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秋葉原ヲタク白書10 お絵描きオムライスの秘密

作者: ヘンリィ

主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起きる事件を次々と解決して行くという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第10弾です。


今回は、秋葉原のメイドカフェでスタートアップへの投資の話を進めていた投資家が、お絵描きオムライスを食べた直後に七転八倒、救急車で運ばれる騒ぎとなりますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 疑惑のオムライス

「ハイ!出来ました、御主人様!」

「うぉ!似てる!スゴぃ!」

「では、もっと美味しくなるように〝愛込め〟を致しましょう!みなさん御一緒に!萌え、萌え、デリシャース!」


メイドが、御主人様(ゲスト)のリクエストに応えてオムライスにケチャップでアニメキャラの絵を描き〝愛込め〟をする。


黄色いオムの上に赤いケチャップで描かれたキャラの絵は、実に表情豊かに微笑んでいる。

昔は「萌え」と書くだけで精一杯だったメイドの「お絵描き」技術は長足の進歩を遂げている。


「どうですか?コレが私達が体現しようとしている秋葉原カルチャーなのです」

「いやぁ、驚きました。実に楽しい!」

「我が社の原点をご理解頂けましたか?コレで弊社への投資のお話も次なる次元へ進めそうですね」


おや?ココは秋葉原のメイドカフェなんだけど、場違いな会話をする人達もいるモノだ。

ノーネクタイだけど背広姿の2人連れがメイドカフェで商談?オムライスを食べながら?


実は、アキバ慣れしてるっぽい方は新興宗教の教祖なんだけど、そうと気づく者はいない。

もう1人は、どうやらアキバ初心者のようだが、いわゆるアキバ観光客とは明らかに違う。


「なるほど。御社への理解が深まりました。投資の件、前向きに考えさせていただきましょう」

「そうですか!さぁ、オムライスを召し上がれ。冷めてしまう」

「そうですね…ぐ、ぐげぇ!」


ところが、アキバ初心者の方がオムライスを一口食べるや、彼は喉を掻き(むし)って床に転げ落ちる!

メイドが悲鳴をあげ、御屋敷(メイドカフェ)の中は騒然となる。


「救急車だっ!救急車を呼べ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「どうしてリンカさんが。何かオカシイょ。ね、テリィさん」


ココは、僕の推し(てるメイド)であるミユリさんがメイド長を務める老舗メイドバー。

開店直後に御帰宅(入店)して来た常連のショーさんに僕は絡まれている。


「リンカさんは悪くないんだ。だって、何も知らなかったんだもの」

「まさか、メイドラマチックがクイーンメイドのクビを切るとはねぇ。僕もビックリです」

「そうなんですっ!最近、自分の推し運が悪過ぎるっ!あぁ!もう夢も希望もないっ!」


ショーさんは、嘆いている。


メイドラマチックというのは、某キャバクラチェーンが全国展開中の御屋敷(メイドカフェ)の名称。

クイーンメイドは、そこの人気メイドに与えられる称号でキャバクラならナンバークラスに匹敵。


そのメイドラマチックで最近、何でも食中毒騒ぎが起きたとかで、煽りを喰ったメイドが1人クビになったと聞いている。


どうやら、クビになったメイドはリンカさんらしいんだけど、彼女はアキバでは有名メイドの1人なので僕もお給仕されたコトがある。


「ベテランで万事ソツのないリンカさんがねぇ。ちょっち信じられないなぁ」

「彼女がお絵描きしたケチャップが腐っていたと逝うのが解雇理由です。果たしてソレって彼女の責任なのでしょうか?!」

「いや、ソレは何とも。ってか、ショーさん、いつの間にリンカ推し(リンカさんのファン)になったんですか?」


すると、ショーさんは、アッしまったという顔をして少しバツが悪そうな顔をする。


ショーさんは、秋葉原の地下アイドル現場にこの人アリと言われた伝説の(アイ)ドルヲタ(ク)だ。

アキバから世界進出を果たしたポップシンガー、マミさんのTO(トップヲタク)(ファン代表)でもある。


そのマミさんが渡米して以来、ショーさんは、次の推せる人材を熱心に探している。

常に、誰かを推してないと生きて逝けない、生まれついての(アイ)ドルヲタ(ク)なのだ。


確か、最後に会った時は、お屋敷(メイドカフェ)に潜入捜査中だった麻薬取締官(まとり)に惚れられてたけど、やはり相手が公務員じゃ退屈だったかな(特殊部隊だけど笑)?


