第9話
なかなか眠りにつけない。
うーん…
一度、布団から出て、リビングに行った。
そして、冷蔵庫から、水を出した。
一口口に含んだ。
はぁー
少ししてから、布団に戻った。
再び目を閉じる。
眠れない。
はぁー
息を吐く。
もう一度目を閉じる。
「羊が…1匹…2匹…3匹…」
数え始めながら目を閉じた。
目を覚ますと、カーテンから日射しが射している。
知らないうちに眠っていたみたいだ。
眠い…
はぁー
欠伸をして背伸びをした。
いい匂いがする…
鼻がピクピクとなる。
思わず足が匂いのところへと勝手に動く。
いい匂い…
その匂いを辿ると、彼女が朝食を作っていた。
いい匂いだ。
テーブルの上には、食卓が並んでいる。
いい匂いが部屋の中に漂う。
いい匂いだ。
「座って!」
彼女は、僕のところに来て、僕の背中を押し、椅子に座らせる。
「一緒に食べよう!」
彼女は微笑みながら言う。
僕は、箸を持って彼女の料理に手をつけた。
口に中に運び、食べた。
もぐもぐ…
おいしい…
「どうですか?」
「……」
「おいしい…」
「よかった!」
そう言って微笑む彼女。
僕はその彼女の笑顔になんだか、少しだけ、ホッとした。
「今日、私、仕事休みだから、一緒に出掛けない?」
「え?」
「行こうよ!」
そう言う彼女。
「先に洗い物しちゃうから、先に支度してて!」
彼女は、急いで洗い物をし始める。
シャーシャーと蛇口から流れる水の音。
ごしごしと食器を洗う音。
そんな音たちに心が惹かれる。
耳がピクピクとする。
「出来た?」
声をかけて来た彼女。
「うん…」
「じゃあ、行くか!」
彼女はそう言って僕の手を掴み、走り出す。
「え?ちょ…」
その手は掴まれたまま、だんだんとペースが乱れ、歩き出す。
「どこ、行く?」
彼女は、僕に尋ねて来た。
「え?」
「あっそうだ!私、行きたいところがあるの!」
僕の手を離さない彼女は、そのまま、僕の手を引っ張って歩き出した。
暫く歩いていると彼女は、急にその場に止まる。
すると、そこには、男の人が立っていた。
固まっている彼女。
だんだんと近づいてくる男の人。
彼女は、
「引き返そうか!」
僕の手を掴んだまま、急に走り出す。
「え?ちょ…」
少し遠くの公園まで来て、僕の手を離す彼女。
はぁはあと息が荒い彼女。
その場で彼女は急に座り込む。
「大丈夫…」
彼女の息は荒い。
「飲み物、買ってくるから」
僕が彼女にそう言うと、彼女は僕の腕を掴んだ。
「行かないで!」
彼女の目から涙が溢れ出ている。
「大丈夫…」
そう言うと、彼女は、僕の腹の辺りに寄って来て泣いている。
ただ、しくしくと泣いている彼女。
僕は思わずそんな彼女を抱きしめてしまった。
こんなこと、前にもあったな…
僕は、彼女との思い出を浮かべる。
あの時も…
確か…
まだ、僕と付き合う前だった。
彼女は、失恋した後だった。
丁度、振られたところを僕は見てしまった。
「ごめん…」.
そう誤っている彼は、彼女に頭を下げていた。
すると、彼女は、泣いた。
隠れて聞いていた僕は、彼女がしくしく泣いている涙の音がした。
思わず、彼女の前に現れてしまった。
それに気づいた彼女は、
「見てたの?」
「………」
「ごめん…」
「うーうん…」
それから、彼女は再び目から涙が溢れている。
しくしくと泣き出した彼女。
そして、僕の腹の辺りに寄ってきて泣いている。
え?
