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第2話

首相官邸の地下にある危機管理センターに、内閣総理大臣の古谷一郎をはじめとする国家安全保障会議のメンバーが集まっていた。古谷は毎日の日課である朝早くのジョギング中に、首席秘書官の寺崎哲太に「総理、緊急事態です」と呼び戻された。

内閣官房副長官の矢口博己が状況の説明を始めた。

「本日未明、長崎県対馬の三宇田浜で潜水艦が座礁していると住民から通報があり、駆けつけた警官からの報告によると、潜水艦は無人の状態で放置されていて、さらに調べた所、旧共産圏の自動小銃や爆発物が潜水艦の艦内から発見されたとのことです」

「何だと!対馬に武装集団が上陸したということか!?」

外務大臣の城山育二が声を上げる。

矢口が説明を続ける。

「なお、潜水艦の国籍についてはまだ特定されていませんが、ロシアと中国の可能性は極めて低いとのことです」

「ロシアでも中国でもない、とすると」

内閣官房長官の益岡俊道が頭に浮かんだ国の名前を城山が言う。

「高麗連邦ということか」

旧韓国時代から竹島のみならず、対馬の領有権を強く主張し、最近では高麗連邦海軍の軍艦による対馬周辺での領海侵犯も頻繁に行っていた。

「アメリカを無視した一方的な建国宣言から20年余り。自己主張が強く国際常識が全く通用しない連中だからな」

城山が吐き捨てるように続ける。

「国連も全く手が出せんし、もし奴らが本気で対馬を盗りに来たのなら」

防衛大臣の佐藤政久が古谷に報告する。

「総理、既に海上警備行動命令を発令し、日防海軍の護衛隊群が警戒にあたっています」

「分かりました」

古谷が応えたところに、城山がまた声を上げる。

「総理!防衛出動を命じるべきじゃないのか」

城山の言葉に全員が息を呑んだ。

海上警備行動では緊急避難か正当防衛が認められた場合のみ武器の使用が可能となるが、防衛出動ではその制限が取り払われることになる。発令できるのは防衛軍の最高指揮官でもある内閣総理大臣ただ一人だけだ。

どう応えるべきか迷っている時、代わりに矢口が言う。

「城山大臣。高麗連邦の関与がまだはっきりと決まった訳じゃなく、今防衛出動命令を出してしまうと、日本からの宣戦布告とみなされ高麗連邦に戦争の口実を与えかねません。ここは慎重に進めていくべきかと」

「何?この俺に説教をする気か!!」

城山の怒鳴り声に部屋中が静まる。城山は党内でもタカ派の急先鋒としても知られ、発言力が強かった。

「大臣、矢口君の言う通り、高麗連邦と決めるにはまだ情報が不足しています」

口を開いたのは益岡だった。

「先ずは不法上陸者達の特定、その目的を明らかにし、防衛出動を命じるのはそれからでも遅くはないかと思います」

絶妙のタイミングで助け船を出してくれたことに、古谷は感謝した。

「外務大臣、当該各国への確認、国連への提訴の準備をお願いします」

城山は一瞬不機嫌な表情を浮かべたが「分かった」と応え、自身の事務官を引き連れて部屋を後にした。

「官房長官。すみませんでした」

出すぎた真似をしてしまったと思い矢口は謝ったが、益岡は「気にするな」と微笑んだ。

(それにしても、俺が総理の時にこんな状況が訪れてしまうとは・・・)

古谷は自身の運の無さに深くため息を出してしまった。


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