「残念ながら、麻薬取締官(サリィさん)とは別れました。理由は価値観の相違です」

「そ、そうですか。しかし、推し変(心変わり)の相手がメイドラマチックのクイーンメイドとは、何とも華麗だな。さすがはショーさん!」

「ソレを逝われるとお恥ずかしい。実は@時代のメイド服を着てくれるんです、彼女」


実は、リンカさんは老舗の@ポエムがアキバに進出した時の立ち上げメンバーの1人だ。

その後、有名な6月革命とかあって@を追われ、当時の新興勢力だったメイドラマチックに移籍。


後進のメイドラマチックは、観光客ウケを狙うアキバ然としたメイド服で人気を博すが、手作り感溢れる昔の@服を推すファンは意外に多い。


実は、僕もその1人だ←


「あの学園祭っぽい感じがいいんですょね、昔の@服は。リボンで貧乳も隠れるし」

「エヘヘ、やっぱり?…じゃなかった!だから!テリィさん、今日はテリィさんとミユリさんにお願いがあって来たのです!」

「な、何ですか?改まって」


場違い(に僕には思える)な迫力に気圧されて僕は思わずバーカウンターから後ずさる。

ところが、ショーさんは本気にマジメで、僕に向かってキッチリと頭を下げてくる。


「リンカさんの疑いを晴らしてくれ。そんなコトをするメイドじゃナイんだ、彼女は」


第2章 悪徳店長を追え

「いいか、お前ら!ヲタクを見たらサイフだと思え!オタクはサイフ!全員で言ってみろ!」

「ヲタクはサイフ!」

「サイフを見たら中の金が欲しいょな!中の金が欲しけりゃヲタクに(さわ)れ!腕に触れろ!肩に手を置け!」


いやぁ!スゴい動画が流出してるモンだ!全くネットの世界って恐ろしいトコロだょね。

何処かの朝礼の風景らしいんだけど、実はコレ、キャバクラではなくてメイドカフェらしい。


画面が引くとスーツ姿の瘦せぎす店長?の前にメイド服姿の女の子達がカットインして来る。

キャバだと女の子が座ってる場合もあるが、この動画ではキレイに2列横隊で直立不動だ。


「しっかしスゴいな。メイドラマチック、こんな朝礼やってんの?毎日?」

「少し驚いたカモ。女の子達が可哀想」

「ってか御帰宅する御主人様の方が可哀想…ん?でも逝けば触ってもらえるのかな?」


論理的に思考を展開しただけなのに、僕の鳩尾にミユリさんの肘鉄が無情に決まる。

ココは、僕達のアキバのアドレス(溜まり場)マチガイダ・サンドウィッチズ。


僕は、出勤前のミユリさんと名物のチリドックを食べながら動画を見ている。

あ、コレはアキバ式の、いわゆる「同伴」って奴だね、ホットドッグだけど笑。


今日は、僕達の同伴先にPCを片手にショーさんが先回りして待ち受けている。

そこで、僕達に見せてくれたのが、さっきのメイドカフェの朝礼風景と逝うワケだ。


例の食中毒のあったメイドカフェで、毎朝(夕方のコトだょ)行われている朝礼風景らしい。

誰が撮ったのか知らないけど、数日前からコッソリと動画サイトにUPされているとのコト。


「しかし、この店長、心底ヲタクが嫌いみたいだな。御帰宅(来店)する気が失せるょ」

「おぅ!テメェ上等だな。なら来るな、このクソオタク!」

「ええっ!」


窓際の客が、激しい言葉を吐きつつ振り向くと…おおっ!何と動画の店長その人ではないか!

