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幻想之巻 動き始めるなにか

更新しました。しかしここは編集上難しかったので幻想之巻(第6.5之巻)を導入しました。最後まで読んでいただけると幸いです。藤波真夏

ミヤコはゆっくりと時が流れていく。

 時の幼帝である松風は多くの供を連れて牛車に乗っていた。松風初めての出張の仕事である。いつも御所で居座っていてはいけない、と昔から大君自ら出向くことになっている。

 元服前の鬟結いのまま牛車に乗る松風。御簾の隙間から外を見る。風景はミヤコとはちょっと違う。

 耳に入るのは御所の中ではなかなか聞くことができない音たち。小鳥のさえずり、風のうねり、草木の揺れる音。

「姉上さま・・・」

 松風の頭の中にあるのは姉の潮のこと。潮は生まれつき体が弱く、御所の奥に引きこもっている。しかし松風の出立数日前に原因不明の発作を起こし、倒れてしまった。

 松風は心配で行きたくない、と渋るが潮はそれを絶対に許さなかった。

「いいですか、松風。あなたは大君なのですよ。ちゃんと勤めを果たされませ。私は大丈夫です。松風が戻るころには元気に出迎えておけるようにします」

 潮の言葉を胸に松風は幼いながら頑張ろうと心に決めた。

 松風はミヤコ周辺の村や集落を見物し様々なことを耳にして目に焼き付けた。そして各国の国守の館に宿泊した。それを一週間続ける。

 その夜のこと。

 国守の屋敷に一息ついた松風一行。そのまま一息ついた。松風の部屋には外廊下が裏にある森へとつながっている。森にはアヤカシが住むということを松風は知っていたが、住んでいるとは限らない。

 畳の上に仰向けになり顔を森の方へ向ける。先には闇に包まれた森が広がる。

「僕がアヤカシならな・・・、こんなに苦しい思いしなくてもいいのに・・・」

 曇った顔をしてつぶやく。そのまま目を閉じた。



 一方、森の中。

 アヤカシの長が焚き火を囲んでいた。その周囲にはアヤカシの年長者たちが集結する。獣の耳が生えたアヤカシ、クマのアヤカシ、大量の髑髏を持ったアヤカシ。

「どうじゃ、みなの様子は」

 長が問いかけると年長者たちは様々なことを言う。

「何事もなく平和です。人間たちが入ってきた形跡はありません」

「一年に子供が十人この世に生を授かりました。我らの宝が増えて嬉しゅうございます・・・」

 口々に伝えられるのは嬉しい話題ばかり。これには長も頬を緩ませた。

「長のところは?」

 年長者に聞かれると長は顔を曇らせた。何かあったのか、と聞くと長は静かに報告をした。

「人間が森の中に入った。そこまでひどいというわけではなかったが、ある者が人間と接触をしてしまったんじゃ」

「ある者とは?」

「十六夜じゃ」

 十六夜という言葉を聞いて凍りついた。人間に瓜二つの十六夜がまた何かをやらかした、と年長者たちは思い込む。

「最初は十六夜も殺気むき出しだったが落ち着いておる。しかし、人間と関わりすぎてこのところ森を抜け出しておる」

「やはりあの女はアヤカシに災いをもたらします。今すぐにでも殺して」

「バカなことをいうでない。彼女はアヤカシだ。かつて犯した罪の元凶は十六夜ではなく、我々だ。それを忘れてはならぬ。さらにはいつ人間が攻めてくるかわからん」

 長は静かに息をはく。さらに報告はないか、と聞くと一人の年長者が口を開く。

「今、人間の国の長にあたる大君が今、視察に来てるんだと。このままいくと長の近くにある村にも来るかと思われます」

 その話か、と長は頷いた。長にも松風らが視察に来ることを知らされていた。

「カマイタチの坊主に偵察に行かせたらそれをつかんできた。何もアヤカシではなく村の様子の視察だそうじゃ。警戒すべきではない」

 長は風神丸から聞いた情報を公にした。なんだと、と口々に言いだす。

「しかし用心することを忘れるでない」

 長の一言で話し合いは終結した。年長者たちは長に礼をすると自分の住処へ戻っていく。長も立ち上がり戻ろうとする。森の木々の隙間から入るのは人間たちが住む生活の灯り。暖かく照らす松明の炎。

 ここの村にも確か村の首領がいたはず。もしかしたら国の長が来るかもしれん。大事が起きなければいいのじゃが・・・。

 長はそう思い足を進めた。



 森の中にある大きな岩に腰掛け、十六夜は横笛を吹いている。その音色に引き寄せられ、森の精霊であるアヤカシ木霊がやってくる。

 色とりどりの着物に包まれた小さな子供のアヤカシばかり。木霊たちは十六夜の笛の音色に興味津々。

「お水さま! お水さま! また笛を吹いてください!」

「もっと聞かせてください!」

 十六夜が水を操るアヤカシであることから子供たちは彼女を「お水さま」と呼んでいる。いつもなら嫌だ、と突き返す十六夜だったが、いいよと一曲奏でる。美しい笛の調べに木霊たちはうっとりしていた。

 一曲終わると笛の音色が子守唄になったのか、木霊たちは眠ってしまっていた。小さな寝息を立てて十六夜に寄りかかる。

 十六夜は自分が変わっていることに薄々自覚をし始めていた。今までは変わっていると考えていても現実から目を逸らし、否定的に生きてきた。十六夜がここまでになったのは子供の無邪気さのおかげかそれとも・・・。

 十六夜が息を一息つくと、

「十六夜!」

 聞き覚えのある声がした。その声に十六夜は激しく反応してしまう。木霊たちを静かに岩の上に寝かせて自分は岩から降りて地上に足をつく。

「陽!」

 大声で叫び周囲のことはお構いなしに名前を呼んで探す。それもかなり必死に。

 しかし陽は見つからなかった。夢幻を見ているような気がしてならない。十六夜は自分の胸を押さえ、問いかける。

「どうしてしまったんだろう。胸の奥が苦しい・・・。私はどうしてしまったんだ?」

 そしてヒスイの首飾りにも触れる。するとかなり熱を持っていることに気づく。自分の体温が原因なのだろうと思うが、ヒスイは熱を帯び何かを訴えかけているように見える。

 十六夜は木霊たちが寝ている岩に背を預けた。しばらくすると緑色の目から透明の雫が一つ、また一つと垂れる。

 十六夜が涙を流した。

 その瞬間十六夜は全てが何かわかった気がした。

 冷血な永遠の氷で凍りついた十六夜の心を太陽の暖かさを持つ陽によって溶け始め、ついに解放されたのだと。ヒスイの首飾りを強く握りしめ、うつむく。


「陽・・・貴方がとても愛おしい・・・」


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。感想などありましたらよろしくお願いします。

藤波真夏

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