表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

御徒町樹里シリーズ

イケメン妖怪ハンターリックの冒険リターンズ2

作者: 神村 律子

 リックはスケべな妖怪ハンターです。


 普段は某海道の某幌の商社に勤務する中間管理職に化けている猫又です。


 今日も今日とて、リックは美人幼妻の遊魔と妖怪退治の旅をしています。


 最近は、某お師匠様が天竺から持ち帰ったありがたいお経のおかげで、妖怪が随分少なくなり、リックは困っていました。


 空腹のリックは、遊魔に肩を借りて街道を歩いていました。


 すると、非常に賑やかな街に着きました。


「これだけ大勢人がいれば、妖怪が出るはずにゃん」


 まるで某進む党の代表みたいに何の根拠もなく、ペッポコ推理を展開するリックです。


「そうなんですかあ」


 しかし、リックが無条件で大好きというかなり病的なへきがある遊魔は笑顔全開です。


 街の中へと歩いていくと、どうやら、その街のおさを決める選挙をしているようでした。


「我ら塩梅あんばい組のお頭である像新ぞうしん様が長になれば、暮らしは豊かになり、街の治安もよくなります」


 塩梅組の組員の一人が、立候補者である像新を盛り立てるために嘘八百を並べています。


「違う!」


 公正中立な発言をしたはずの地の文に切れる組員です。


(何だか柄が悪そうにゃん)


 リックは身震いしてその前を通り過ぎました。


 すると今度は、別の組の人達が演説をしていました。演説をしているのは、そこそこご年配の女性です。


 ですから、そこそこ◯化粧です。


「うるさい!」


 先程まで穏やかな顔で演説していたその女性は、地の文の言葉を聞いて鬼の形相になりました。


「我が井狐毛いこけ組のお頭である狐狸湯こりゆ様が長になれば、言語明瞭なまつりごとを行います。決して、街を私物化致しません」


 地の文を睨みつけたのが、井狐毛組の狐狸湯という女性です。その隣にいた細身の男が、心にもない事を言って場を盛り上げようとしています。


「心にもない事とか言うな!」


 図星を突かれた男は嫌な汗をたくさん掻いて、地の文に切れました。


「あんた、ダメね。引っ込んでなさい」


 お頭にダメ出し(リセット)されてしまった細身の男はシュンとして下がりました。


(こっちも胡散臭いにゃん)


 リックは逃げるように井狐毛組の演説から離れました。


「遊魔、お腹がペコペコにゃん。食堂を探して欲しいにゃん」


 リックは遊魔を見ずに別の方を見て言いました。


「そうなんですかあ。では、遊魔が探して参ります、お前様」


 遊魔はリックの悪巧みには気づかずに去ってしまいました。


(ムフフ……。久しぶりにおねいさんのいる店を見つけたにゃん)


 リックはニヤリとして、遊魔が去ったのとは反対方向に歩き出し、脇道へと入りました。


 その先には、おねいさんがたくさんいるという看板を掲げた店がありました。


「おねいさーーん!」


 あまりにも嬉しくなり、つい大声で叫んでしまうリックです。


「お前様!」


 その途端に遊魔が駆け寄り、リックの後頭部に見事な真空飛び膝蹴りを決めました。


「むぎゃ!」


 リックは顔から地面にめり込み、気絶しました。


 


 しばらくして、リックが目を覚ますと、そこは食堂の中でした。更にハッとして自分の身体を見ると、縄で雁字搦めに椅子に縛り付けられていました。


「お前様、よい食堂がありましたよ」


 笑顔全開なのに目が全く笑っていない遊魔が言いました。


「そうなんですか」


 思わず某お師匠様の口癖で応じてしまうリックです。


 その後、リックは遊魔を褒め倒して、何とか縄を解いてもらい、久しぶりに食事にありつけました。


「はっ!」


 お腹が膨れる程食べてしまってから、自分達が無一文だという事を思い出すリックです。


「大事ありませぬ、お前様。このお店のご主人に妖怪退治を頼まれました。お食事はその報酬の代わりです」


 今度は完璧な笑顔全開で告げる遊魔です。


「そうなんですか」


 顔を引きつらせて応じるリックです。


 リックと遊魔は、食堂の主人に事情を聞きました。


「今、この街は街の長を決める選挙で賑わっていますが、塩梅組も井狐毛組も、妖怪の集まりです。どうか、退治してください」


「なるほど」


 事情を聞いても、リックは乗り気になれません。おねいさんのいる店が気になっているからです。


「ち、違うにゃん!」


 深層心理の奥底を見抜いた地の文に動揺して切れるリックです。


「実は、あの二つの組は争っているように見せかけているだけで、実は裏では繋がっているのです。このままでは、街は妖怪の棲家になってしまいます。どうか、お助けください」