あぁしまった!こんな人までドッグ食いに来てんの?さすがは人間交差点マチガイダだな←


ユーリ店長が目配せしてくれてたけどもう遅い←


「あわ、あわわ!ちょうどメイドキャバ、逝きたかったトコロです!いやぁこの御屋敷ならサービス期待出来ちゃうな!素敵だ!」

「そうか!わかりゃいいんだ!コッチもヲタク相手とは逝え客商売だ。遊ばせてやるからサイフの口をシッカリ開けて来い!」

「喜んでー」


どっちが客だかワカラナイ。


その男は、色黒でヒョロリと背が高く、恐らくアラフォー、大抵間違ってンだけど自分の考えとやらをシッカリ持ってる叩き上げ系。


で、こーゆー時の頼みの綱はミユリさんだけだ、同業と見抜いたか、御主人様(僕だょ笑)の危機を楽しそう?に笑って見ているだけ←


しかし、こんなシーンでも瘦せぎす店長に敢然と突っかかって逝く勇者が約2名いる。

1名は、モチロン推し(てるメイド)をカモられて怒髪天を突くショーさんだ。


そして、もう1名は…


「おい、ダスト。いい加減にしろ。ソチラさんはウチがお世話になってる方なんだ」

「あ!ウェスの兄貴!御無沙汰してます!」

「テリィさん、ミユリさん。ホント、すみません。最近は若いモンの行儀が悪くて」


トレードマークのグレーのジャケットを羽織ったウェス店長の登場だ。

このウェスも店長なんだけど、コチラは蔵前橋通りにある「洗体」の店長だ。


ところで、僕は何処かで彼の世話をしたみたいなんだけど、実はソレが何処だったのか、どうしても思い出せずにいる。


まぁ何かと都合がいいので、そのままにしてルンだけど、何となく気味が悪い反面、こーゆー時にはホントに大助かりだ。


「おい、ダスト。ちょっち顔を貸せ」

「は、はぁ」

「テリィさん、ちょっちダストに灸を据える時間を頂戴します。それまで、そちらの堅気さんをお願いします」


ウェスの指差す先は(怒髪天を突く)ショーさんで、今にもダスト?に掴みかからんばかりだ。

僕は、ウェスに頷いてみせ、ミユリさんと2人がかりで怒れるショーさんをナダメにかかる。


ウェスはダストを連れ出し、ドアの外で色々と「オトナの話」を交わす。

「虎の旦那が…」とか逝う声も聞こえたが、暫くして2人が店に入って来る。


やや?あのやりたい放題のダストが、まるで借りてきた猫みたいに大人しくなってるょ?

ウェスは、虎吉さんの名も歌ってダストにシッカリと追い込みをかけてくれたみたいだ。


お陰様で心を入れ替えた?ダストからはトンデモナイ情報まで飛び出す。


「実は、お絵描きの直前にリンカのケチャップを私がすり替えました。リンカは何も知らずに、私がすり替えたケチャップでお絵描きをしたのです…ホントにスミマセン!」

「ええっ?じゃリンカさんは無実の罪?ってか何ですり替えたの、ケチャップ?」

「実は…そうしないと洪水が…来るとの大教祖様の預言が…」


ええっ?洪水?ま、まさか…ダストは「あの新興宗教」の信徒だったのか?

どうやら、ダストの行動は教会筋からの「預言」に従ったもののようだ。


大教祖様がお連れする異教徒(=一般人)が食べるお絵描きケチャップをすり替えよ!

