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第廿三之巻 太陽の向かう先

更新しました!ついに!最終話となりました!! ここまで長かったです! 読んでくれたら幸いです!藤波真夏

数年後---。

 松風が無事大君に返り咲き、浦波王の裁きが言い渡された。

 刑罰は生涯幽閉。

 浦波王は静かな山荘で一生をカゴの中の鳥として生きることを強いられた。


 丹波の屋敷では嬉しい声が上がっていた。

「小百合にそっくりね。可愛らしい」

 小百合が抱いているのは赤子。難しいといわれていた鎌清と小百合に待望の子供が誕生したのだ。子供のいない雅姫はわが子の誕生のごとく喜んでいた。鎌清は小百合の出産にそわそわしていたがわが子の姿を見た瞬間、すべてが吹っ切れた。

「まさかこうなるとは思いもよりませんでした」

「きっと貴女に神が人間の体を与えてくれたのよ」

「鎌清も言ってたな。現実になるとは・・・」

 小百合の腕に抱かれた赤子は大あくびをしてまた眠った。数年前に浦波王によって画策されたアヤカシ殲滅計画で多くの人が亡くなった。しかし数年後に多くの新しい命が誕生した。

 そしてアヤカシたちは森での生活を再開した。アヤカシも多くの犠牲を払った。しかし人間とよく付き合っていこうという意識が生まれ、あの昔から言われていた戒めの言葉が記憶から薄れていくことは時間の問題だろう。

 ミヤコの歴史書『アヤカシ草子』に刻まれた大君一族の大昔に起こした大罪を松風はあえて公開した。それはアヤカシにも伝わり松風は人々からの多くの信頼を得た。

「ねみぃ」

 風神丸は相変わらず森と人間の住む地域を行ったり来たりしていた。風神丸の持ってくる土産話はアヤカシの森では人気のものと化していた。

 一方の陽は。

 陽は立派な若武者になっていた。アヤカシ殲滅計画阻止の戦いでの功績を評価され、丹波の家臣として取り立てられた。一般人からの異例抜擢だった。これは彼の魂に刻まれたものなんかではない。彼自身で決めた道。

 今まで村に家で暮らしていたが、現在は丹波の屋敷内の部屋に住まいを移し暮らしている。毎日を鎌清指導の下立派な武士になるために努力をしている。彼の首には常にあのヒスイの首飾りがある。いつも緑色の光が絶えない。

 そして魂に刻まれた運命に抗い続けることを決め、武士として得る苗字をもらわなかった。苗字はいらないと陽自身が決めたのである。

「丹波家吉が家臣、陽ただいま戻りました」

 陽の言葉が丹波の屋敷に響き渡った。視線は立派になった男を物語っていた。彼は今でも十六夜を忘れたことはない。夜になり夜空に輝く月を見上げて言う。

「十六夜、聞こえるか? 俺の声が・・・」

 夜空に掌をかざした。月の光が陽の顔に影を作る。これは二人をつないだ言葉。声が聞こえたとき二人は手を重ねることができる。


 十六夜、見てるか?

 俺は武士になったよ。あの戦いの功績が認められたんだ。悲しみが癒えたわけじゃないけど、俺は少し後悔してる。でも今更取り返すことはできないのはわかってる。

 俺は運命に抗い続ける---。それが俺のやるべきこと、生きていく上で胸に決めておくことだ。

 今は逢えないけど、しばらくの別れだ---。今、月にいるんだろ・・・、逢いたい・・・。

 長い間待つことになるけど、気長に待ってくれ。

 俺の中で一番大切で一番儚いたった一人の・・・、お前へ---。


 夜空を見ながら涙を流す若者が一人。

 それに呼応するように光るヒスイ。緑色の光が陽の顔を儚く照らした。


 陽は丹波の命令で村からミヤコへの行き来を命じられた。昔生計を稼ぐためにミヤコへ向かう道を歩いているがとても懐かしい。右には村、左には森が---。

 一歩また歩き出す。時間は待ってくれない。一つに結われた髪の毛の束が風に揺れる。カサカサと揺れる木の葉と共にアヤカシの声は聞こえてこない。

 え?

 陽の耳に聞こえてきたのは笛の音。すると突風が陽を吹き過ぎる。地面に落ちた木の葉と花弁が空中を舞った。思わず振り返ると笛の音はもう聞こえなかった。

 陽はフッと笑い、道を急いだ。

 陽の聞いた笛の音。あれは幻聴なのではなかった。

 森の奥深く、光もあまり届かない木々の隙間をすり抜けてそれはある。大きな岩が何個も積み重なったところにいる白い影。笛の主。ゆっくりと振り返る。

 布が阻み顔は分からない---。

 白い影が一体何だったのか、それは誰もしらない。

 太陽の若者が絶望に負けない希望を持ち、道をひた走る足音だけが聞こえるだけだった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。すこし裏話をすると、これは丸一年かけて制作したものですが私の家からすこし行くと森や林など木々が生い茂っている場所が所々ありました。そこが夜になるととても一人じゃ歩けないほど暗くて、まるでお化け(アヤカシ)が出てくるんじゃないか? と思ったのがこの物語の元ネタです。まさかここまで話を膨らませてしまうとは思いもしませんでした。

長話失礼いたしました。

さて、最後にはなりますが、最後まで読んでくださりありがとうございました。感想、評価等よろしくお願いします。

さらに、アヤカシ草子の完全スピンオフ『黒と銀の交わり』も随時更新していきますのでそちらの方もよろしくお願いします! そちらはこの本編を読破したらお読みになることをお勧めします。

ありがとうございましたああああ!!!!! 藤波真夏

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