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今日から学校と仕事、始まります。①莞

何を装備しましょうか?

作者: 孤独

ガラララララ


ちょっとお高いお屋敷にある、古い大きな蔵。この家の主、阿波野小諸あわのこもろは友達を4人連れて、この蔵に案内する。


「ここにあるのよ。私の衣替え。最近、涼しくなったわよね。みんなには手伝ってもらうのと、良ければ貸してあげるわ。着れないのもあるし」


阿波野小諸あわのこもろ

今は華の女子大生をやっているお嬢様といったところ。蔵丸ごと1つが、クローゼット感覚。

今日は高校時代からの友人、後輩を呼んで、お手伝いしてもらいたかった。


「デカい蔵……。これ、阿波野先輩の物なんです?」


遠藤美樹えんどうみき


「掃除されてるじゃない。出入りは頻繁か?」


一二三穂乃歌ひふみほのか


「マジでもらっていいんですか!?服、タダですよね!?」


朝野由美あさのゆみ


「つーか、蔵丸ごとって……まぁ、あんたの自室やべぇしね。ブロマイド、ラブレター山積み」


斉藤吾妻さいとうあづま


同期や後輩の小言を聞きながら、阿波野が1つずつ答えたこと。


「これだけの物を揃えるのは、家族でも私だけ。毎朝来るから、掃除もしてるわよ」

「そんなに来るのか?」

「私のお部屋は、灯様専用なのですわ。私物はベット以外は置かない。私のクローゼットがお外なのは当たり前」

「お前の部屋って何?っていう、哲学……」

「好みに合うのなら、もらっていいわよ。朝野」

「いやったー!掘り出し物ーー!」



パッ



そして、蔵の明かりが灯ると。

壁中に並べられているのは、蔵の中に相応しい装備ができる数々。入って来た者達が唖然、感嘆、愕然、失笑とする中身。

日本刀、薙刀、鞭、槍、斧、手裏剣、千輪、弓と矢、暗器全般、などなど……。

蔵に入っていると相応しい、武器庫だった。



「なんなんですか、この中身ーー!?」

「凄いな。これだけの数の武器を揃えているのは。ホントに1つ、もらっていいのか?」

「すみません!服が欲しいんですけど!!もしかして、武器の衣替えの手伝い!?」

「こんな事だとは思った……」



ここの8割以上は、阿波野小諸が集めている武器の倉庫であったのだ。



◇        ◇



「厚着の季節ですし、来週から学校に暗器を持ち込もうかなって」

「確かに日本刀や薙刀を背負っていると、職質される時代だからな」


先輩達の会話が少しおかしい……。

そう思う、遠藤と朝野の2人。

武器庫の隅にある衣類の詰め物を拡げて、拝借しようとする可愛い衣類はとてもまともなもの。しかし、成人式も近いから着物でもあれば、お借りしたかった朝野はちょっと着るに着れない気分。武器庫の中にある着物ってなんだよ……。防弾性能でもあるんじゃないのか?


