第拾五之巻 それぞれの決意
更新しました。最後まで読んでくれたら幸いです。藤波真夏
ヒノモトを襲っていた水不足は解消の傾向に向かった。陽はことのあらましを丹波らに深く説明。そして十六夜を屋敷で匿うことに決定した。
そしてイタチの姿の風神丸に再会することができた。
「風神丸?」
「十六夜か?! 封印が解けたんか?!」
「まあな」
「まあ無事でなによりや!」
陽も喜んでいたがそれと同じくらい風神丸も喜んでいた。陽と出会う前も十六夜のことを気にしていた風神丸らしい言葉だった。
そして松風にも挨拶に向かう。アヤカシが嫌いではないことを知っていた松風に陽が合わせる。十六夜に驚くも少し心が揺れていた。
「君が陽の言っていた・・・」
松風は少し元気のない声で言った。あのカルラの言葉が胸に突き刺さっているのだ。その様子を見た十六夜が松風に進言した。
「松風さま、私が憎い、怖いと思ってはいるか?」
「いや」
「それは今の私だ。昔は人間が憎かった。殺したいほどに。なぜだかはわからないが今は殺したいほど憎くはないんだ。松風さま、私も何か力になる」
十六夜の緑色の瞳に吸い込まれそうだ。松風は涙で溢れそうになる。一人また一人と仲間が増える。
十六夜の心は完全に人間の心に変わりつつあった。このまま陽と一緒にいられたら、と心密かに願った。
一方ミヤコでは。
「戦の準備、整えましてございます」
ついに戦の準備が整った。浦波王が指揮をとる。多くの兵を前に浦波王が口を開いた。
「よいか。この世を統べるのは人間じゃ。アヤカシという野蛮な奴らに天罰を下そうではないか!」
兵士たちは雄叫びをあげた。兵士たちは各地の森へと進軍しアヤカシたちを惨殺していった。それが子供のアヤカシである木霊でさえも。
森の至るところで戦火に包まれ、親の亡骸を見て泣き叫ぶ子供のアヤカシの声が聞こえる。あたりはアヤカシの血がべっとりと付着しアヤカシの亡骸が死臭をはなつ。
目を覆いたくなるような光景があった。
浦波王率いる殲滅軍は着々と確実にアヤカシを殺しながら陽たちの住む村に接近していた。
軍は一度停止し休憩に入る。
浦波王はミヤコに鎮座し報告を待った。ある時、公家の一人に質問をされた。
「浦波さま、ふと思ったのですがなぜこの計画を思いつきになられたのですか?」
「愚問だな」
浦波王は笑った。そして浦波王が部屋から一冊の草子を持ってきてみせる。
「これは?」
「これはヒノモトの歴史が書かれた草子。名称は『アヤカシ草子』。その中に我が祖先の行ったことやその時に起きた大きな出来事をまとめたものだ」
古い紙に書かれた古の記憶、そこにはあの有名な龍神退治も書かれている。
「この草子になにか?」
浦波王は静かに話し始めた。
この草子にはかつてアヤカシが犯した罪が事細かに記されている。人間に復讐をしようと濁流を発生させ、神隠しを起こす。多くの人間を殺した罪を今、この私が正す。それに人間がこの世を制覇するためには多少の犠牲はつきものだ。
アヤカシは滅せられるべき存在。この世から殲滅しさらに人間も殲滅しこのヒノモトを一掃するのだ。
浦波王が持つ草子のそばに水色の光を放つ光の玉。その輝きを浦波王は歪んだ表情で見ていた。
「時は満ちたぞ。あとはこれの使いようだな」
光の玉が一体何を指すのか、それは公家にもわからない深い闇の中にあった。
そして浦波王の兵は松風がかつて隠れ住んでいた別荘にも及んだ。しかしすでに松風は脱出済み。もぬけのからになった別荘をくまなく捜索した。
「ご報告いたします! 松風さま、ご不在にて!」
「何? 潮はどうした」
「内親王さまも見当たりません!」
浦波王は逃げた、という結論にたどり着こうとしていた。しかしミヤコでは罪人扱いの松風に手を差し伸べるとは到底思えなかった。さらに報告がやってくる。
「報告でございます! 別荘にて血の付着した着物を発見いたしました」
「それを見せろ」
浦波王のところに持って来させられたのは女物の着物と少年が着る小さい着物。どちらも血が付着しており、量から見るともう死んでいるのは明らかだった。これを察した浦波王は狂ったように笑い出す。
「死んだか・・・。松風は死んだ! 探す手間が省けた。もう私に刃を向けようとする奴はいなくなったということだ! ははははは・・・」
笑って血の付いた着物を眺める。気味の悪い光景だ。
浦波王の狂いは止まらない。勢いに任せてヒノモトを一掃していった。
そしてその報告は丹波の屋敷にも伝えられた。
「何?! 朝廷の軍がアヤカシ人間問わず惨殺してるだと?」
「はい! しかもかなりの大軍です! 早く手を打たねば皆殺しです!」
さらに報告は続いた。その報告は丹波も決して聞きたくない報告だった。軍を率いているのは浦波王。浦波王こそがアヤカシ殲滅計画の黒幕だと。
それを聞いた丹波は悔しがる表情をし、怒りに任せて柱を叩く。
「なんということだ・・・。まさか浦波さまが関わっていたとは・・・」
「御前様」
雅姫が心配そうに見つめる。丹波はかなり悩んでいた。自分たちは人間。いくらなんでも手は出さないと思っていた。しかし無差別に殺戮をしているとなるとそうはいかない。丹波は頭をかかえた。
「雅、アヤカシ殲滅計画がついに俺たちのところにくるぞ」
「まことですか?」
「ああ。しかし、我らはどうすればいいのだ。松風さまが嫌がれば俺たちは降伏するしかない。おそらく松風さまは・・・」
