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序章 幻の国ヒノモト

あまりにも長すぎると思いましたので、大幅な再編集をおこないました。

内容に変化はございません。サブタイトルがつき、かなり区切っています。

よろしくお願いします。藤波真夏 (2017年5月11日 更新)

 これは遠い遠い昔のお話。

 この地にはかつて「ヒノモト」と呼ばれる国が存在していた。ヒノモトではたくさんの人々が暮らしていた。畑を耕し、ものを作り、笑い合っていた。人間がこのヒノモトを支配していた。

 そんな人間達が営みをしている裏で人ならざる者たちがひっそりと暮らしていた。「アヤカシ」と呼ばれる種族だった。人間が支配している世の中に干渉しないよう森の奥深くで暮らしている。

 アヤカシとひとくくりで言っても数多くのアヤカシたちが森の中で暮らしている。それも人間達と同じようにーーー。

 二つの種族はお互いを干渉しないように過ごしていた。そのためお互いでは子どもたちに必ずこう言っている。

「森の奥深くに行ってはならない。行ったらアヤカシの怒りを買い、二度と戻ってこれない」

「この森の外へでてはいけない。行けば人間達にその身を引き裂かれ、魂は地獄に堕ちる」

 この言葉は絶対に破ってはいけないとして長い時間の中で言われ続けた。



 そう、あの青年が森へ足を踏み入れるまでは---。



 朝日が差し込み今日もヒノモトに朝がやってくる。その光は眠る人達の目を刺激して早く目を覚ませ、と急かす。

 橙色の着物の袖をまくり、青年が家屋の扉を開けて外へ出た。一人で伸びをし大あくびを一つ。

「今日もいい天気だ」

 青年のヨウは朝早くから仕事へ取り掛かる。陽は村一番の働き者であり、国司である丹波家吉からも信頼される青年だ。陽はクワを持ち、足早に畑へ向かう。

 陽は両親を早くに亡くした。兄弟もいなかったため、村の大人たちが育ててくれた。その恩に報いるために陽は毎日汗水をたらして働いている。

 陽の家の隣に住んでいる達兵衛タツベエも妻に尻を叩かれ飛び起き仕事へ向かう。その途中陽と目が合う。

「おじさん、おはようございます」

「陽、はやいなあ。よく起きられるなあ」

 達兵衛はあくびをしたのか目尻に涙が浮かんでいる。達兵衛も畑に辿り着き耕し始める。陽は今日も働く。太陽のしたセッセと働いた。

 働けば時間が過ぎるのも早く陽は達兵衛と共に昼食をとることになった。男同士でいると話が弾んだのか、話がそれることもしばしばあった。

「陽、知ってるか? 大君が御引退なされたらしいぞ」

「大君が? 何故にですか?」

「詳しいことは分からんが、丹波さまも首をかしげていた。大君は今も御健在であるからな」

 話はヒノモトを統べる王のことについてになった。ヒノモトの中央に朝廷と呼ばれる場所があり、そこには大君と呼ばれる王が鎮座し政治を行っている。

「大君が御引退したら次の大君は・・・」

「丹波さまは松風様ではないか、と言っていた。しかし、松風様はまだお若い。陽よりも遥に小さい。まだ十歳の子どもだ」

 新しい大君には引退した大君の子どもである松風なる者に譲られることになる。しかし、まだ幼いという噂がささやかれている。朝廷から遠い村では年はどれくらいか? という情報すら伝達が遅い。

