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おままごとの演じ方  作者: 巫 夏希
三章 退屈な日々に一欠片の非日常
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第二十四話  Superfluous

 長い会話だった。

 本人たちもまさかこれくらいかかるとも思わなかったので、私はとても焦っていた。


「梨沙、怒っているだろうなぁ……」


 私はあんな話を聞いたあとだというのに、未だ彼女と接していこうと思っていた。

 いや、接していくべきだと、寧ろそう思っていた。

 例え彼女がこの箱庭を作ったとして。

 例え彼女が常滑清治を殺したとして。

 そんな小さな問題、私にとってどうでもよかった。

 だって、今まで私に話しかけてくる人間の中で、『好意』という感情を抱いていた人間なんて、数えられるくらいしかいなかったから。

 私は好きだった。そんな、そんな思いを抱いてくれた彼女が。私に振り向いて欲しい、一瞬でも私に覚えて欲しいという気持ちで死んだ、彼女が。

 私は好きだった。私は好きだった。私は好きだった。私は好きだった。私は好きだった。私は好きだった。私は好きだった。私は好きだった。

 ……『好き』だった。


「浮かばない顔をしているね、アヤ。まさかあの野郎に何かひどいことでもされた?」


 ふと、声が聞こえて、私はそちらを向いた。

 そこに居たのは梨沙だった。私を探していたのか、息が上がっているようにも見えた。……幽霊なのにね。


「……ううん、何でもないよ。それより、梨沙。私お腹空いちゃった。これからおやつタイムと洒落込まない?」


 私は先程の会話であったことを、隠そうと思った。それを包み隠さず言ってしまえば、私たちの関係が、終わってしまうと思ったから。

 要するにエゴイズムだ。自己中心的な考え、とでも言えばいいだろうか。


「……そうだな。とは言っても私は食欲なんて無いからただアヤの食べている姿を恨めしそうに眺めるだけだが……冗談だ。そう怯えた目付きをしないでくれ」


 私は別に、そんな目付きで彼女を見たわけではないのだけれど、どうもそういう風に受け取られたらしい。まぁ、仕方無いことかと言われればそれまでだけれど。


「今日は美味しいお菓子がコンビニに入荷した……って聞いたわよ? なんでもあまりの美味しさに卒塔婆が卒倒してしまうレベルとか」


 なにそれ、色々と想像出来ないレベルだよ。まったくもって考えられない。

 ただ私は頷く。彼女と話すこの時間がとても楽しいから。

 論理的にも科学的にも説明がつけ難く、だがそれでも彼女は『生きている』。生命は絶えてしまったのかもしれない。でも私の目の前に梨沙は居る。

 彼女は幽霊だ。だが、彼女は死んでいるとほんとうに言えるのだろうか。少なくとも私はそう思わない。電柱が墓標であるとして、いや、墓標であったとしても、彼女は死んでいない。死んでいるとは思えない。現実逃避と言われればそうなのかもしれない。

 だが、どうも彼女は死んでいないと思えるのだった。彼女は未だ生きている。確かにここにいる。

 そもそも『死』の定義とは何だろうか。心音が聞こえないことだろうか。熱を感じなくなることだろうか。魂の重さだけ身体が軽くなってしまったら、だろうか。

 私は、そうとは思わない。それらとは違う定義だと思う。それらの定義に照らし合わせるのならば、確かに彼女は『死んでいる』。


「それでさっきコンビニにふらっと寄ったんだが、自動ドアって幽霊にも反応するんだな。すり抜けて入ろうと思ったら開いたからびっくりしたぞ。尤も、眠たそうにしていたその店員が一番驚いていたがね」


 こんなにも楽しそうに話す彼女を、死んだとみなすことが出来るのだろうか?

 少なくとも、私はできなかった。

 あんな笑顔を見せてくれる彼女を、私は死んだと認めたくなかった。


「……どうしたの、アヤ。体調でも悪いの?」


 だから、私は。


「ううん、大丈夫だよ」


 おままごとを演じる。

 そう、心に決めた。


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