 リックは食堂の主人に縋りつかれましたが、やる気が出ません。おねいさんの店が気になるからです。


「お前様」


 遊魔がリックに詰め寄りました。すると、


「どうかお願いです、あいつらをやっつけてください」


 そこに食堂の給仕の女の子が現れました。歳の頃は二十代半ば。リックのストライクゾーンど真ん中です。


「そのの父親が、前の長なのです。証拠はありませんが、あいつらに殺されたんですよ」


 リックと女の子の間に割って入って、食堂の主人が解説しました。


「わかったにゃん。僕も、一宿一飯の恩義があるにゃん」


 リックは主人を押しのけて女の子に微笑みました。


「ありがとうございます!」


 女の子は遊魔に抱きつき、リックは主人に抱きつかれました。


(やる気がなくなりそうにゃん)


 心の中で嘆くリックです。


 


 そして、その夜です。


 リックと遊魔は、食堂の主人と給仕の女の子に教えられた場所へと向かいました。


 そこは、塩梅組のお頭である像新の邸でした。


 リックと遊魔は高い塀を飛び越え、屋根へと登り、像新がいると思われる奥の部屋へと近づきました。


「この街の連中はバカ揃いでやり易い。私と貴女のどちらが長になっても、人間達は餌になる定めだ」


 像新がニヤリとしていい、狐狸湯の持つ盃に酒を注ぎます。


「全くさ。人間なんて、所詮は私ら妖怪より下等な生き物なのさ。うまい話にはすぐに引っかかる」


 狐狸湯は盃をテーブルに置き、像新の盃に酒を注ぎました。


「聞いちゃったにゃん。やっぱり、お前ら、妖怪だったにゃんね」


 リックと遊魔が部屋の前にある中庭にひらりと降り立ちました。


「お前らも妖怪だろうが!」


 像新が盃を投げ出してリックに怒鳴りました。


「僕達は妖怪じゃないにゃん。妖怪ハンターだにゃん」


 リックは精一杯気取って言いました。


「たった二人で乗り込んでくるとは、相当な阿呆だね。やっておしまい!」


 狐狸湯が手下達に命じました。リックと遊魔はたちまち取り囲まれました。


「遊魔、頼むにゃん!」


 リックは遊魔と背中合わせになりました。


「お任せください、お前様」


 言うが早いか、遊魔はあっという間に十人程の手下を倒してしまいました。


「おのれ、やりおるな!」


 像新が言い、周囲の手下達を捕まえると、丸呑みしていきます。


「うへえ!」


 手下達は逃げる事も出来ずに像新に食われました。


(恐ろしい奴にゃん)


 リックは像新から飛び退きました。


「我らに刃向かった事、地獄で後悔するがいい!」


 巨大化した像新は顔もおぞましくなり、舌が二枚になりました。


「僕は善良だから、地獄には行かないにゃん!」


 ビビりながらも言い返すリックです。


「お前様!」


 遊魔がリックの隣に来ました。狐狸湯を見ると、像新と同じく、手下を喰らいつくして巨大化しています。


 顔は厚い化粧が剥がれ落ちて、正体がバレていました。


「うるさい!」


 再び化粧の事に触れた地の文に切れる狐狸湯です。


(やばいにゃん。このままではやられてしまうかもにゃん)


 リックは遊魔を囮にして逃げ出そうと思いました。


「そんな事、思ってないにゃん!」


 少しだけ真相を突いていた地の文の名推理に動揺して切れるリックです。


 その時でした。無数の火矢が暗い夜空を飛び、次々に屋根や柱や壁に刺さり、燃やし始めました。


「どういう事にゃん?」


 それを見て驚いたのは、リックだけではありません。


「人間共め、我らをたばかったのか!?」


 火矢を素手で引き抜きながら、像新が歯軋りをしました。


「遊魔、逃げるにゃん!」


 リックは遊魔を抱きかかえて、得意の幻術を使い、その場から飛び去りました。


「人間共め、許さぬ! 何もかも焼き尽くしてやるぞ!」


 像新と狐狸湯は激怒して、火矢を投げ返し、周囲の民家を燃やしました。すると今度は塀に燃え盛る材木を積み込んだ荷車が激突しました。門が崩れて火が燃え広がり、像新の邸は業火に包まれました。


「こうなったら、皆道連れだ!」


 像新と狐狸湯は炎に焼かれながらも燃えている柱や板を外へと投げ、火事を拡大しました。


 火矢を放っていた人間達も、妖怪の反撃に驚き、逃げ出しました。しかし、炎はそれ以上の速さで広がり、街は全て灰燼に帰してしまいました。


 リックと遊魔は街から遠く離れた小高い丘の上で、それを見ていました。


「一番怖いのは人間にゃん。僕らは妖怪で良かったにゃん」


 遊魔の肩を抱き寄せて呟くリックです。


「そうなんですかあ」


 遊魔は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ファンタジーなのに世界観が「座頭市」や「木枯らし紋次郎」だという ww しかも主人公ほとんど活躍してないし(ι´Д`) このシリーズの真の主人公は「地の文」ではないかともっぱらの評判です。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