僕はそっと彼女をそのままにしておいた。
そんな思い出に浸っていると、彼女は、
「どうしたの?」
目を丸くして言う。
「なっ…なんでも…」
「聞かないの?」
「え?何を?」
「さっきのこと」
「え?」
暫く間が空く。
「あの人はね…」
彼女は震えながら話し始める。
全体的に震えている。
僕は思わず彼女を抱きしめた。
暫く、彼女は僕の腹の辺りで泣き続いていた。
泣き終えたのか、彼女は、
「気を取り直して…行こうか!」
僕の手を握る。
そして…
「行こう!」
僕の手を握ったまま、無我夢中で走り出す彼女。
あの時もそうだったな。
走り続けて着いたところは、あの時も来たカフェの喫茶店。
その店の前に立った彼女は、
「久しぶりだね!ここ、よく、来たよね!」
懐かしんでいる彼女。
あの時も、その後、ここに来たな。
「入ろう!」
店の中に入ると、あの頃の時の店長。
「お久しぶりです」
彼女がその店長に言うと、思い出したのか、
「あっあの時のね」
「覚えているんですか?」
僕は、店長に聞く。
「覚えてるよ!よく、2人で来てくれてたよね!」
「はい!」
彼女が言う。
「まだ、付き合ってるの?」
暫く間が空く。
しかし、彼女が、
「はい!今も私たち、仲良しの恋人同士です!」
明るく答える彼女に、
え?
「ねーぇ」
僕は、
「あっあの…」
「ねーぇ!」
「あっうん…」
「そうなんだ!来てくれてありがとうございます!」
そう店長は言い、僕たちを席に案内してくれた。
席に着き、お互いにこの店を懐かしんだ。
「本当に、久しぶりだね!」
「そっそうだね…」
彼女は楽しそうだった。
注文した物が来る。
「ありがとうございます!」
彼女は、そう言いお礼をして、それに続けて僕は、頭を下げた。
すると、店長は、その場を去り、他の客のところに行った。
食べ始めていると、彼女は急に、僕に、
「何、頼んだの?」
「こーひーとイチゴのショートケーキ…」
「おーそうなんだ…」
彼女は、僕の頼んだショートケーキをホークで一部を切って口に運び、食べた。
「おいしーいー!」
微笑みながら、頬張るショートケーキ。
「ここの、ショートケーキ、初めて来た時、頼んだよね!2人して!」
あの時と彼女は変わらない。
いつだって、彼女は、自由だ。
あの時のように、彼女に惹かれそうになった。
窓から、涼しい風が入って来た。
その風に浸っていると、変装した店長に、変装した店員たち。
そして、変装したお客たちが入って来た。
僕たちのところに、その変装した1人の人が来て、
「トリックオワートリート!」
騒ぎ出す店の中。
「そっか…今日、ハローウィンだっけ!」
彼女は、混ざりに行く。
変装した彼女が僕のところに来る。
そして、
「トリックオワートリート!」
そう言う。
「え?」
「いいから!」
「トリックオワートリート…」
すると、彼女は、僕に、
「目を閉じて!」
僕はそっと閉じる。
暫くして、
「いいよ!」
そっと、僕は目を開ける。
すると…
手の平には…
あめが載っている。
「飴?」
「うん!」
そして、僕の額に彼女はキスした。
微笑む彼女に吊られて僕は、一緒になって笑ってしまった。
この彼女の笑顔は僕を少し不安にされる。
君が好きだよ
あの時からずっと
そう、僕は心の中で思った。
そして、その想いを僕の心の奥の奥の奥に閉まって隠した。
その帰り、空がオレンジ色になっていた。
「きれいだね!」
そう言う彼女。
「うん…」
「あの時の同じだね!」
「うん…」
「ねえ、あの時、どうして私たちって恋人じゃなくなったんだっけ?」
「………」
「もしさ、このまま続いていたらさ…」
「え?」
「いや、やっぱり、何もない!」
そう彼女は言って微笑んだ。
その日の夕日は、僕を照らしていた。
やっばり、君って…