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第四之巻 ヤサシイココロ

ちょっと気の迷いなのか和風なのにサブタイトルがカタカナになってしまいました。深くは追求しないでくださいwww 藤波真夏

陽はいつものように畑を耕していた。すると村が騒々しい。

「何事だ?」

 人だかりには達兵衛夫婦もやってきていた。そこで陽が見たのは血まみれで息絶えていたアヤカシたちだった。背には刀傷、かなり惨たらしく殺されたらしいと見てとれた。

 血の匂いが周囲に蔓延する。錆びたような匂いに陽も顔を歪ませる。

「アヤカシの死体が見つかったと聞いた!」

 後ろから声がした。やってきたのは丹波だった。馬に乗り、急いでやってきてくれたようだ。馬から降りて丹波もアヤカシの惨殺体に顔を歪ませた。

「これは酷い・・・。なんて殺し方だ・・・。丁重に葬ってやらねばな・・・」

 丹波は村の男たちに命じてアヤカシの死体を運び、丁重に葬った。

 その様子を見ていた陽は複雑な気持ちになった。何しろアヤカシと言葉を交わしたことがあるからだ。アヤカシたちの埋葬後、陽は一人帰っていく。

 陽の脳裏にふとよぎった言葉ーーー。

 支配するためならアヤカシを簡単に殺す! 人間とは野蛮な生き物だ・・・。人間など滅べばいいと思うほどに憎い・・・!

 十六夜が吐いた人間に対する憎悪の言葉。

 十六夜は生きている間散々な光景を目の当たりにしてきたのだろう、と陽も悟った。

「あいつは人間とアヤカシが共に暮らすっていうことを望んでないのか? 互いに干渉もせずに生きてきたら・・・心は歪んでしまう・・・」

 陽は十六夜が触れた手を見つめる。太陽が彼の背中を暖める。すると風がビューと吹く。陽の髪を揺らした。



 再び夜になった。風はやんだものの少し肌寒い。

 月明かりが綺麗で道も少しばかり分かる。陽は明日に売り物をするため準備をしていた。昼間通った道を蝋燭の光で照らしながら歩く。肌寒くて着物を着込むがあまり暖をとれているとは言えない。

