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第4話

「今日も来ないな…」


思わず口に出ている。


友達の悠里ちゃんは、そんな私を見て


「来ないね…」


何気なく答えてくれる。


「え?」


悠里ちゃんは微笑みながら口に出てるから。


「あ、ははは」


「誤魔化せてないよ」


「えへへ」


「本当、誤魔化すの下手だよね」


「ははあ」


悠里ちゃんは、微笑みながら話してくれる。


私は、隣の席が空いてから、気になっていた。


「今日も来ないな…今日も来ないな…」


どうしたんだろう。


次はいつ来るかな?


久しぶりに来たのは、6年生になってからだった。


しかも、クラスが別れてからだった。


それまで、全然来なかった彼は余計に強張った顔をしていた。


廊下ですれ違っても、偶然会っても、挨拶しても彼は答えてはくれず、通り過ぎて行くだけだった。




体育祭の時だった。


走っている途中に私は、後ろから走ってくる人に当たり転んだ。


足から大量に真っ赤な血が流れている。


痛い。


ダサいな自分…


水道で血を流してながら、そんなことを思っていた。


「大丈夫?」


後ろから声をかけられた。


振り向くとそこには彼がいた。


「大丈夫?」


そんなこと、彼は覚えてないだろう。


だけど、その時、私はすごくうれしかった。


「大丈夫だよ、これくらい」


すると、彼は、私を突然お姫様抱っこをして、歩き始める。


「え?」


「…」


「あの…」


「いいから!」


そのまま、彼は、私を保健室へと運んだ。


「先生!」


彼は叫ぶように呼ぶ。


しかし、返答がない。誰もいないようだ。


保健室の窓から涼しい風が入りカーテンが踊り始めた。


彼は、何も言わずに私を保健室のベットの上に乗せ、手当をしてくれた。


私の足に消毒をする。


消毒がすごく染みる。我慢していた。


だけど、思わず口に出る。


「痛い…染みる…」


足から大量に流れていた真っ赤な血は、きれいに拭き取られていた。


「染みる…」


「大丈夫?」


心配そうな顔をして彼は言う。


「もうちょっとだから!我慢して!」


優しい口調で彼は言う。


「はい…」


そして、そんな彼をじっと見てしまっていた。


真剣そうにしている顔だった。


その時は、久し振りに彼は、とても優しい顔をしていた。


そんな彼の顔を思わず見惚れ目しまった。


「何?」


突然聞く彼。


「何も…何もないよ…」


「あっそう」


彼は、私の足の傷口に絆創膏を貼ってくれた。


風が静かになる。カーテンが少しゆらゆらと揺れている。


再び、彼の顔に見惚れてしまう。


「どうしたの?」


気付いた彼は私に問う。


私は慌ててうつむきながら、答えた。


「なんでもないです…」


下をまだうつむいていた私は、だんだんと恥ずかしくなって来た。


頬が赤く染まる。




暫くして、


「終わったよ」


「はい…」


「これで大丈夫…」


上をむけない私。頬がまだ真っ赤である。




暫く間が空く。少ししてから私の手を引っ張り、


「よし!行こうか!」


微笑んでいる彼。その姿を見て私は、


「うん!」


思わず彼の微笑みで微笑んだ。



あの時、君がキラキラしているように見えた。


それからだ。特に彼を気にし始めていたのは。


いつもいつも知らないうちに目で彼を追っていた。




あれは夢だったのだろうか。


そんな優しい彼がなんで…


私は信じられなかった。あの優しい彼はどこに…


クラスメイトだったリーダーとしていた人のあれを見た時も彼は私に優しかった。


恐怖でいっぱいだった私を強く抱きしめてくれた。


彼は、私の前でそんなことしてない。


なんで…


咄嗟にそんなことが思い浮かんだ。


文化祭の時も実行委員だった私は、資材や材料を運んだりした時もその場所で友達といたけど、彼は、


「ちょっと…」


と言い、私の持っていた物を運んだり準備を手伝ってくれたりもしてくれた。


そんな優しい彼が悪夢のようなことをするはずがない。


彼がいじめられている姿を私は見たことがない。


一度だけ見たことがあるけど、その時は彼を助けることができた。


学校の配布物を彼の家まで届けに行くこともしばしばあった。


でも、毎回彼が出ることはなかった。


その度に2階の窓を見るとカーテンは閉まっていた。


彼はどうしているのだろう。


それだけが頭の中を走る。




記憶たちが私に降らせる。


どこに行ったのだろう。


窓の外を覗くと、大雨で雷が部屋の中で響いている。


風も次第に強くなっていく。


あれから、彼に暫く会うことがなかった。


私は探した。彼を。毎日毎日。


そんな中、一つの電話が鳴る。


「もしもし…」


「…」


そして、切れた。


それが何日も続いた。


悪戯電話だろうか。


久しぶりに2週間経ってかかってくる。


「もしもし…」


「…」


やはり、何も返ってこない。


でも、電話は切らなかった。暫くして、


「あの…」


驚いた。


それは、山橋くんが亡くなったという電話だった。


「え?」


動揺を隠せない。


「もしかして…会わない間に…」


「え?」


言葉を失う。


その夜は、恐怖しかなかった。


テレビを急いで付けた。


しかし、彼の名前も顔も出てこなかった。



ねぇ、君なの?


今どこにいるの?




僕は、実行した。


偶然会ったのだ。山橋に。


山橋は、僕に気づき、走った。


僕は、本能のまま、追いかける。


行き止まりになったところで僕は、彼に近づく。


「止めて…」


怯える山橋。


「あの時は…ごめん…」


僕は、その言葉に驚いた。僕のことなんて覚えていないと思っていたからだ。


「覚えてたんだ…」


山橋は、


「え?」


「そんなこと覚えてねえよって言われるかと思った…」


「…」


山橋は震えている。


僕は、ポケットからナイフを出す。


そして、山橋を思いっきり…




次の日、お葬式のお知らせのハガキが届いていた。


それは、山橋くんが亡くなったというもの。


その時、私は、思わず咄嗟に彼を探す。


ダメ!ダメ!


心の中で叫ぶ。


叫んでも彼に届かない。


これ以上…


止めたい。止めて!罪をこれ以上…


自然とわたしの目から涙が出る。


君は、どうしてそんなに自分を傷つけるの?


私はなかなか眠ることができなかった。


次の日、山橋くんのお葬式が開かれた。


そこには、山橋くんの奥さんがいた。


山橋くんには、子供が2人もいた。奥さんのお腹の中にも子供がいるようだ。


そんな幸せを壊してしまった。


山橋くんの飾られた写真の前で奥さんは泣き崩れている。


彼の姿は見えない。


そんな時、黒い人影を感じた。


なんだろう。


お葬式が始まった。


「南無南無南無南無…」


お坊さんがトントンと叩いている。


周りは涙がいっぱいだ。


彼らしき人がすぐ斜めのところにいる。


しかし、お葬式が終わった後、すでに彼はその場にはいなかった。


悠里ちゃんが隣に座っていた。


彼女は、私に話しかけて来た。


「そう言えば、こないだ、会ったよ」


「誰に?」


「早瀬くんに」


「え?」


「なんか、言ってた?」


そんな話のやり取りをしていると、クラスメイトだった山原くんが話しかけて来た。


「あのさ…」


静かに話し始める。


彼の話を聞いて私は驚いた。


それは、とても悲しいことだった。


風も静かに吹く。


そして、桜の花びらが窓から入って来た。


そこの近くに桜の木があり、満面なく桜が咲いていた。


だけど、その桜は、恐怖と悲しみしかなかった。

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