第8話
吸っていたタバコの火を消し、捨てた。
そして、公園のベンチの上に横になり、目を閉じた。
「中谷くん!」
そう呼ぶ声がした。
僕は、今日も公園のベンチで寝ていた。
夢だろうか。
夢と現実の境目の中、目が開かない。
「中谷くん!」
2度目の僕の名を呼ぶ声にふわふわとしている。
それでも僕の目は開かない。
ふわふわとした感覚の中で眠っていた。
「中谷くん!」
僕は、はっと目を覚ました。
目の前には、彼女がいた。
「やっと、起きた!」
僕は辺りを見渡すと、どう見てもベンチの上ではない。
「え?僕…」
「熱、下がったみたいだね」
横になっている僕の隣に座っている彼女。
「あんなところに寝てたら風邪引くよ」
「え?」
戸惑いが隠せない僕。
「なんで…」
「ここまで、連れてくるの大変だったんだから」
「え?」
これは、夢だろうか。
そうだ、まだ、目が覚めきってないんだ」
僕は再び布団に横になり、目を閉じる。
暫くして目を開けると、場所は変わっていない。
彼女の家だろうか。
「大丈夫?」
彼女が微笑みながら言う。
そんなことをしている僕に彼女は、
「お腹…空いたでしょ?」
お盆に載せてある熱々の入れ物を持ってきた。
そして、小さい入れ物にお粥を入れ替え、
「どうぞ!」
そのお粥を見て、思わずダラダラとよだれが出そうだ。
僕は、レンゲを持ち、フウフウしながら、ゆっくりと口に運ぶ。
「おいしい…」
次々にばくばくと口に入れる。
きれいになった食器を彼女は運び、洗い場で皿を洗う。
その間、僕は、その姿の彼女を見ていた。
その時間は不思議な感じと幸せがたっぷりと満たされていた。
暫くして洗い物を終えた彼女は、
「中谷くん…良かったらだけど…」
間が大きく空いた。
「良かったらだけど…うちにいてもいいよ」
「え?」
その後に彼女は慌てて
「いつも、あそこで寝てるでしょ?」
「え?」
僕は動揺を隠せない。
「中谷くんが嫌じゃなかったらだけど…」
暫く大きな間が空く。
しーんとした空気が漂う。
「中谷くん…」
彼女の呟いたような心配そうな目に僕は心が揺らいだ。
「いいの?」
僕は小さい声で言う。
「え?」
「ここにいても…」
彼女は下をうつむいた。
暫く大きな間が再び空く。
その後に彼女は思いっきり顔を上げ僕の顔を見て微笑みながら
「うん!」
微笑みながら笑顔が満遍なく広がる彼女に再び心が揺らぐ。
そして、彼女は部屋の一つ一つを教えてくれた。
「あ、そうだ!一つだけ空いてる部屋があるから、その部屋使っていいよ」
僕に用意してくれた部屋は、太陽の日差しが入りやすく、きれいに掃除されている。
「ここね、中谷くんの部屋!」
僕はその部屋に入り、色々なところを開けてみた。
押入れの中には、布団が入っている。
その部屋の窓を開け、ジーンズのポケットからタバコを出し、吸った。
すると、暫くして、部屋のドアが開く。
「中谷くん…お風呂先入る?」
彼女だ。
「うん…」
僕は、お風呂に向かい、入った。
久しぶりだ。
気持ちいい。
心も身体もほっとした瞬間だった。
記憶が蘇る。
あれは…
高校の時だ。
彼女と久しぶりの再会の時である。
「中谷くん…」
彼女が僕に話しかけて来た。
僕はその時知らないフリをした。
だけど、彼女は、僕に普通に接して来た。
次の日もその次の日も毎日下駄箱で会う時に挨拶して来た。
隣の席だった彼女は、僕に微笑みかけてくれていた。
それなのに…
文化祭の時である。
彼女は、クラスの出し物に参加していた。
そんな様子をただ、僕は見ていた。
メイド姿の彼女に心が揺らいでいた。
暫くして、僕は、教室から出ようとした時、僕の手を掴まれた。
振り返ると彼女だった。
僕の手を掴みながら、
「行こう!」
僕の手を引っ張る彼女。そして、走り出した。
あの時も、僕の心は揺らいでいた。
手が離れないようにぎゅっと握った。
この時間が続けばいいのに…
模擬店の前に来ると、彼女は僕の手と握ったまま、
「ねえ、あれ、やろう!」
僕の答えを聞く前にそこに入っていった。
それをやった後も次々と様々なことをして、楽しんだ。
後夜祭になると、もうすでに外は真っ暗だ。
彼女と屋上に行った。
「もう少ししたら、花火が打ち上がるんだよ」
微笑んだ彼女。
「ねえ、あのね…」
中々言い出せない私。
そこに暫く大きな間が空く。
しかし、私は、思い切って口を開く。
「あ、あのね…」
そこに急にバーンと後がする。
彼女は振り返る。
「あ、花火だ!上がったよ!」
子供のように騒ぎ出す彼女。
僕は、彼女に近づき彼女の唇に…
花火の音とともに打ち上がった瞬間、キスした。
彼女は、最初驚いたから顔をしていたが、途中で目を閉じた。
口から離れた後も手はしっかりと繋がられ、再びキスした。
そして、抱き合い、微笑んだ。
その記憶に僕は、急に顔が赤くなる。
だんだんと恥ずかしくなって来た。
その日の夜、なかなか、眠りにつけなかった。