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初恋は猫に似ている  作者: 久行ハル
10/18

ソラの日記 二月十日

 とうやにキャリーに入れられて、ひさしぶりに来た研究所はやっぱり寒々としていた。ひとは多くはたらいているけど、それぞれに関係がない感じ。


 ひさしぶりといっても、一か月ぶりくらいかな? わたしはものごころついてから定期的に研究所のなかの病院で健康しんだんを受けている。


 しんだんがはじまると、ほぼ女性ばかりの看護師さんや技師さんがてぎわよく処置をしてくれる。その間とうやは主治医の先生と話をしているらしい。



 いちばん怖い採血の順番がやってきた。むかしとくらべてしんだんに使うそうちもずいぶん進歩して簡単になったとねんぱいの看護師さんは言うけれど、採血に使う注射器ばかりはあまり変わらないらしい。


 そのねんぱいの看護師さんはわたしをうけとると、まるで柔道のわざでもかけるようにくるりとわたしをあおむけにして、あごが上になるように左手でくびすじを押さえる。注射器を持った方の手でわたしの首をなでるといつの間にか針がささっている。


 はい、終わり。ソラちゃんいたくなかった?


 明るく声をかけてくれる看護師さんにわたしは、ありがとうございましたとお礼をした。いつだったか注射のうでまえの高くない若い看護師さんに、手とか足とか何回も針をさされて、結局この看護師さんに代わってもらって以来のつきあいだ。

 

 ソラちゃんはちょっと血管が細いから、もっと運動して血管を太くするのよ。


 これもいつものセリフ。筋肉が増えると血管も太くなるらしい。こくりとうなずくとわたしはまた次のしんだんの部屋まで運ばれていった。



 結局健康しんだんには小一時間かかった。最後はとうやといっしょに主治医の先生の話を聞く。カーテンごしにてるまえがどうとか小声で話しているのが聞こえる。


 わたしが入ると五十代くらい白髪交じりの短髪が特徴の男の先生が向き直った。大きな目でわたしをじっと見つめたあと、人間のかんじゃさんにするみたいに、わたしにイスをすすめた。


 うん、ソラちゃん。特に問題はないね。ちょっと体重が少ないから。もう少し食べて運動もしてみようか。


 また運動をすすめられた。家ネコのわたしはひだまりで昼寝をしているのがいちばん好きなんだけどなあ。


 先生はまたとうやに向き直って、与える食事の注意やクスリの量のはなしをしていた。



 かえりぎわ、わたしはとうやに毎回問題なしなんだから、もっと健康しんだんは少なくてもいいのに、と言った。とうやはなにか考え事をしているのか上の空だ。


 ねえ、とうや! と少し大声で言うと、いまわたしを抱いて病院のろうかを歩いていることに気がついたかのような顔でとうやはわたしを見た。なにか不安げな悲しそうな顔をいっしゅん見た気がした。


 ああ、でもしんだんは定期的にちゃんと受けないと意味がないんだ。僕らは実験動物だからね。


 キャリーに入れられて家に帰ると、とうやはまたすぐ仕事に戻っていった。そのあいだわたしととうやは一言も口をきかなかった。

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