さもなくば、お前と一族は全て「洪水」に飲まれ、もがき苦しみ、死に絶えるであろう…


「おい!そのケチャップを食べた客は死にかけたんだぞ!もしかして毒入りケチャップとすり替えたんじゃないのか?」

「あぁ、神よ、洪水より我が一族を救ひたまへ…」

「まるで(いにしえ)暗殺教団(アサシン)の復活じゃないか!で、その大教祖とやらの名は?」


今や、ウェス以下、マチガイダ店内の全員がダストに詰め寄って大糾弾大会の様相だ。

観念したのか、ダストがガックリと膝を折って消え入るような声で逝う。


「大教祖様の名は…メジア」


第3章 大教祖様は資金繰り中

やれやれ。またもメジアの登場だ。


メジアというのは、アキバに本拠を置く新興宗教のイケメン教祖のコトだ。

話すと長いんだけど、簡単に逝うとミユリさんの元彼の推し(てるメイド)を寝取った男←


というワケで、通常は全てのイケメンは僕の敵なんだが、彼に限って利害関係?は微妙だ。

とりあえず、スタートアップのオーナーという顔も持つので関連業界の情報を聞きに逝く。


「やぁ、テリィさん!お?今回はミユリさんも御一緒ですね!ん?ソチラの方とは初対面かな…いやぁ御無沙汰してます!」


中央通りに面したタワービルの最上階にある社長室で僕達をニコヤカに出迎えるのはトロール会社オーナーのムーミン(仮称)だ。


ムーミンは、淡いピンクのポロシャツ姿でシリコンバレーの若手起業家と逝った風情。

その笑顔は、あくまで爽やかなんだが…あ!気をつけて!彼はゲイ笑。


コチラは、僕とミユリさん、ソレにショーさんの3人組。

ショーさんは、あれ以来、勝手についてきて離れなくて…困ってるんだ実は笑。


ところで、今度の相手にだけは僕はシッカリと「お世話をした!」と逝う記憶がある。

何しろ僕は、彼の会社がロケット弾で吹き飛ばされるのをカラダを張って防いだのだ。


「その節はお世話になりました!で、その次もお世話になったのかな?あれ、コッチがしたのかな?ま、いいや!大歓迎です」

「そうそう。前回教えて頂いた新興宗教紛いのスタートアップの件なんですけど」

「あ、別れたみたいですょ、例の彼女とは」


そんなコトは聞いていない。


しかし、どうやらミユリさんから彼氏を奪った女は、その後アッサリと捨てられたようだ。

何か胸がスカッとしたような気もスルが、コレでメジアと僕の利害関係?はますます微妙に。


「いやいや。教祖…じゃなかったオーナーの(イロ)の話はどうでもよくて、今日は会社の方なんですけど。最近どうなんでしょう?」

「あ、会社もヤバいみたいですょ。確かミャンマーの工場は華僑に売ったとか聞いてます」

「ええっ!それじゃ大教祖ゴッコとかやってる場合じゃナイでしょ?もしかして倒産間近とか?」

「ナリフリ構わずエンジェル(投資家)に声をかけまくってるみたいですねぇ」

「そりゃ末期症状じゃないですか!超新星爆発(スーパーノヴァ)直前の赤色巨星って感じ?」

「しかも、最後のあがきか、資金集めに何やら怪しい発明をネタにしてるって逝ってたっけ…えっと何だったかな」


ムーミンは、尻ポッケから端末を取り出して何かの検索を始める。


「あ、コレコレ。電磁コアだ。なんでもUFOの動力としてNASAに採用されたとか…」

「えっ?NASAに採用されたって、やっぱりUFOってNASAが飛ばしてたのか?!」

「さぁ」


僕の質問に首をヒネるムーミンは、ナゼかとても楽しそうだ。

アキバ発のスタートアップなんて、みんなこんな感じなのかな?