 昼間に発見されたアヤカシの惨殺体を埋葬した墓地に通りかかる。すると月明かりに照らされて人影が見える。

 アヤカシが埋葬された場所に立ちつくす白い影。

「・・・十六夜?」

 陽が思わず声に出してしまった。それに気がついたのか十六夜が振り返る。月明かりに緑色の瞳が映えた。

「お前・・・。人間に殺されたアヤカシたちに冥福を捧げていたところだ。こんな夜更けに何をしている」

 十六夜は陽に近づいた。蝋燭の炎が十六夜を捉えた。

「人が憎いんじゃないのか?」

「確かに憎い。だけど今、お前を殺したところでこいつらの思いは報われない。それもお前はアヤカシを殺していない。お前の心がそう訴えているからな」

 十六夜はそう言うと瞳を緩ませた。

 憎しみに歪む姿だけを見ていた陽にとって十六夜のこのような姿は初めて見た。

「くしゅん!」

 十六夜がくしゃみをした。アヤカシなのに人間おyらしい部分を見せる。それを見た陽は羽織っていた着物を十六夜の肩にかけた。何事かと十六夜は身を固くすると、

「寒くねえか?」

「それを言うならお前の…陽の方が寒そうだ…。人間なんかの慈悲なんか受けたくない」

 十六夜が陽の手を振り払う。陽はおおっ、と身を引くも十六夜に負けじと着物を着せようとする。

「好意や親切は素直に受け取る、これ礼儀だぞ」

 おせっかい野郎め、と十六夜はそっぽを向いた。視線を落とすと十六夜の目に寒さで荒れてしまった陽の足が見える。

 藁で編んだ草鞋に普通布を巻いて寒さ対策をするものだが、陽はそれを全くせず素足のまま草鞋を履いていた。

「好意や親切を素直に受け取ることが人間の礼儀だというなら、これも受け取ってもらうぞ」

 十六夜は指を二本に揃えて自分の唇にあてた。そして陽の足元に当てると、変幻自在に形を変えてうねる水が現れ陽の足にまとわりついた。

 冷たい、と思ったが冷たくない。むしろ温かい。熱湯だとしても湯気が見えない。一体どういう事なのだろう、と陽が考えていると、

「私は水を自由に操れる、水のアヤカシだ。これはお湯ではない。水が布の役割を果たしているだけのことだ」

 冷えていた足がだんだんと温かくなってくる。

「すごい、これが十六夜の力なのか・・・」

「家につけばじきに自然に帰る」

 十六夜はそのまま森へ帰ろうとする。すると陽はとっさにちょっと待って! と止める。十六夜は振り返る。

「え?」

「その・・・少し話そう。なんか帰るのもちょっと・・・」

 陽の態度に疑問を抱きつつ、十六夜と陽はアヤカシの住まう森の手前にある大岩に座った。陽は十六夜の顔を真っ直ぐに見たことがない。いつも頭に被った薄い布に阻まれる。

 しばらくの沈黙が続く。それが煩わしくなったのか陽が口火を切る。

「カマイタチのヤツ、そう風神丸! あいつと友達になったんだ。風神丸はすごく親しみやすい!」

「やつは変態だからな」

「変態?」

「アヤカシの中では人間に親しみを込めるなんて変態行為に近い。変わっているって思われる」

 アヤカシ界の中では変態呼ばわりされる風神丸を初めて知る陽。人間とアヤカシに込められた溝はそう簡単に埋まるものではないと思った。

「何故私は今、お前と話しているんだ・・・。あんなに人間が嫌いだったのに・・・」

 十六夜が呟いた。十六夜の手には首飾りの緑色の石が握られていた。陽が十六夜の顔を覗き込んだ。

「自覚なしか・・・。心を許してるってことなんじゃねえの?」

 あり得ぬ・・・、と吐き捨てる十六夜。しかしそれに待ったをかけて陽が言う。

「じゃあ何でこうやって話している? 今の状況がその証拠だよ」

 陽に言われて十六夜は空を見上げる。無数の星の光が儚い光を出し続けている。そのきらめきが十六夜の心をゆっくりとまた解かしていく。

 十六夜はふと頭に被っていた布を取る。

「・・・!」

 陽は言葉を失う。見たのは艶がかった漆黒の黒髪、明るい色の紐で編まれた花型の髪飾りーーー。外見を見れば人間とそこまで変わらない。むしろアヤカシと言われなければ人間として生きていけるような気がしてならない。

「私はこの通り、アヤカシなのに人間にひどい似ている。それが嫌で嫌でたまらなかった・・・。しかもこの目の色だ・・・。最初は人間と共にと思った。だけど受け入れてくれなかった。頭から布を被るようになったのはその時から・・・」

 十六夜は襟を正した。

「陽・・・どうした」

 陽はハッと我に返って十六夜に向き返った。

「ちゃんと真正面から見れた。十六夜はそんな顔をしていたんだ」

「こんな顔で悪かったな」

 十六夜が不機嫌そうに言う。陽は少し顔を赤らめていた。十六夜はその場から立ち上がって陽を見ながら言う。

「人間とアヤカシ、互いに関わりを持つことは禁忌とされているのに、何故私たちはこうして隣に座って話しているのだろうか・・・」

「分からねえ。でも俺もお前も生きてるじゃねえか。人間もアヤカシも生きてることに変わりないんだ。俺たちのこれがあるべき姿なんじゃねえかな、って思うんだ」

「あるべき姿・・・」

 十六夜が呟いた。すると肩にかけていた陽の着物を脱ぐと陽の頭にバッと乗せた。

「うわっ?!」

「着物は返す。私は森へ帰る。お前も家へ帰れ」

 十六夜が森へ足を進める。

 相手は人間。これ以上関わりを持てば禁忌を破ることになる・・・。人間なんて変な生き物でしかない・・・。

 そう思いながら足早に行こうとすると陽に呼び止められた。振り返り髪がうねる。陽が真っ直ぐな視線を十六夜に向けてくる。

「また話そうぜ!」

 予想外の言葉に十六夜は戸惑いを覚えるもそのまま行ってしまう。陽は十六夜の姿が森の中へ消えたことを確認すると家へ戻っていく。

 足にまとわりついた水が少し冷たく感じた。機能はちゃんと果たしているはずである。陽はまた一人で家へ帰っていった。



 森の中を歩く十六夜はふと足を止める。背後に感じる違和感に十六夜は振り返らず、唇に指が触れた。指に水の力が溜まる。水が刃と化して十六夜の背後に発射する。

「っ!」

 息を絞るような声が聞こえた。振り返ると、狐が一匹だけ。

「その姿になっても分かるぞ、破廉恥狐」

 するとボン! と音がして胸元が大胆にあいた着物を身にまとった九十九が現れた。

「あんさん、破廉恥狐だなんて人聞きの悪いこと云わんで」

「言葉通りだと思うが」

 九十九はハアッと息をついた。九十九の後ろから長が登場する。それを見た十六夜は驚いてその場に固まった。

「十六夜・・・、お前、己が何をしているのか分かっているのか?」

 心配そうな顔で長がこちらをみつめてくる。十六夜は長の前へ行くと尊敬と敬愛の姿勢を取り、こう言った。

「分からない。この気持ちは一体何なのか・・・、あいつの手は暖かかった」

 十六夜は自分の手を撫でた。九十九は狐の尻尾をヒュッと動かすと、十六夜に近づいた。九十九を毛嫌いしているのか、十六夜は睨みつける。

「そんな敵を見るような目で見ないでおくんなまし。うちやて、アヤカシ。長はあんさんのこと心配して云うとるんよ。素直になりんし」

 十六夜は長に頭をさげると、九十九の言葉を無視して森の奥へ帰ってしまった。九十九は真っ赤な紅を引いた唇を少し歪ませた。

「長、ご身分に泥を塗ってしまい、申し訳ありんせん・・・」

「九十九、気にするな。悪役を演じてもらってすまぬな。十六夜は素直になれんだけなのだ」

 長は九十九と共に森へ帰っていく。

「大罪を犯した我らアヤカシを人間が生かしておくとは到底思えん。なんとかして生きながらえねば・・・」


最後まで読んでいただきありがとうございました。次の更新をお待ちください。藤波真夏

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