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初恋は猫に似ている  作者: 久行ハル
12/18

ソラの日記 二月二十二日

 朝おきたらとうやがめずらしくほほえみを見せてこう言った。


 ソラ、朝はなにが食べたい? 特製猫まんまでもマグロのたたきでもなんでもいいぞ。


……あのとうやがわたしを甘やかしてる! わたしはあまりのいわかんに、いっしゅん声が出なかった。


 じゃ、じゃあかつぶしまみれの特製猫まんまがいい。


 オーケー、ちょっと待ってろよ。


 いつになくきげんのいいとうやに、わたしは二、三歩後じさった。



 ほーら、かわい子ちゃん見つけた!


 後ろからわたしをすくい上げたのははるきだ。はるきは鼻歌をうたいながらわたしにほおずりをすると、器用にわたしを大きな手で自分の目線まで抱え上げた。じっとわたしの目を見ると、少ししばいがかった口調で話しだす。


 ほら、おれはさ、気が多いっていうか天才じゃん。正直これまで人生なめてた。おれの手にかかればどんな研究もどんな女も思いのままってね。でも気づいたんだ、おれが愛してるのはソラ、お前ひとりだって!


 あまりのことにわたしはなにも考える事ができなくなった。きっと口をポカーンと開けてたと思う。


 これからはソラを死ぬまで……いや、ずっと愛することをちかうよ。もちろん研究もソラのためになることを最優先にする。


 よく回るはるきの舌とは正反対に、わたしの声はかれたままだ。やっとのどから声をしぼり出す。


……う、うん。ありがとう。


 いや、そうじゃなくて! もっと言うことあるでしょ、わたし! 心の中でツッコみつつも、はるきの言うことがとうとつすぎて、のどに魚の骨が刺さったみたいに飲み込めない。


 うん、うん。わたしもやさしいはるきが大好き! これまでもこれからも、はるきはわたしだけのモノよ!


 ようやく調子をとりもどして、わたしも高らかに宣言する。はるきはわたしをダイニングテーブルの上において、中世の騎士みたいにひざまずいて頭をたれる。剣がないのでわたしは右足でポンとはるきの頭を素手で打った。



 おい、リップサービスもやり過ぎると罪になるぞ。


 朝食をテーブルの上に並べながらとうやが小声で言う。ところでリップサービスって?


 三人でテーブルを囲むといつものように、いただきます、で食事がはじまる……前にとうやとはるきが互いにめくばせをする。


 ソラ! ネコの日おめでとう!


 二人は声を合わせると、どこから出してきたのかクラッカーをポンポンと鳴らす。

 え、え? ネコの日?


 ああ、ソラは知らなかったのか。


 はるきがいつもどおりのちょっとにやけた表情で言う。


 今日は二月二十二日だろ。二が三つでニャンニャンニャンだからネコの日。今日はなんでもわがまま聞いちゃうぞ~。


……ああ、そんなことだろうと思った。妙に出来すぎだったもの。わたしは納得するとともに、さっきのはるきの言葉は真実じゃないと知ってがっかりした。ちょっと泣きそうになった。


 うん……二人ともありがとう! じゃあ今日は一日ずっとあそんでね!


 自分で言うのも気恥ずかしいけど、わたしは本当によくできた猫だと思う。

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