「ただ、この電磁コアって何だかよくわからないけど、もしかしたら、大儲けのチャンスなのかもしれませんねぇ」

「そんなハズがない!大教祖は、リンカさんをハメて投資家から資金を引き出しトンズラすることつもりだったんだ!」

「ミャンマーの工場転売の話をエンジェル(投資家)には隠しておきたかったのかもしれませんねぇ」


推し(てるメイド)の嫌疑は晴れ?たが、怒りは倍加して、ますます激昂するショーさん。

他方、トボけた顔して的確なのか無責任なのかよくわからない憶測を口にするムーミン。


しかし、リンカさんをハメると何で投資を引き出せるのか話はピーマンだが、そろそろムーミンのトコロは辞去した方がよさそうだ。


次は、いよいよ教団本体を直撃だ。


第4章 沖縄デーから来た2人

教団は、ムーミンのタワービルと中央通りを挟んだ向かい側のビルにあるが、コチラも見上げるばかりの立派なタワー。


ココでミユリさんには、マイクロミニのメイド服に着替えてもらいに店に帰ってもらう。

いや、僕の趣味ではなくて、前回マイクロミニが教団幹部にバカウケだったからだけど。


まぁミユリさんの脚線美は絶品だから、教団関係者に限らず、いつでも何処でも話を上手くまとめたい時のマストアイテムなんだ←


「あ、ココだココだ。うーん相変わらず胡散臭いなぁ」

「え?玄関にフェイクのギリシア石柱だと?ラブホかょ?」

「やぁ!君、久しぶり!先日はゲシュタルト崩壊させて悪かったな!」


僕とショーさんがタワービルのEVを降りるとそこは木目調の壁に囲まれたフロア。

全面が壁なんだけど、一箇所だけ両脇にヘボン式の石柱に挟まれたドアがある。


今、正にそのドアが開いて中からペラペラの制服を着た若い警備員が飛び出してくる。

彼は、僕を見るやバツの悪そうな顔をして、どうしたものかという感じで(たたず)む。


「安心してくれ。今では、君の大司教さんと僕はスッカリお友達なんだ」

「そ、その話は聞いて…おります。おりますけれども…」

「大丈夫だょ。テリィが来たって伝えてくれる?」


前回は、ココをどうしても強行突破する必要があったので、かなり彼を精神的に追い込んだが、そのコトは心から反省している。


彼のトラウマになっていないとイイのだが。


「と、とりあえず、コチラでお待ちください。先ずレミゼ様にお伺いを…」

「いや、レミゼ司祭ではなくてもイキナリ大教祖様にお願い出来ないかな?いきなりステーキも流行ってるコトだし」

「え?え?いきなりステーキ?ステーキが流行ると何で…わ、わああっ」


マズい!生真面目な彼は、またも考え過ぎて精神が破綻しかける。

僕達は、またも廃人になりかける彼をなだめすかして大教祖の待合室?へ入る。


ソコは、窓のない細長く狭い部屋で安い応接セットが置かれている。

とても大司教から預言を乞う迷える信者が控える部屋とは思えないがココは我慢だ。


すると、我慢の甲斐あったかドアが開いて入って来たのはレミゼ司祭とメジア大教祖。

アッサリ教団最高位のツートップが出現したので、ココは一応、僕達も席を立ち迎える。


「おおっ!テリィさん、迷える魂ょ!未だ洪水に押し流されていなかったとは!」

「レミゼ司祭こそ御無沙汰だなぁ!ちゃんと税金払ってますか?」

「うっ…と、ところで今日は何か御用ですか?ミユリさんは?」


とりあえず、前座でレミゼ司祭が前哨戦を仕掛けて来るので軽くジャブを返す。

メジア大司教は、相変わらず黒のスーツ&ノーネクタイでラフな感じ。


「メイドは、後から来ますょ。ところで、メジアさん、単刀直入にお伺いしますが、何で投資家に毒入りケチャップを?」

「はて。何のコトやら分かり兼ねますな。言い掛かりなら名誉毀損で訴えますけど?」

「弱ったな。コッチにはケチャップのすり替えは貴方の指示だったと逝う証言があるんですけどね」

「ほほぅ。誰の証言でしょう?」

「貴方が商談に使ったメイドカフェの店長、ダストさんの証言です」

「えっ?ダストが?」


隣のレミゼ司祭が、傍目にも明らかなほど蒼ざめてアタフタと慌て始める。

いいペースだ、コレはイタダキだなと思ってたらメジア大司教が割り込んで来る。


「証言はともかく、教団にはケチャップをすり替える動機がないでしょう?今の話は全て貴方の妄想だ」

「最近、ミャンマーの工場をお売りになりましたょね?そのコトを投資家の方々には余り知られたくナイようですが?」

