弓矢
雪が吹き荒ぶ中で放たれた矢は寸分違わぬ狙いで顎の下、装甲の隙間に吸い込まれる。
だが矢は寸前で防がれる、
身体から放たれる勢いで射出された鉄管により。
姿勢を低くし、静かに警戒する魔獣の至る所から鉄管が這い出てくる。
その姿を見たライアンは遠い記憶を思い出す。
第四級魔獣 四足装獣
凄まじく堅牢な装甲を纏いながらも
装甲がない場所から自由に鉄管を繰り出し
その巨大な体躯とスピードで全てを薙ぎ払う
戦う際は少数は必ず避け熟練の十数人の弓騎士で囲んで叩けと教官に教えられたことを。
数瞬の後ライアンは矢を素早く2本放つ
2本の矢は中でカーブし両脇腹を貫かんと迫るも
それもまた同じく鉄管に弾かれてしまう。
ライアンはこのままではどうあっても勝てないことを悟った、このままであれば。
踵を返し
ライアンはひた走る。
自身の庭である森に向かって
迷う機械の少女は遠ざかっていく足音に
胸が締め付けられる思いであった。
この猛吹雪で弓など役に立つはずがない、
身体能力は圧倒的に格下
勝率は明らかに低く自殺も同然。
ライアンがなぜ私を庇うのか、
きっと私が原因だと理解しているはずなのに。
私を追い出せば済む話なのに、
見ず知らずの他人など放っておけばいいのに。
きっと理由は聞いても理解できないものだろう
貴方は何故、他人の為に命をかけるなど出来るのか…
何故…
密集した樹々の中に威嚇音を発しながら周囲を見回す四足装獣があった。
その足下には降り積もった雪を被って荒い呼吸をなんとか収め息を潜めているライアンがいる。
どこまでもついてくる四足装獣から隠れる為
いくつかの木の枝を狙い撃ちし、
四足装獣に雪を落として視界を遮り隠れ遂せたのだ、
だが寄る年の瀬には勝てないのか顔色は酷く悪い。
なんとか誘い込めたとはいえ対魔獣の矢は残り5本。
奴を仕留めるに足るギリギリの本数
なんとしても仕留める。
この森は今日まで第四級魔獣がでたことはない。
だが二級魔獣が頻繁に発生し、また山からは更に危険度の高い魔獣が下りてくる事もあり王国指定危険地域ではある。
だから見える範囲でも数十のトラップが仕掛けられている、大型ベアトラップ 落とし穴 落石トラップ 括り罠
巨大な四足装獣には効果は薄いが
気は引ける、そうすれば背後から矢を射し込める
指で雪に穴を開け周囲を確認
四足装獣は苛立った鳴き声をあげているが動きだす様子がない。
罠は自分で起動しなければ…
危険は高いがやらねばならない、
興味と怒りが薄れる前に罠を矢で起動する。
ライアンは一呼吸し、
何万回と握った弓を構える
雪の中から外の世界を幻視する。
魔獣の位置大きさ
乱立する樹々と
地を這う木の根や石の一つ一つまで、
その先の指より細いギミックのロープ
ライアンは確信し矢を放つ。
ひたすら研鑽し続けた一射
果たして矢は命中する
吹雪は未だやまず
山小屋の床を雪が濡らしていた