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初恋は猫に似ている  作者: 久行ハル
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ソラの日記 三月四日

 渋い顔のままでとうやはソファにこしかけ、ローテーブルの上の一点をにらみつづけている。


 向かいあったソファでは昨日の経緯をはなしたわたしとはるきが、とうやの言葉をいまかいまかと待ちつづけている。とうやがさっきから一言もしゃべらないのが、かえって圧迫される空気をつくりだしている。


……あー、とうやはソラをどうしたいと思ってる?


 沈黙にたえきれず、口火を切ったのははるきだった。とうやははるきに視線だけ向けると目を閉じてしまった。あせったはるきは急に多弁になる。


 いや、おれだってこんなことが世間に知られたら大スキャンダルだと思うよ。でも、いまのおれたちの立場なら、このひとく研究所でソラを純粋クローン体の人間に移植するていど、よゆうで予算をとおせるだろ。それにこれはソラの望みなんだ。おれはかなえてやりたい。そのためには、とうや、おまえの力がどうしても必要なんだ。


 身ぶり手ぶりをまじえたはるきの熱弁を、とうやはただじっと聞いている。わたしもなにかしゃべらなくちゃと思ったけれど、うまく言葉がでてこない。それでも必死に考えて、とうやのまるで苦しんでいるような表情を見るとぽんとことばがでた。


 とうや。とうやはわたしのことを家族だとおもってる?


 そのことばにとうやは目を開き、わたしとはるきを交互にみつめてから口をひらいた。


 もちろんだ。ぼくらとソラは種族はちがうけれど、赤んぼうのころからいっしょに育った大事な家族だ。……だからこそなやんでいる。ソラを人間と同じにしてしまった先のことを。


 なんだよとうや、はっきりしねえな。


 はるきが少し声をあらげる。わたしはこのままけんかになるくらいだったら、この分不相応な望みはあきらめるしかないのかと胸がしめつけられる気持ちになった。


 はるき、おまえだってわかっているだろう。ぼくらの寿命のことを。


 とうやがそういうと、はるきは目をふせた。


 そんなことは言われるまでもない。だからおれは抗老化の研究を続けている。


 でも、現実にぼくらに残された時間は短い。ソラにいたってはぼくらよりもさらに短い。正直に言おう。……ぼくは家族をうしなう痛みにもう耐えられそうにない。


 その言葉に、はるきは急に立ち上がると、研究室に行ってくるとだけ言いのこして去ってしまった。のこされたわたしにとうやはゆっくりと語りかける。


 いじわるでこんなことを言っているわけじゃないんだ。ただ、ぼくにもまだ心の整理がつかない。ソラは純粋な心をもっているから、その望みはできるだけかなえてあげたいと思っている。もう少しだけ時間をくれないか。


 とうやはいつも真剣だ。うそはぜったいに言わない。とうやを信じてわたしはこくりとうなずいた。

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