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美術室 一生縮まらない距離

作者: 苦玉 苔子

なんかもう姿見るだけで緊張しちゃうくらい格好いい人っていますよね。これに出てくる"あなた"はそういう人です。


中央階段を4階まであがって左に曲がった廊下の突き当たり。西に傾いた太陽の光が照らしているそこには、美術室がある。

中身がわかっている、しかしあまりにも大事なものが入った宝箱を開けるようにそーっとその扉を開けると、あなたがいた。

夕陽に照らされたキャンバスと、椅子に座ってすらすら色をのせる姿が見えた。私は少しの間立ち尽くしてしまった。


あなたの手が綺麗でみとれていると


ほんのり冷たい声であなたが


「何?」


と言うので、私は目が覚めて


「え、いや、す、す、透けそうだと思った」


焦って、どもりきって意味の分からない私の返答も、あなたはちゃんと飲み込んでくれる。


「大丈夫、透けないよ。まだ死んでないんだから。」


そう言って、今度はほんのり笑いかけてくれるあなたの優しさに「好きだ」という感情がこぼれ落ちそうになる。

同時に、あなたの優しさに頼ってばかりの自分の幼稚さにまた腹が立つのだ。


「なんの花を描いているの?」


キャンバスには色んな色がのせられていて、別々の種類の花びらの形をしたそれらはひとつの中心に向かって大輪を成している。

なんの花か、見ればそんなことを訊くような作品ではないことは頭ではわかっていても訊いてしまった。

これを描いているあなたがなにを考えているのかを知りたかった。


「知恵をイメージして描いているんだよ。今まで得てきた自分の知識を使ってやっと出てくる知恵って花が咲くみたいだなって思って。」


うん。


「だから、知識の花を描いているんだと思う。」


そんな意味があったのか。

「だから、知恵の花。」ではなくて、あくまで知識の花=知恵だという筋のとおった考え方にあなたらしさを感じた。

それでも、それがこの作品のすべてではないことを私は知っている。

丁寧に教えてくれる優しさも、思考なのか感情なのか、そのすべてを教えてくれるわけではないことを知っている。

自分の意見を述べることこそ人間一番楽しいものだと聞いたことがあったけど、それは間抜けなやつに限る。

何故この人は全てを教えようとしないのか。


「そうなんだ。」


訊きたいけど、こんなにも可憐な作品の出来上がっていく様子をこれ以上邪魔したくない。


だけど本当は、こんなことだけじゃない。


少し離れた窓際のところに椅子がおいてあったから会話の不自然な空間を埋めるためにそこに座る。

一息ついて荷物を置くと、作業する環境を整える風を装うために飲み物を用意することにした。

もう手慣れた行程だからあまりにも自然にできた。


「飲み物、なんか飲む?」


知りたい。


「いや、大丈夫。」


知りたい。


「ん、分かった。」


知りたいのに。

もう、どうすればいいのか分からない。













_____________________________

コミュ障特有の色々考えすぎて思ってることなんにも言えないもどかしさです。この話に続きはありません。"どうすればいいのか分からない"まま少しの接点も無くなって終わります。

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