個上の兄もこのチームで野球をしている。

「どうすんだよお前」

「だーやらかした」

「俺の貸してやろうか!」

と白い歯でニカッと笑う花井。花井は落ち込むことや悩む事が無いんじゃ無いかって思うほど常に元気だ。いつも冗談で周りを笑わせて、友達が元気がない時にはいつも一番に元気付ける。そんな花井といると気が楽になる一方で心が痛む。

「てか昨日他校のやつと喧嘩したわ!」

花井が急に違う話を始める。

「余裕だったわ!」

「また喧嘩したのかよ!」

「おう!」

花井は月に五度は喧嘩をしている。花井が通っている学校では不良軍団の頭を張っているらしく、僕が中学に通っている時も噂で流れてくるくらいこの街じゃ有名な所謂ヤンキーなのだ。

「ほどほどにしとけよ」

僕はいつもこう言う。僕は花井のことを不良だなんて全然感じないし思っていない。熱いやつだとは思うが寧ろ人に優しいやつだと認識している。

「俺の仲間に手出されたから黙っておけないだろ」

花井の喧嘩する理由は大体仲間を馬鹿にされたとか傷つけられた事が原因だ。

「かっこよすぎなんだよ」

僕は心から言う。

「サンキュー!」

花井がニカッと笑って感謝をしてくる。会話になっていないが花井と話してる時も嫌な事を忘れられる。少し自転車を漕いでいたところで野球チームの集合場所に到着した。

「おはようございます!」

僕と花井は監督やコーチに挨拶する。

そして全員集まってきたところで選手全員並び監督が朝のミーティングを始める。

「じゃ、成績表もってこい」

監督が言うと皆がバックからゴソゴソ取り出して監督に渡しに行く。僕は気が気では無かった。

「監督すみません!忘れました!」

誰かが言った、誰だろうと見るとそれは花井だった。

「こっち来い」

監督に呼ばれ花井は監督の前に行く。すると監督が帽子で花井の頭を引っ叩いた。

「明日持ってこい」

「はい!すいません!」

花井はそう言って下がる。僕は花井が僕のために嘘をついたんだと分かり、体は直ぐ動き監督の元へ走り出す。

「すみませ......」

パン!と音がして僕が監督に謝り切る前に帽子で頭を叩かれた。

「お前ら明日持って来なかったら許さねえからな」

監督の目は本気だった。僕は花井への感謝と申し訳なさでいっぱいだった。

練習中に花井に話しかけた。

「ありがとう」

僕はお互いに分かっている程で感謝を伝えた。

「何が?」

花井は本気で知らない様な顔をしている。

「いや、成績表忘れたの嘘だろ?」

「ああ!持ってきたと思ってたんだけどな」

本気で悔しそうな顔をしているが、本当に花井はこうゆう男なんだと再確認して、心から感謝した。

「明日は持ってこいよ」

花井はそういうと走っていった。

その日の練習中僕はずっと明日どうしようと考えて集中力を欠いたまま練習は終わり家に帰った。

 

 「おかえり」

母に迎えられ家に帰るとご飯が用意されていた。母は土日基本仕事をしていない。僕は帰り道も明日の事を考えて惚けていたので食欲がなくご飯を断って自分の部屋に入ろうとドアノブに手をかけた。

「これ」

母に何か封筒を渡された。開けてみるとそれは成績表だった。僕は嫌な気持ちになり呼吸が荒くなる。

「閉まっときな」

母は見なくていいよというニュアンスで伝えてきた。

「うん」

僕はそう言い自分の部屋に入った。僕は床に座り込み全てがうまくいかない事に嫌気が差して泣いた。疲れていたのか僕はそのまま眠りについた。


 朝起きると花井からメールが来ていた。

「成績表忘れんなよ!」と言う内容だった。僕はケータイを閉じて野球に行く準備をせずに、ゲームを開いた。 僕はその日から一年近く野球に行くことは無かった。


ーー続くーー


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