「バカな。ミャンマー工場の売却は、プロメテウス・プロジェクトのセントラルドグマで既定路線だ。誰にも隠す必要などない」

「プロメテウス・プロジェクト?既定路線?」

「私達アララト・インターナショナルは、電磁誘導の分野において今世紀最大の革新的発明をした。目下、事業化に向け資金を募っているトコロなのです」

「何?新鋭工場を売り飛ばしてでも事業化したい新発明なのか?」

「我々が開発した電磁コアによりライト兄弟以来の航空機の概念が一変するのです。自家用UFOの時代が来るのですょ」


その前に洪水が来るんじゃないの?とか突っ込みたかったんどけど、残念ながら僕自身、興味深々な話なのでつい引き込まれてしまう。


「UFO?自家用のUFO?」

「ミャンマー工場の売却益も全額を注ぎ込むつもりだ。既にメインバンクにも説明済みなんだが、アンタら銀行筋からの情報で投資に来たんじゃないのか?」


明らかに「何だ?違うの?」という顔で全身から失望感を大放出する預言者メジア様。

何処か投資詐欺の香りもスルが、彼自身が電磁コアを信じ切っているコトは間違いナイ。


うーん。さすがの僕も、つい相手のペースにハマって情けないコトを口走る。


「それじゃ貴方が投資家(エンジェル)に毒を盛る理由なんかナイじゃないか」

「だから、最初から教団には動機がないと逝っているだろう」

「口にしただけで七転八倒スル強烈な毒だったんだけどな…」


苦し紛れに呟いた僕の何気ない一言だが、耳にした大教祖メジアが鋭く反応する。


「ん?待て。一口で七転八倒?それは、例のカゲキーニョじゃないのか?」

「カゲキーニョ?何だソレ?エルニーニョの親戚か?」

「いや。ハラペーニョの親戚だ。インカ産の過激な唐辛子と聞いている。実はヲレもヤラレた」


急に情けない顔になり腹をさする大教祖メジア。

笑える絵だ。概してヲタクは胃腸が弱い。


「最近、中南米へ逝ったのか?カリブ辺りで美人信者をビキニにしてお楽しみだったんじゃナイの?」

「いや、ヲレはゲイだ」

「じゃ他の誰かが中南米へ旅行してお土産でも買ってきたんだろう。誰だ?」


その時、ドアが開き、例のコスプレ警備員がガウン姿の美女2名を入室させる。

ん?1人はミユリさんなんだけど、ミユリさんに負けてナイもう1人の美女は誰?


ってか何でガウンなの?

ガウンの下は何←


「レミゼ!お願いだから、もうホントのコトを話して頂戴!」


ガウン姿の美女その2(その1はもちろんミユリさん)がレミゼ司祭に激しく詰め寄って逝く。

その時、ガウンがチラとめくれたんだが、何とガウンの下は…わーお!ビキニだょ!


と逝うコトはミユリさんも?!?!


「リンカ!ナゼお前がココに?よ、余計なコトを喋るな!ソレに神をも恐れヌその格好は何だ?」

「余計なコトって何よ?ウグニ塩湖の畔で私にプロポーズしたコト?この格好?貴方の好きなビキニじゃないの!」

「わ、わ、わ!大教祖、わ、私は決してウグニ塩湖など逝ってはおりませぬ!」


その瞬間、切れたリンカさんがガウンを脱ぎ捨てビキニ姿でレミゼ司祭に襲いかかる!

そのまま、自分を(もてあそ)んだ?司祭を押し倒しマウントポジションから顔面を()(むし)る。


ビキニ美女に馬乗りにされ悲鳴(歓声ではない笑)をあげるレミゼ司祭。


「結婚するって逝ったじゃない!愛してるって逝ったじゃない!」

「い、逝ってなひ!愛してるとも、ウユニ塩湖にも、逝ってなひのです!大教祖様!」

「いやあああああっ!!!」


半狂乱になったリンカさんは、もはや顔も何も見境なく殴打を始め手のつけようがない。

さしものメジア大教祖も、片腕の司祭の顔が無残に潰れて逝くのを後退りして見ている。


そのまた横で、ショーさんが推し(てるメイド)の半狂乱に呆然となって立ちすくんでいる。

ふと気づくと、僕の傍らにガウン姿のミユリさんが来てソッと耳打ち。


「リンカの新しいお屋敷(みせ)が今日は『沖縄デー』だったの。ちょっち、私もお手伝いしてきちゃった」


そして、ミユリさんは悪戯っ子みたいにチョロっと舌を出して微笑む。

僕はと逝えば、ミユリさんのガウンの下はどんなビキニかな、なんて考えている←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