「阿波野ー」

「どーしました?斉藤?」



そんな中、斉藤は武器庫の中にはない。ある種類について、尋ねた。


「銃火器はないの?やっぱ、日本では無理って感じ?」


そう、銃火器である。置いてありそうな感じであったが、この阿波野の蔵にはなかった。


「銃火器なんて風情の欠片もないでしょ。日常生活で面白みのない武器を身につけて何がいいの?見た目って大事じゃない。特に女の子には」

「いや、学校に暗器やら刀を持ち込むあんたに、その言葉は合ってんのか?まぁ、ごめんね」


この独特な、阿波野の感性には何を言っても通じないと、諦める斉藤。引き下がれよって、後輩の2人は言いたげであったが、一二三は語る。


「銃と爆弾、毒ガスは戦士と一体しないからな。研究者が讃えられるものだ。私達にとっては武器ではないし、一部では兵器と言われている理由でもある」

「そうよね。やはり使用者の力に製作者の力が合わさる、刀や斧で相手を屠るのは、己の快感と自らの力の誇示に繫がるわ」

「もう別の時代か別の世界に行けよ」


蔵にある武器庫の衣替えをせっせっとする斉藤。

一二三は日本刀や槍を研いだり、磨いたり。

阿波野は秋用の武器を取り出したりと……午前中はこの蔵を完全に綺麗にし、昼食は外で食べようという今日の予定。

なにやってんだって、斉藤は想いながら阿波野の手伝いをしているわけだが。毎朝、阿波野がメイクを終えた後で


『今日は何を装備しましょうか?』

【日本刀を装備しますか?】

『昨日は日本刀だったし、……今日は鉄拳で行きましょう』

【阿波野はメリケンサックを装備した】


なんて、ゲーム的なやりとりをこの武器庫でやってると想像すれば、面白いのかもしれないと思った。あくまで第三者から見ればだ。

ホントにこいつ危ないし。職質されても、並の警官達からなら逃げられるか、返り討ちにできる力量がある。たまに危ない仕事も引き受けると聞く。


「最近、人を斬ったな。この刀。刃こぼれしてるぞ」

「あら?じゃあ、一二三にあげるわ」

「…………」


今のは聞かなかった。今のは聞かなかった。


「あの、阿波野先輩。この着物の赤い染みは……」

「ああ、返り血がついちゃったのね」




◇        ◇



そんなこんなで午後。


「美味しかったですね、回転寿司」

「奢ってもらってありがとうございまーす。服まで頂いて」


阿波野奢りの寿司をたらふく堪能した4名。

武器の衣替え、整備、清掃には驚きと重労働を味わったわけだが


「……ところで、阿波野。あんた今、何を装備してるの?」

「クナイ。胸ポケットに入ってるわよ、斉藤」


分からなかった。春夏仕様の阿波野は、堂々と刀や槍を腰や背に付けているから危険だと分かるが、秋冬仕様は普通の女に見えるから危険度が大幅に下がっている。いや、止めろよって思う。


「ふむ。しかし、刀や斧を装備していない阿波野は雰囲気が違うな」

「そ、そうだよね!一二三!ずーっと、この方が……」

「頼りない感じだ。おどおどしたというか、自信の希薄さが出ている」

「うーん……確かに暗器ってあまり練習していないから、かな?暗器は奇襲に対して使うから、自己防衛には向かないのよね。確実に先手で襲われちゃう」

「いや、違うから!!誰も阿波野なんか襲わないから!」


そんなこんなのやり取りの中、路上で悲鳴が上がった。



「きゃーーーー!」

「ひったくりーーー!」


反対側の車線でカバンを盗られるおばさん。原付で逃げる悪ガキ2人。


「へへへっ、いただきだーーー!」

「俺達は少年法で護られてるんだぜ!!」


イキッた無免許運転。最近、こんな感じの馬鹿がいなくて良かったのに。はぁ……。


「ナンバー見えた!?」

「いや、面倒だ!走って追うぞ!美樹!」

「もーぅ!お寿司でお腹一杯なんですけど!」


一般人らしい反応の朝野と、超人らしい反応の一二三、どーでも良い事に首を突っ込みたくない美樹。3人の世界が違うことを示しており、


「斉藤」

「阿波野!あんたの出番よ!」


斉藤と阿波野の世界も違う。


【”斉藤吾妻”を装備しますか?】

「はい?」


そんなテロップが流れたような気がした。

疑いたいんだが、阿波野の右手が斉藤の首根っこを掴んでおり、


「行きなさい!斉藤!!」

「あたしを飛び道具にすんなーーー!!?」



装備したと同時にぶん投げる。それは原付が逃げる速度よりも速く、確実に先回りしていて、制球も完璧。



ドガアアァァッ



悪ガキ2人に斉藤を直接ぶつけて、逃亡阻止。その間に一二三と美樹が悪ガキをひっ捕らえ、朝野が警察に通報したり、なんだったり……。


「ちょっとーー!何してくれてんの!阿波野ーー!か、顔が傷付いちゃったじゃん!」

「斉藤ってなかなか丈夫な武器じゃない。あれで壊れてないなんて」

「反省しろーー!?」

「あ!良い事思いついた。斉藤、私の武器庫で暮らさない?」


斉藤と阿波野の喧嘩で、ひったくり以上に交通を麻痺させちゃったり。だったりしていたのだった。


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