ソラの日記 三月一日
もう本当にアタマにきた。わたしはしっぽの先まで怒りが充満して、毛を逆立てたままばくはつしそうだった。
リビングのスクリーンに映っているのは、とうやとはるきの同僚の女の子。はるきにどうしても連絡がつかないから、とうやに電話をかけてきたらしい。
りさとなのる女の子は泣いていた。一方的に別れようというメッセージが来てそれい以来はるきへのメッセージの返事はなく、たまに研究所ですれ違っても無視されると言う。
とうやははるきの肩を持つわけでもなく、それでいてりさといっしょにはるきを責めるわけでもなく、たんたんとりさの話を聞いていた。一通り聞き終えると、とうやは携帯端末のカメラに向かって正座して手を前につきふかぶかと頭を下げた。
カメラの向こうのりさがおどろいて、やめてください、先輩は関係ないです、などという声が聞こえる。
いや、はるきの不始末はぼくの不始末もいっしょだ。お願いだからあやまらせてくれ。
さすがにここまでされると恐縮にかんじたのか、りさは私こそ先輩にグチを聞いてもらってごめんなさい。あんなやつのことはもう忘れます、と言い通話を切った。
わたしははるきがまた女の子をふった事に驚き、胸をしめつけるような怒りを感じていた。
ねえ、とうや。はるきはどうしてあの子をふったの?
そう聞くととうやはふだんから愛想のない顔にさらにみけんにしわを寄せて一言づつ言葉をしぼりだす。
あいつの悪いクセだ。一人の女の子を好きな間は本気なのかもしれないが、別の子のことが気になるとすぐにふってしまうんだ。本人に悪気がないのがまたタチが悪い。
はるきはわたしのことをずっと好きだって言ってくれたよ!
わたしがけんめいにそう言うと、とうやはわずかにほほえんだ。
それは信じていい。ぼくらとソラは家族と同じだ。ずっと関係が変わることはないよ。
そう聞いてわたしは少し心が軽くなったけど、それは他の女の子たちと同じように、恋人としては一生見てもらえないということだ。そう思うとやるせない気持ちでいっぱいになった。
そんなしょげたわたしの様子を見てどう思ったのか、とうやは頭をなでてくれる。
ソラがそんなに気にすることはないよ。はるきのやつはやつで、自分を守るために一生懸命なんだ。ただそのやり方が常識ではかれないだけで。理不尽だと思うだろうけど許してやってくれ。
とうやの言っていることはまだおさないわたしにはまだよくわからない。はるきが好きな気持ちは変わらない。どうすればはるきはわたしを恋人として見てくれるだろう。いまのわたしには、それはとても遠い課題のように思えた。