雅姫は口を押さえて声を出せなかった。松風が見つかり最終的には処刑される運命にあるということにたどり着いたからだ。
「そんなことはございません」
奥から声がした。着物姿の小百合が部屋に入ってきた。
「それはどういうことです?」
雅姫が聞くと、小百合は二の腕を出す。そこには痛々しい傷跡があった。
「ここに向かう前、あるものを亡くなられた潮内親王さまと仕掛けたのです」
潮内親王さまがお亡くなりになる前日です。
私は潮さまと松風さまの着物を借り、自分の血を着物に付着させることで松風さまは死んだ、と朝廷側に思わせようとしたのです。
すると潮さまが通りかかり、私にもやらせてほしいとおっしゃったのです。ダメと言っても潮さまはただ言ったのです。
私は松風に生き延びてもらいたいのです、と。
私と潮さまは体に刃をつきたて、真っ赤な血を着物に。そして松風さまをお連れする際、それをあからさまの場所に置いてきたのです。
「内親王さまがそんな・・・」
「きっと今頃、軍は別荘であれを発見し死んだと思っているはずです。少しの時間稼ぎになります」
丹波は小百合の覚悟に賞賛して褒め称えた。そして雅姫はもうこんなことをしないで、と懇願した。
丹波はその足で松風の部屋に向かった。幼い少年にこの報告は酷なことだったが、真実を伝えた。
「父上が、仕組んだこと?」
「はい。申し上げにくいのですが」
「父上は、私がいらないと判断したのですか? 僕は父上の子じゃ」
「そういうわけではございません! 浦波さまはご子息に手をかけようとしている。これは立派な陰謀です! 私らは松風さまの判断に従うつもりです」
丹波は覚悟を決める。それと同じように鳥かご同然の御所から出て自然豊かな村へ落ち延び、そして秘密裏にアヤカシと出会い怖い思いもした。
しかしあの頃の松風とは違う。覚悟などとうに決まっていた。陽も松風の決断を固唾を飲んで見守った。
「松風は、朝廷軍に応戦する! アヤカシと村の人たちを守る!」
ついに決断を下した。丹波はそれに従い頭を下げた。陽も頭をさげる。松風の横顔は幼いところを残すもどこか大人の覚悟を見せるようになっていた。
丹波は屋敷の中に避難している村人たちの了承を得るため、中庭に集めた。
丹波は話し始める。
「すまない、今日は言わなきゃいけないことがある。今、朝廷軍がこちらに進軍しているという。目的はアヤカシ殲滅計画の遂行。そしてそれに乗じて人間も殺害するという殺戮計画だ」
村人たちからはざわざわと喋り声が聞こえる。無理もない。そのまま話を続ける。
「今、ここには松風さまをお匿いしている。松風さまが直接采配を下した」
すると丹波の後ろから松風が登場する。大君の血を引く松風の気迫に村人たちも身が引き締まった。
「今わけあって丹波殿のところに匿ってもらっている。今、この地に脅威が訪れようとしている。アヤカシと人間をたくさん殺すのです。私はずっと考えていた。私は父の考えに異を唱え、抵抗と反乱を起こすことを宣言します! 私はアヤカシも人間も失いたくないのです!」
松風はそういうと村人たちは囁き始める。中にはアヤカシをあまりよしとしない人も大勢いる。そう簡単に上手くいかない。松風は胸が張り裂けそうだった。何も言い出せないでいると、
「俺は戦います」
はじのほうで声がしてみるとそこには陽がいた。陽の肩には風神丸。そしてそれを部屋の隙間から覗く十六夜。
「もしかした罪はお互いにあるのだと思います。でも、理不尽に殺すなんて絶対にあってはならないんです! 僕には守りたい人がいる、僕には助けたい人たちがいる、恩返しをしなきゃいけない人がいる。俺は自分の運命から逃げるのはもう嫌なんです! お願いします!」
陽は深々と頭を下げた。村人たちは黙り込んだ。さらに、
「お願いします!」
なんと松風が頭を下げたのだ。大君が頭をさげるとは前代未聞のこと。村人たちは動揺してしまう。
村人たちは一人また一人と拍手をした。その顔は笑顔と同じく覚悟を見せようとするものだった。ありがとうございます! と二人揃って挨拶をした。
「陽に言われたら仕方がないじゃないか!」
村人たちは陽と松風の賢明さに心うたれたのだ。これを機に丹波らは朝廷に異を唱える反乱軍となった。
それが終わった時、陽は鎌清の部屋にいた。
「何かご用ですか?」
「俺に剣術を教えてもらいたいんです」
「え?」
「俺は自分のやることを見つけたんです。お願いします!」
鎌清は意を決し陽の申し出を受けることにした。ここから陽の剣術上達の道が始まる。基本から始まりいろいろな流派を教え込まれた。剣術の天才、佐野鎌清にも思わず熱が入る。それに応える様に陽の上達はとても早かった。
その夜。陽が水浴びを終えて部屋に戻ると十六夜が月を見ていた。
「十六夜。どうした?」
「なんか懐かしさを覚えた。私たちが出会った時もこんな夜だったなと思ってな」
「まあ最悪の出会いだったけどな」
陽は笑った。その笑顔に十六夜の氷の心は溶けていったのだ。陽は十六夜の隣に座る。すると気配を察して十六夜はふと顔の熱さを感じる。心の内からこみ上げる感情。
「私はお前に言わなきゃいけないことがある。今はまだ言えない。いつか言う」
「ああ。俺もだ」
人間とアヤカシという禁忌を超えて二人は心を通い合わせた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。感想、評価等よろしくお願いします。藤波真夏




