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初恋は猫に似ている  作者: 久行ハル
9/18

ソラの日記 一月三十日

 今日はとてもさむい日だった。朝からつめたい雨がふっていて、窓から見える研究所の人たちもコートのせなかを丸めてカサをさしていた。


 だからというわけでもないだろうけど、今日のとうやは自宅きんむだった。実験がある時は研究室に行かなければならないけど、たくさん資料を作らなければならないような時は、人にじゃまされない自宅の方がのうりつがいいと言っていた。


 部屋のなかは空調がきいていていつもどおりにあたたかい。太陽の日差しがないので、陽だまりで体をまるくする楽しみはおあずけだけど。



 ひるまえの十一時ごろだったろうか、とつぜん大粒の雨が白い粒がふってきた。見る間に視界ぜんぶが白くなり、遠くの建物は見えなくなった。白い粒はそのまま地面にたまっていって、そらも地面もみるみるうちに真っ白になっていった。


 わたしはこうふんして仕事中のとうやを引きずり出す。


 みてみて、とうや! なにか白い物で世界がおおわれていくよ!


 普段なら仕事でいそがしいとかなんとか言ってなかなか席を立たないとうやだけど、今日はめずらしく興味をひかれたかわたしの後をついてくる。


 ああ、これは初雪だな。


 とうやは一言で片付ける。


 雪ってあの北の方に積もるっていう雪? ここにも積もるの?


 わたしがきくと、冬夜は黙ってうなずいた。



 動画で見た雪はもっとサラサラしてて、風に舞う白銀の粉みたいに見えたけど、いま目の前にふっているのはもっと大粒でしめった感じだった。でも、雪は雪だ。


 ねえ、外に行ってもいい?


 わたしが言うと、とうやは首を横にふって、お前にカゼでもひかれちゃ困る。雪を取ってきてあげるよ、と言った。


 とうやの持ってきた雪は、洗面器の中に入れられ、こんもりと盛り上がっていた。まるで色の付いていないフラペチーノみたいだ。


 おそるおそる触ると、その冷たさにわたしはびっくりした。でももっと興味がわいた。慣れれば冷たさもそう気にならない。ぐずぐずになるまで雪をつつき回してわたしは満足した。


 どうだったソラ?


 とうやがきくので、つめたいけど面白い! とこたえた。


 その時、外からおーいという声が聞こえた。窓の前まで行くと、はるきが手を真っ赤にして雪を集めていた。あんなぐずぐずの雪をたんねんに固めたのかはるきのひざ上まである雪の玉と、もう少しちいさな玉ができていた。


 とうやはめずらしくにやりとした笑みを浮かべ、キッチンの方へ向かっていった。わたしは窓の外のはるきにむかって何を作っているのかきいた。


 見てろよ、いまにわかる。


 はるきはそう言うと小さな玉を苦労して持ち上げて大きな玉の上にのせる。見た目以上に重そうな感じだった。


 その時、とうやがはるきの横にあらわれた。手にしたふくろの中からいろいろ取りだして雪の玉に細工をはじめる。上の小さな玉の真ん中にニンジンを根元からさして、夏の屋外パーティでつかった木炭を丸い断面を上にして二つさし、横にしたままのをその上にうめこんだ。最後に毛糸の丸いぼんぼりのついたぼうしを上からかぶせる。


 ほらこれが雪だるまだ!


 はるきが得意満面な笑顔で笑いながら言う。たしかにちょっと怒ったような顔の雪像ができていた。


 いつのまにかいなくなっていたとうやが戻ってきて、枯れ木の枝を雪だるまの両脇にさし、そこに手袋をひっかける。


 完璧だ!


 はるきはそう言うと、とうやとハイタッチをする。とうやのほおが少し上気してる。ふだんはあまり干渉し合わない二人だけど、こういうのはいいなとわたしは思った。

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