「でも大君が決まってよかったですね。もし血生臭い争いとかになったら大変ですからね」

「そうだよなあ。でも今の大君はアヤカシ殲滅計画を考えているっていう話も聞いたぞ」

「アヤカシ・・・殲滅計画?」

 陽は小首を傾げた。アヤカシという言葉を聞いて驚く人間はいない。このヒノモトには人間とアヤカシが暮らしており、アヤカシは人間が寄りつかない深い森で暮らしている。

「新しい大君はアヤカシが嫌いなのか?」

 陽は子どもの頃にアヤカシの住む森に近づくな、と言われ続けていた為今までアヤカシに会ったことはない。

 別に人間に害は及んでいない。アヤカシは悪いことをしているわけではないのにどうして殲滅など・・・・・・。

 陽が考え事をしていると再び仕事を始めようと達兵衛が声をかけたのでそのままクワを持ち、畑へ戻った。

 仕事に戻り畑を耕し、種を植えて水を与えた。これを夏まで続ければ野菜が収穫できる。夜になって仕事を終えて家に帰る。

 太陽は沈み暗闇に包まれる。陽が家に帰っても灯り一つ付いていない。

「当たり前か・・・、俺一人暮らしだし・・・」

 陽は火打石で火を起こして藁に火を付けた。それを釜戸の中に放り込む。薪をどんどんくべ竹筒で息を何度も吹きつける。藁から始まった小さな火はたちまち轟々と燃え始めた。

 その火で玄米を炊き、その火を拝借して太い蝋燭を付ける。一瞬で家の中は温かい光で満ち溢れた。

 陽は一人で夕飯にありついた。

「一人の夕飯なんていつもの事なんだけど・・・やっぱり寂しいな・・・。いつかは誰かと食べてえよ・・・」

 いつも明るい陽にしては少し後ろめたい言葉が出てきた。陽は格子から見える星空を眺める。寂しそうな目で見つめる先にはひときわ輝く一等星。

 陽は当たり前に一人で床についた。



 同じ時間、陽が見ている一等星を見る者がもう一人ーーー。

 陽の住む村近くにある深い深い森の中、人が入ることを拒む森。この森には人ならざる者たち、アヤカシが住んでいる。

 月の光が森の木々を照らし、風が優しく木の葉を揺らす。木々を分けて入ると、松の木の下に大きな岩がある。その上に見える人影。

 白い着物に青白い帯、頭には薄い生地で出来た着物を被っている。光で反射して輝く緑色の首飾り。月光に照らされたその人物は笛を吹き始める。高い笛の音が森の中に響き渡る。

 曲が終わりに近づいたころ、ひときわ強い風が笛を吹く人物の横を通る。すると笛を吹くのをぱったりやめた。

「・・・風神丸だろ?」

 笛を吹いた薄紅色の唇が微かに動いた。声を聞く限り明らかに笛を吹いた人物は女性である。女性の隣を吹いた風の正体が姿をあらわにする。

「何で気づかれたんや?」

 方言が混じる青年の声が聞こえてきた。藍色の着物を身にまとい、頭にイタチの耳が生えている。風神丸フウジンマルと呼ばれた青年は頭をボリボリとかきはじめる。

「お前を驚かそ〜思っただけや。それより、お前は何やっとるんや、十六夜」

 十六夜イザヨイと呼ばれた女性が風神丸に逆に質問された。星を見てるだけ、気晴らしに笛を吹くことの何が悪い、と言い返す。そしてしばらく経つと十六夜は空を再び見上げた。

「星が言ってる。近いうちに何かが起こるって・・・」

「嘘をつけ!」

「嘘なんかついてない。それも私たちを脅かす存在が近づいてる・・・」

「人間か?」

 すると十六夜は知らない、と首を横に振った。

 風神丸も夜空の星を見上げ頭に生えているイタチの耳をヒクヒクとさせている。二人の間を静かに風が通る。十六夜の頭にかぶせられた着物が揺れて十六夜の瞳が晒される。

 その瞳は悲しみと憎しみに満ちた緑色の瞳をしていた。月が彼女の目に神秘的に映る。星の瞬く夜空を見上げて十六夜は呟く。

「大事にならなければいいが・・・」

最後まで読んでいただきありがとうございました。

準備が出来次第、次の巻も投稿させていただきます。

もうしばらくお待ち下さい。藤波真夏(2017年5月11日 更新)

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