第6話
私は、お葬式の帰り、川沿いを歩いていた。
川の水がキラキラと太陽の光に反射している。
その輝きに暫く見とれていた。
少し心の中が楽になる。
はあー
息をつく。
そして、再び川沿いを歩き始めた。
暫く歩いていると近くに小さなコンビニを見つけた。
喉が渇いたし、小腹が空いたな。
車が次々に横遠っていく。
なかなか、行けないな。
はあー
再び息をつく。
車が来なくなり、横断歩道を渡ろうとした時、コンビニの前に知っている人影が現れる。
彼だ。
「中谷くん…」
呟くように彼の名を出す。
私の声が届くはずがない距離なのに、彼は、その私の声に反応したかのように彼が振り返る。
そして、お互いに目が合った。
「中谷くん…」
思わず声に出る。
彼は、私を見て驚いたような顔をしている。
そして、吸っていたタバコが彼の口から飛び出すように地面に落ちた。
目を逸らし始める彼。
「中谷くん!」
急に彼は無我夢中に走り出し始める。
そんな彼を無我夢中になって追いかける。
「待って!ちょっと待って!」
彼はそれでも後ろを振り返りながら走る。
「中谷くん…」
息が切れる私。
はあはあ
「待って…どうして…」
はあはあ
私の足が止まってしまい、彼の姿が見えなくなる。
はあはあ
息が荒い。
真実を知りたい。
彼が殺したのかどうか、ちゃんと知りたい。
そんなことを考え込んだ。
取り敢えず、私は、家に帰ろうと足の方向を変えた。
だらだらと歩きながら考えた。
家の近くまで来ると、中学の時のクラスメイトであった中川くんだった。
「あ、ひ、久しぶり…」
「久しぶり…」
「出かけてたんだね…」
「あ、はい…」
まるで初対面のような感じである。
暫く間が空く。
「あ、あの…」
口を開く中川くん。
「うん?」
「あ、あのさ…中谷くんのことなんだけど…」
ゆっくりと話し始める中川くん。
きっと、次に彼に消されてしまうのは…
何となく予感が働いた。
「ねえ、中谷くんに何があったの?」
「…」
中川くんは、彼と一時期仲が良くて高校も彼と同じだ。
勉強ができ、スポーツはまあまあそこそこだけど、悪いわけではない。
さらにゆっくりと話し始める。
それは、彼を変えてしまったということを意味していた。
私は中川くんを助けようと彼に提案した。
何よりも彼を助けるために。これ以上罪を重ねさせないために。
中川くんは、その私の提案を聞いてくれた。
しかし、3週間が過ぎようとした時、唐突だった。
高校の友達の森さんが亡くなったというお知らせのハガキが届いた。
「え?」
「え?」
信じられない。
なんで、彼女なんだろうと思った。
彼ら達の話を聞いて彼女はどこにも宛になるところがないからだ。
「え?」
「どうして?」
クエスチョンマークが私の頭の中に沢山浮かぶ。
何かあるのだろう。
何もないのに傷を付ける人ではない。
彼は、私にすごく優しかった。
新たに記憶が蘇る。
中学3年生の時であった。
受験が始まろうとしていた。
第1希望の学校に受かるのが難しいと言われていた。
それでも、私は、その学校では一本で受けていた。
毎日毎日放課後自習室で、真っ暗な外でもギリギリまで勉強をして帰って行った。
心の中で合格しますようにと祈りながら。
必死になる。
手の平が、鉛筆で真っ黒になる。
指にはタコができていた。
そんなある日であった。
いつものように、放課後遅くまで勉強をしていた。
一つ空けた席に彼が座っていた。勉強をしていた。彼も必死のようだ。
窓から風が入ってくる。
涼しい。少し休憩をした。
はあ〜
疲れた〜
机の上に顔を寝かせる。
その時だった。
私の頬に冷たい物が当たる。
「冷たっ!」
口に出る。
すると、彼が私の頬に冷たいお茶を当てていた。
「お疲れ様!」
私は身体を起こすと、彼がお茶を持った手を伸ばす。
「どうぞ!」
私は、受け取る。
そのお茶の入ったペットボトルに何かが書かれていた。
"お疲れ様!いつも頑張ってるね!合格するようにいいね!頑張ってるね!"
黒のマッキーのマジックでメッセージが書かれていた。
「ありがとう…」
知らないふりをする彼。
私は嬉しさでいっぱいだった。
そして、そっと微笑んだ。
その後に彼は、私にキャンディーを渡してきた。
何よりもすごく甘かった。
そのキャンディーを舐めながら私は再び勉強を始めた。
その日の帰り、彼はわざわざ私を遠い家まで送ってくれた。
その日の夜空はどんな夜空よりも遥かにきれいだった。
そんな記憶が私を動揺された。
彼と話したい。彼に伝えたい。
私は、心の中でそう思った。
彼が人を殺すなんて傷つけるなんて私は考えることができなかった。
警察からの連絡がしばしば来るようになった。
それは、あまりにも信じがたい衝撃的なことばかりだった。
あと6人…