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第5話

「関係各国とも今回の件については、一切の関与を否定している。高麗連邦とは正式な外交窓口がないため、中国などの第三国を通じて接触を続けているところだ」

首相官邸地下の危機管理センターでは、城山が苦々しい表情で報告していた。

「総理、先日の高麗連邦軍戦闘機による領空侵犯行為からしても、高麗連邦の関与が疑わしいことは明白だ。断固たる姿勢をもって対応するべきじゃないのか」

城山が古谷に向かって言う。

防衛出動を出せと言っているようなものだと思ったが、まだ相手が高麗連邦とはっきり決まった訳じゃない。

まだ早いと言おうとした時だった。

「対馬海峡近海で日防海軍の護衛艦が攻撃を受けました!!」

「何?!」

部屋中がざわつく。


数時間前。

防衛大臣からの海上警備行動発令を受け、佐世保に所属する日防海軍第13護衛隊も対馬海峡近海で哨戒活動を行っていた。

対馬海峡近海で第13護衛隊に所属する「さわぎり」、「あさゆき」、「じんつう」が哨戒活動をしている時、「じんつう」がミサイル攻撃を受けた。

潜水艦から発射された対艦ミサイルが命中し、幸い沈没はしなかったが艦は炎上し、「さわぎり」と「あさゆき」が「じんつう」の救助活動を行った。


「やられているじゃないか!!」

城山が部屋中に響く声で吠えた。

危機管理センターのモニターに映し出された映像には、護衛艦「じんつう」が煙を出して炎上していた。

「現在、護衛艦『さわぎり』と『あさゆき』が救助活動中ですが、報告によると潜水艦からの対艦ミサイルによる攻撃とのことです」

佐藤が報告する。

「総理!これはもう防衛出動のレベルじゃないのか?!」

城山が古谷に向かって声をあげた。さらに追い討ちをかけるように報告が入る。

「新たな艦隊が対馬近海に接近中!」

「艦隊だって?!」

「空母『イ・スンシン』を主力とする、高麗連邦海軍東海方面艦隊の空母機動部隊です!!」

(高麗連邦の空母機動部隊だと?!)

古谷は固唾を呑んだ。

「やはり高麗連邦じゃないか!!」

城山がそれみろと言わんばかりに机を叩く。

「総理!防衛出動だ!!」

閣僚の中には城山に同調するように「総理!!」と言ってくる者もいる。

(いよいよ防衛出動が現実味を帯びてきたか)

古谷は深く椅子に背もたれし視線を伏せる。

「総理、とにかく事実確認を急がせましょう」

矢口が声をかける。

古谷は「頼む」とだけ言った。


対馬海峡近海のことは呉にいた第5航空護衛隊群にも知らされた。

「やはり相手は高麗連邦だったか。しかも空母を出してくるとはな」

「あかぎ」で、呟くように海江田は漏らした。西島と新波は黙ったまま、それでも表情は厳しかった。

高麗連邦の空母「イ・スンシン」は旧ソ連海軍が開発・建造していたウリヤノフスク級原子力空母をベースにして、高麗連邦での建造では中国の技術が導入されていると言われていた。

「艦載機は何機載っていたかな?」

海江田の問いに西島が応える。

「MiG-29Kが60機程。見た目は北朝鮮が持っていた旧ソ連製のお古ですが、中身は高麗連邦によってアップデートされています」

性能は「あかぎ」が搭載しているF-35BJの方が上だが、こっちは15機しかない。

「厄介ですね」

新波がため息をついた。

「これで我々はハードルを越えなければならない状況となってしまった」

西島が淡々と言う。

「艦長、そのハードルとは何ですか?」

新波が聞く。

「我が国の主権を侵し、平和を脅かそうとするものに対して、正面から立ち向かう覚悟だ。だからこそ逃げずに、国を守る意思と力を見せる必要がある」

「そうなれば確実に戦死者が出ます」

「国民を守るために死ねるのなら、軍人として本望だろう」

「攻撃を受けた『じんつう』の隊員達にも同じことが言えますか?」

「皆が同じ認識をしていると自分は思っている」

軍人は本来、国民とその財産、国家の主権を守るために存在し、決して安直なヒューマニズムによって戦うものではない。

西島の言っていることが正しいのだろうが、それでも新波は納得できなかった。

二人の話を聞いていた海江田が西島に言う。

「西島艦長。防衛出動命令を出すのは防衛軍の最高指揮官である総理で、我々はその命令に従う。今は焦らずに待とうじゃないか」

「はッ」

西島は応えると立ち去っていく。

また格納庫か、と新波は思った。

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