結局レミゼ司祭は、教団には世界終末を占うインカ歴の現地調査と偽り、リンカさんを誘い中南米へ愛人旅行とシャレこんだワケだ。


勢い余って、現地でプロポーズまでしてしまったが、帰国した時点で、そんな旅先での気の迷いは、とっくに消え失せている。


リンカさんは、帰国してお屋敷を卒業し花嫁修行を始めた辺りで彼の心変りに気づく。

泣く泣くアキバに戻って、教団の息のかかったお屋敷で御給仕を再開するコトにする。


一方、横領の発覚を恐れたレミゼは、電子台帳を見ながら行われる大教祖と投資家の話し合いを何とかブチ壊そうと画策する。


幸い?手元には愛人旅行中に冗談で買ったスーパー唐辛子「カゲキーニョ」がある。

教団内で配ったら、余りの辛さに大教祖以下全員が下痢して御蔵入りにしたモノだ。


コレを使って、大教祖と投資家の話し合いを不調に追い込み、その罪をリンカに着せる。

素晴らしい!1石2鳥とはこのコトだ!早速、預言を語ってダスト店長を(そそのか)す…


ところで「沖縄デー」ってのは、メイドがトロピカルなコスプレをするイベントらしい。

まぁ普通はアロハを着るくらいなのだけど、新人さんだけはビキニになるのがお約束だ。


しかし、いかに新人さんとは逝え、ベテランのリンカさんは恐らくもうアラサーだ。

若い子達の前で自分だけビキニになるのは、かなり勇気が要ったのではないだろうか。


ソコへ何処で話を聞きつけたのか、古馴染み(=似た年齢←)のミユリさんが、なーんと同じビキニ姿で応援に駆けつけてくれる。


しかも、話を聞けば、愛人旅行の実態を証言すればウユニ塩湖で愛を語ったレミゼに一矢報いるコトが出来ると逝う。


そこで、お屋敷にはビキニの代打(どうやらつぼみんらしい←)を立て、取るものもとりあえず(着るものも着ズ笑)教団に駆けつける…


ソレが、あの日に起こったコトの顛末(てんまつ)だ。


レミゼは、今は教団を追放となり横領で起訴されたが、さらに余罪も摘発される模様だ。

お陰様?で僕は、メジア大教祖はじめ教団関係者から何故だか一目置かれるようになる。


そして、傷心のリンカさんは、何とあの日とは違うビキニで実は今、僕の眼の前にいる。

もちろん、その横には同じく麗しきビキニ姿のミユリさんが、そしてつぼみんまでいる。


結局、ミユリさんのビキニを見損ねた僕のため?に、今夜はみんなでナイトプールに来ている。

実は、帝国ホテルのナイトプールってインスタ映えを狙う女子に人気のスポットなんだ。


僕と…あとリンカさんに誘われたショーさんは、女子達のリクエストに応じて防水パックに入れたスマホで撮影に大忙し。


他のビキニ女子に目移りでもしようものなら、忽ちプールから水鉄砲で狙撃される。

その度に僕とショーさんは、悲鳴を上げて大騒ぎさ(ホントは嬉しいクセしてね笑)。


「素晴らしい(ひと)だ」


あの日、メジア大教祖と交わした言葉を想い出す。


「ホントに素晴らしい(ひと)だ、ミユリさんは」


わかってるさ、そんなコト。

僕が、そう答えると、彼は心の底から残念そうな顔をする。


「明らかにもったいナイんだょ、君には」


だから、わかってるさ。

わかってルンだょ、そんなコト。



おしまい

今回は、アキバ発のスタートアップ、あるいは新興宗教団体などを舞台に、教祖や司祭、信徒のメイドカフェ店長にミュウの仲間のベテランメイドなどが登場しました。


今回からスマホ主体の執筆スタイルに大きく変更しています。文体などに影響が出ているでしょうか?


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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